高通用系主脈 その三
綺絢は秉核の白い袖に包まれた腕に目をやり、それから顔を上げて微笑んだ。
「その点はご心配なく。まずはゆっくりお休みください」
秉核は少し間を置いてから言った。
「では、ありがとうございます」
綺絢は「どうぞ」と促した。綺絢は再び白いシルクの手袋をはめた手を伸ばし、秉核を招き入れる仕草をする。
地主側の厚意を感じ取り、秉核は部屋の中へと進んだ。
部屋は非常に広く、帝都の寮よりも大きかった。
ベッド、椅子、机がそろっており、鏡やその前の小さな机など、学校の寮にはない備品が完備されていた。
秉核は一通り見回してから、満足そうに頷いた。
「いいね。ええと、もう休んでもいいかな?」
綺絢は笑みを浮かべて頷いた。
「どうぞ」
秉核は振り返り、部屋に立っている二人のメイドがついてこないのを見た。この二人は秉核が入ってきた時からずっと彼を見つめており、秉核をかなり落ち着かない気分にさせていた。
秉核はこの二人のメイドにもう一度言った。「私は休みます」秉核の表情と目線は、追い払おうとしていることを示していた。
ちょうどドアの外へ出た綺絢はそれを聞いて振り返り、秉核が二人のメイドに話しかけているのを見て、微笑んだ。
「清泉と白霧は、あなたの身の回りの世話をするメイドですよ」
秉核は一瞬考え、帝国の地方貴族の事情を思い浮かべて、すぐに言った。「綺絢さん、生活面でのお世話は要りません。部屋の片づけは自分でやりますので」
綺絢はそれを聞いた。
ため息混じりの声だった。しかし口元には微笑を浮かべていた。
「そんなことをされては、私たちの接待が行き届かないではありませんか」
秉核は答えた。
「これまで、ご家族の皆様から何ら拘束を感じたことはありません。このままの心地よさを続けたいのです」
秉核は頑なな目を向け続けた。
綺絢は頷くほかなく、わずかにため息をついた(おそらく故意の表情)。
「では、ご自由になさってください」
……
数分後。
部屋の入り口で。
清泉という名のメイドが、名残惜しそうに言った。
「お坊ちゃま、何かお入り用なことがあれば、いつでもお呼びくださいませ」
秉核は「誠実」な様子で応じた。「うん、うん、この数日間よろしくお願いします」そして秉核はドアを「バタン」と閉め、ついでに鍵までかけた。
まるでドアの向こうに人喰い猛獣でもいるかのように。
ドアに背中を預け、秉核は長いため息をついた。
秉核は再び立ち上がってドアの鍵のところへ戻ると、手のひらに魔法の光が現れた。
磁流体系魔法の発動とともに。
金属粉末の流体が鍵穴へと染み込んでいく。
複雑な鍵穴の中の機械部品は、磁力によって直接ずれてしまった。これでこのドアは、鍵を使っても開かなくなった。(注。ずらせるということは元に戻せるということ。秉核自身はまだ鍵を開けられる。)
全てを終えると、秉核はベッドの前に駆け寄り、ぴょんと跳び上がって布団に飛び込み、自由気ままに三回転も転がった。秉核の気持ちは、今すっかり和らいでいた。子供の頃、夏休みに両親が出勤して家を出た後の解放感を思い出すようだった。
……
しかし十分後、秉核は姿勢を正して座り直し、体内に意識を集中させ始めた。
消しゴムの能力のおかげで、魔核の影響は完全に見えなくなっていた。チート能力があれば、その程度の傷は何でもない。もちろん、傷が治るということもあって、秉核は最近、自分の行動がますますリスクを軽んじていると感じていた。
……
座り直した姿勢のまま、秉核は自らの体内の法脈を整理し始めた。
現在の秉核の法脈体系は、主脈で分けると二つの系統に大別できる。
第一のセットは銃焰家の法脈で、現在は改良が加えられ、銃焰家の機械師法脈よりも優れている。銃焰家の現行法脈の上限は中級機械制御者だが、秉核がバグを修正した後なら、上級機械制御者に到達できる。
第二のセットは、秉核がこの世界に生まれ、この世界の法脈に触れた後、自らの興味に基づいて研究したオリジナルの法脈体系である。
このオリジナル法脈体系では、せいぜい低位の中位職業者までしか到達できない。
理屈の上では、銃焰家の良い法脈があるのに、秉核はなぜオリジナルに熱中するのか?
(注)興味とは必ずしも最強にこだわることではない。秉核のオリジナル法脈への興味は、主脈との互換性にある。
……




