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帰向  作者: 凛光穂
第三巻 緊迫の逃亡?刺激的な逃避行!いたずらな旅

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空振り その二

 この御苑家の当主は、このとき初めて、御苑家でただ飯を食っていた秉核(ヘイカク)がいなくなったことを知る。


 さらに詳しく問いただすと、荘園の夜警の口から、秉核(ヘイカク)が一昨夜、波輪(ポーレン)家の馬車に乗って逃げ出したことがわかった。


  ……


 三十分後、子爵は青ざめた顔で、二十人以上の使用人が大広間で跪いているのを睨みつけた。


 二人の帝国憲兵隊長は、奇妙な表情を浮かべていた。彼らはすぐさま帝都に連絡を取ると、同時に人手を波輪(ポーレン)港地区へ向かわせた。

 帝都からの憲兵たちは、事態が少し面倒になりそうだと感じていた。


  ……


 三時間後、一隻の飛行船が御苑家の上空に飛来した。御苑家の人々は、遠くの空を飛行船が飛ぶ姿を何度も見てはいたが、


 しかし、飛行船が頭上に浮かんでいるのを御苑家の人々が目にするのは、これが初めてだった。庭園では、優雅なドレス姿の綺絢(キケン)嬢も、エプロンを締めた恰幅のいい年配のメイドも、そろって顔を上げ、この工業時代が生み出した巨大な物体を驚きの目で見つめていた。


 黒い巨大な飛行船が高度五十メートルに鎮座し、間近で飛行船を見るのが初めての田舎者たちに、心理的な衝撃を与えていた。


 注。各旅客飛行船は整備士による整備が必要で、さもなければ安全上の危険を生じる。帝国がこの交通手段を派遣したことからも、秉核(ヘイカク)の行方をどれほど重視しているかが窺える。


 無表情な帝都情報総署の許令署長(キョレイ)は、御苑子爵(ギョエン)とごく形式的な挨拶を交わした。


 そして人々より一足先に荘園へ歩き出し、案内役の従者を不自然な形で後ろから追いかけさせた。


 御苑家の荘園の詳しい配置はすべて情報課に記録されており、許令(キョレイ)は到着する前からすでに暗記していた。


 数分後、許令(キョレイ)は対象者の居室や着ていた衣服を調べた。

 さらに複数の使用人の証言をもとに、いくつかの工具の残骸を見つけ出す。


 部下の偵察能力を信用していなかった許令(キョレイ)は、自らそれらを検査していた。


 鋭い観察力を持つこの情報部長は、秉核(ヘイカク)の日常生活の痕跡を細かく調べ上げ、秉核(ヘイカク)の計画と動機を分析しようとした。


 この有能な情報長官は、多くの貴族の思惑を巧みに読み解き、これまで何度も皇室のために貴族たちの陰謀を嗅ぎ当ててきた。彼は陛下にとって最強の鷹犬だが、今回ばかりは失敗した。今のところ、秉核(ヘイカク)が何を考えているのか、まったく把握できていない。


 自由奔放な秉核(ヘイカク)は、監視のない状況では、三分は計画どおりに、七分は興味の赴くままに行動していた。


  ……


 二時間を無駄にした後。


 御苑家の廊下で、いらだちを隠せない許令(キョレイ)は、地元の情報班員に低い声で詰め寄った。

「奴は?まだ追いついていないのか?」

 ポーレン港へ向かった情報員がいつまでも戻らないことが、この情報長官の気持ちをますます苛立たせていた。


 白琳行省の二人の情報官は、有効な答えを返せなかった。


 白琳行省の情報分析班長は、猶予を請うような口調で言った。

「長官、ポーレン港は非常に広く、調査には(吃り)、時間がかかります」


 許令(キョレイ)は冷ややかに言った。

「ポーレン家のスパイに連絡しろ。ポーレン家が何か動いていないか確認させろ」


  ……


 秉核(ヘイカク)が帝都から逃げ出した際にも、波輪(ポーレン)家の偽名を借りていた。そして今また、波輪(ポーレン)家の馬車に便乗して逃げている。――この二つの偶然が重なり、混乱気味の許令(キョレイ)は、つい疑念を抱かずにはいられなかった。沿海の名門であるこの家が、秉核(ヘイカク)の一件に何か関わっているのではないか、と。


 まったく手がかりのない状況で、情報部の長は今、疑心暗鬼に駆られていた。

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