空振り その二
この御苑家の当主は、このとき初めて、御苑家でただ飯を食っていた秉核がいなくなったことを知る。
さらに詳しく問いただすと、荘園の夜警の口から、秉核が一昨夜、波輪家の馬車に乗って逃げ出したことがわかった。
……
三十分後、子爵は青ざめた顔で、二十人以上の使用人が大広間で跪いているのを睨みつけた。
二人の帝国憲兵隊長は、奇妙な表情を浮かべていた。彼らはすぐさま帝都に連絡を取ると、同時に人手を波輪港地区へ向かわせた。
帝都からの憲兵たちは、事態が少し面倒になりそうだと感じていた。
……
三時間後、一隻の飛行船が御苑家の上空に飛来した。御苑家の人々は、遠くの空を飛行船が飛ぶ姿を何度も見てはいたが、
しかし、飛行船が頭上に浮かんでいるのを御苑家の人々が目にするのは、これが初めてだった。庭園では、優雅なドレス姿の綺絢嬢も、エプロンを締めた恰幅のいい年配のメイドも、そろって顔を上げ、この工業時代が生み出した巨大な物体を驚きの目で見つめていた。
黒い巨大な飛行船が高度五十メートルに鎮座し、間近で飛行船を見るのが初めての田舎者たちに、心理的な衝撃を与えていた。
注。各旅客飛行船は整備士による整備が必要で、さもなければ安全上の危険を生じる。帝国がこの交通手段を派遣したことからも、秉核の行方をどれほど重視しているかが窺える。
無表情な帝都情報総署の許令署長は、御苑子爵とごく形式的な挨拶を交わした。
そして人々より一足先に荘園へ歩き出し、案内役の従者を不自然な形で後ろから追いかけさせた。
御苑家の荘園の詳しい配置はすべて情報課に記録されており、許令は到着する前からすでに暗記していた。
数分後、許令は対象者の居室や着ていた衣服を調べた。
さらに複数の使用人の証言をもとに、いくつかの工具の残骸を見つけ出す。
部下の偵察能力を信用していなかった許令は、自らそれらを検査していた。
鋭い観察力を持つこの情報部長は、秉核の日常生活の痕跡を細かく調べ上げ、秉核の計画と動機を分析しようとした。
この有能な情報長官は、多くの貴族の思惑を巧みに読み解き、これまで何度も皇室のために貴族たちの陰謀を嗅ぎ当ててきた。彼は陛下にとって最強の鷹犬だが、今回ばかりは失敗した。今のところ、秉核が何を考えているのか、まったく把握できていない。
自由奔放な秉核は、監視のない状況では、三分は計画どおりに、七分は興味の赴くままに行動していた。
……
二時間を無駄にした後。
御苑家の廊下で、いらだちを隠せない許令は、地元の情報班員に低い声で詰め寄った。
「奴は?まだ追いついていないのか?」
ポーレン港へ向かった情報員がいつまでも戻らないことが、この情報長官の気持ちをますます苛立たせていた。
白琳行省の二人の情報官は、有効な答えを返せなかった。
白琳行省の情報分析班長は、猶予を請うような口調で言った。
「長官、ポーレン港は非常に広く、調査には(吃り)、時間がかかります」
許令は冷ややかに言った。
「ポーレン家のスパイに連絡しろ。ポーレン家が何か動いていないか確認させろ」
……
秉核が帝都から逃げ出した際にも、波輪家の偽名を借りていた。そして今また、波輪家の馬車に便乗して逃げている。――この二つの偶然が重なり、混乱気味の許令は、つい疑念を抱かずにはいられなかった。沿海の名門であるこの家が、秉核の一件に何か関わっているのではないか、と。
まったく手がかりのない状況で、情報部の長は今、疑心暗鬼に駆られていた。




