籠から出た鳥 その一
場所は波輪港。
馬車から降りた。
秉核は言った。
「じゃあね」
秉核は礼儀正しく御苑家の使用人に手を振った。波輪港まで護送してきた御苑家の使用人も、何も知らないまま笑顔で秉核に手を振り返した。
まるで旧知の間柄のような、別れの空気が流れた。
御苑家の馬車屋の男たちに見送られながら、秉核は工具箱を提げ、軽やかで楽しげな足取りで歩き出した。波輪港の行き交う人混みの中へ消えていった。
御苑家の使用人たちの視線から離れると、秉核はさっそく街をぶらつき始めた。
通りには、鯨油で揚げた食べ物の匂い、馬糞の臭い、そして花の香水の香りが満ちていた。
通りには馬車が行き交い、ロバが引く荷車もあり、秉核は自転車まで目にした。
それは帝都で自分が製造した自転車だった。
秉核は波輪港の人々の商才に思わず感嘆した。
「こんなところまで売れてきたのか」
御苑家の田園経済と比べれば、波輪家の領地は明らかに港町の商業経済だった。
この家系は機械技師と船乗りを数多く輩出してきた。
中位職業は機械制御者と船長で、もちろん騎士の血筋もある。
……
この家系の由緒は侯爵の爵位にふさわしい。機械分野では相当な影響力を持っている。
数ヶ月前、天体塔機械学院が補充試験を行った際、波輪家への特別な配慮がその一端を窺わせた。
現在の蒸気船産業でも、波輪家の工場にはその影響力と経済力が如実に表れている。
例えば銃焰家の機械技師や機械制御者は、軍需生産の閑散期になると、飛行船や列車でポーレン港へ送られ、船舶の生産に加わる。一方、銃焰家の工場には銃焰家の機械技師しかいない。これは波輪家が銃焰家よりもはるかに裕福であることを示している。
もし今、秉核が命知らずにも波輪家の造船拠点を訪れれば、家族の知り合いに『驚き』とともに出会うことになるだろう。
……
賑やかな通りで三十分ほど当てもなくぶらついた後、秉核は小さなノートを取り出し、計画を立て始めた。
第一歩は、一定量の食料と二着の衣類を買うこと。
最後に船の切符を買うことだった。
……
四十分後、ポーレン港の中央遠洋広場の真ん中には、一つの彫像が立っていた。
彫像は船の上に立ち、夜明珠を掲げる女神だった。三メートル四方の石台の上に据えられている。
船首の部分が突き出しており、その下に日陰を作り出していた。
秉核は帆布の背嚢を背負い、街の十字路にある彫像の台座に腰を下ろし、船の彫像の下にある魚の彫像に頭を寄せて、買ったばかりの干し魚を噛んでいた。秉核は長い足をぶらぶらと揺らし、革靴で地面を擦るようにしながら、のんびりした様子でつぶやいた。
「世界は広い、見てみたいな」
中位職業者に昇格した後、この河口の街へ逃げ込んでから、数ヶ月にわたって抱えていた心理的な圧力は徐々に消えていった。
そして今は、籠から出された鳥のような高揚感に包まれていた。
干し魚を食べ終えると、秉核は通りの角へ行ってしゃがみ込み、銅板を十枚取り出した。
そこにいる乞食に尋ねた。
「ここに密航船があるだろう」
乞食は無表情で銅板を奪い取ると、目を閉じて何も言わなかった。
秉核は呆然とし、さらに銅板を十枚取り出した。
乞食は黙ってそれを受け取った。
そして言った。
「密航船はあるが、お前が行くべき場所ではない。早く家に帰れ」
秉核は少し腹が立った。
金をもらいながら仕事をしないのは品がない、と思った。
しかし突然、乞食が子供を見るような目で自分を見ていることに気づいた。秉核は少し立場を変えて考え、心の怒りをいくらか鎮めた。
秉核は心の中で無力に首を振った。
「確かに、今の年齢で外に出るのは、ほとんどの人にとって自殺行為に見えるだろう」
乞食は、秉核が裕福な家の子で金を持っていると見て、金をせびった。
そして乞食は、金を要求したうえで、彼(乞食)の目に映る秉核にとって最善の選択は引き返すことだと告げた。
――ある意味、これは一種の善意だった。
……
秉核は心の中で、遠い記憶にあったかのようなその言葉をつぶやいた。
「貧しい者と数十円のことで争ってはいけない。彼らの置かれた状況では争えないのだ。貧者の善意を得たければ、彼らの致命傷を踏まぬよう細心の注意を払え」
秉核は財布を取り出した。中には全部で二十リラ入っていた。秉核は少し躊躇してから十五リラを取り出すと、乞食の服の裾に押し込み、呆然とする乞食に笑いかけた。
「ありがとう」と言って踵を返し、去っていった。
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