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帰向  作者: 凛光穂
第一巻 過ちを許される世界

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家族の中の敵 その二

 機甲が一時間ほど歩き、太陽が西に傾いたころ、機甲は銃焰(ガンフレイム)家の荘園に到着した。秉核(ヘイカク)は名残惜しそうにハッチから這い出す。巨大な機甲を見上げて、秉核(ヘイカク)はすぐに口を開いた。

「夕陽の中を駆け抜ける、これが俺の過ぎ去りし青春だ。俺は、くそ」

 言葉を終えないうちにエロット(エロット)に押され、エロット(エロット)は笑いながら罵った。

「お前の青春はまだ始まってもいない。お前の若芽が血を見てから、青春を嘆け」


  ……


 家族の大広間に戻ると、秉核(ヘイカク)はまるで敵を探すように周囲を警戒しながら進んだ。すると九歳のロリが駆け寄ってきて、秉核(ヘイカク)を見つけると喧嘩を売るような笑みを浮かべ、階段を駆け下りてきた。だがエロット(エロット)を見た途端、両手を腰に当ててスカートの裾をつまみ、淑女らしい態度で「叔父様、こんにちは」と言った。


 秉核(ヘイカク)が先に返した。

「うん、よくできた」

 だがロリからは、冷たい視線を向けられた。


 このロリの名は銃焰(ガンフレイム)・璃韻(リイン)で、銃焰(ガンフレイム)ロス(秉核(ヘイカク)の兄)の娘である。家の序列(輩分)からいえば、秉核(ヘイカク)を叔父と呼ぶのはまったく問題ない。


 しかし彼女は秉核(ヘイカク)にまったく敬意を払っていない。この年頃の女の子は男の子より成長が早く、幾度かの小競り合いで秉核(ヘイカク)は悔しい思いをさせられた。


 秉核(ヘイカク)はもともと物事を先延ばしにする癖があり、字を習うのもだらけた態度だった。だがこの娘に出会ってからは、黒海艦隊に勤める銃焰(ガンフレイム)ロースに告げ口するために、三ヶ月で字を覚えてしまった。さらに一年も経たないうちに故事を多く使い始め、貴族の書体で整った手紙を書くようになった。うん、去年一年だけで秉核(ヘイカク)が黒海艦隊へ送った手紙は二十三通だった。


 ほぼ毎回、喧嘩に負けるたびに一通ずつ書いた。


  ……


 道理からいえば、大人として寛大であるべきだ。

 そう、寛大であるべきで、一歩引けば世界は大きく開けるはずだった。


 しかし実際には、秉核(ヘイカク)はこの年頃の感情を制御できない自分に気づいた。

 一歩引けば引くほど、腹が立ってきた。

 腕の引っ掻き傷。腰をつねられたあざ。


 最初は秉核(ヘイカク)も我慢できると思っていた。だがこの憎たらしい小娘が七歳になってからは、毎日のように挑発的な態度で秉核(ヘイカク)の前で爪を切り、わざと鋭い形に整えては得意げに見せつけてくる。秉核(ヘイカク)は、自分が爆発寸前であることに気づいた。


  ……


 今年の1月


 秉核(ヘイカク)は一族の領地で最も厳格な淑女教師を探し始めた。四十歳で落ち着きがあり(心理的に病的)、節操のある(オールドミスの)教師を。そして手紙でロスと銃焰(ガンフレイム)家の次世代教育について論じ合った。女教師が一人招かれ、かつて「手を焼いた」姪がようやく分別のある道へ向かい始めたのを見たとき、秉核(ヘイカク)の食欲はすこぶる良かった。

 空は高く、大地は広く感じられた。背が伸びる速さまで増したように思えた。

 それはどんな感覚か?

 異世界転生した主人公が敵を圧倒する感覚だろう。

 一言でいえば「爽快」だ。


 しかし数ヶ月も経たないうちに、銃焰(ガンフレイム)思芬(シーフェン)(伯爵様)が秉核(ヘイカク)を書斎に呼び出し、そのあと秉核(ヘイカク)は学校へ送り込まれた。


 学校に送られること自体は構わなかった。秉核(ヘイカク)も学校に入るのを拒んでいたわけではない。だが、学校に入って二ヶ月目、秉核(ヘイカク)がある試験に失敗したときのことだった。


 そのとき、数人の女中がわざと彼の前でおしゃべりをし、偶然聞こえたふりをして、こんな情報を漏らした――彼が学校に入れられたのは、璃韻(リイン)が伯爵様の前で甘え、それとなく提案した結果だという。試験の失敗で少し落ち込んでいた秉核(ヘイカク)の気分は、鬱へと向かっていった。


 最も気にかかる敵は、必ずしも強いとは限らない。

 何度も対峙し、そのたびに挫折の味を覚えさせる敵こそが、そうなのだ。


  ……


 璃韻(リイン)は秉核(ヘイカク)を無視し、輕鈞(ケイキン)エロットのもとへ駆け寄った。

 その腕に抱きついて、甘えた声で言った。

「エロット(エロット)おじさん、こんにちは」


「璃韻(リイン)はますますきれいになったね」

 エロット(エロット)は笑いながら言った。


「そうだ、もう少し大きくなったら嫁に行けるぞ。兄さん、お前は帝国で顔が広いから、きっと、うぐっ」

 秉核(ヘイカク)が付け加える。


 まるで瞬きのうちに、リユンは秉核(ヘイカク)のそばへやって来た。

 小さな体を、秉核(ヘイカク)の同じく小さな体にもたせかける。片手で秉核(ヘイカク)の腕をペンチのように掴んで離さない。

 ふんわりとしたドレスがいくらか隠してはいたが、彼女が黒い足で秉核(ヘイカク)のつま先を踏みつけている様子までは隠しきれなかった。

 特に厄介なのは、彼女が拍車のついた金属製ブーツを履いていたことだ。

 鐙に合わせた凹凸のあるこのブーツは、ひどく痛かった。


「秉核(ヘイカク)、今日はこんなに早く授業が終わったの?早退したの?」少女は無邪気で甘い声で言った。しかし秉核(ヘイカク)はその質問を聞いて、心の中で「毒婦め」と呪った。


 この家族の中で秉核(ヘイカク)の学業に最も関心を寄せているのは、間違いなく秉核(ヘイカク)の姪だった。

 彼女は毎日でも欠点を見つけ出し、嬉々として伯爵様に告げ口してやりたいと思っている。


 秉核(ヘイカク)はぐいと押しのけて、悪敵から逃れた。

「お前、俺の足を踏んだぞ。それに、今日早く帰れたのはお前の叔父さんが休ませてくれたからだ。お、お前、手を放せ」


  ……


「エロット(エロット)、戻ったのか」大広間に男の声が響いた。伯爵領の次期継承者であるロスだ。彼の登場で璃韻(リイン)の「横暴」は終わりを告げたが、同時に秉核(ヘイカク)もすぐおとなしくなった。秉核(ヘイカク)の目には、この兄が決して笑わない、生まれつき厳格な人間に映っていた。


 エロット(エロット)と二人の戦友は、すぐに敬礼した。

「長官、ごきげんよう」


 ローズは黒海艦隊の副司令官であった。


 帝国の軍隊階級制度は、非常に厳格だった。

 下級の者は上級の者に敬礼しなければならない。

 たとえ二人が異なる軍種であれ、一方が高貴な王室親衛隊で、他方が地方艦隊の一員であれ、互いに親族であれ、敬礼が優先された。


「よし、ここは家の中だ。君たちは客人だ。服を着替えてこい(軍服を脱いで)」

 ローズは手を軽く押し下げる仕草をしながら言った。

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