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帰向  作者: 凛光穂
第三巻 緊迫の逃亡?刺激的な逃避行!いたずらな旅

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高通用系主脈 その二

 この時


 白いレースのテーブルクロスが敷かれた食卓は、とても立派だった。


 そして食卓の上座に座っているのは、当代の御苑家当主である。


 この子爵閣下は彫刻のように、皿の上で正確に切り分けられた小さな食べ物を口に運んでいた。

 三人の娘と四人の息子たちは、食卓で静かに皿の上の料理を切り分けている。

 料理は精美だったが、席の空気は硬い。誰もがそっと扱い、パン屑ひとつ皿の外に落とすまいとしていた。


 晩餐会の厳格さは、料理の様式やメイドの礼儀作法にとどまらず、各工程の時間にまで厳密な規定があった。


 まずは五分間の食前の菓子の時間。

 食卓についた一族は食事を始めるが、子爵一家がナイフとフォークを取るときに気をつけるべきは、料理の種類ではなく、優雅な貴族のたしなみを保つことだった。


 五分後、使用人たちはそれぞれの菓子皿を片付け始める。


 続いてメインディッシュが運ばれ、十五分きっかりで食事の時間が終わると、使用人たちは素早く食器を下げる。

 入れ替わりに、食後の紅茶と茶菓子が出された。


 食事の前半、誰も口をきくことはない。


 そしてお茶の時間になると、家長の合図とともに、一族は会話を始めるのだった。


 白い装いのメイドたちが複雑な茶器を運び上げ、茶が器いっぱいに注がれた。

 そして一人ひとりへ、型どおりの手順で茶が注がれていく。

 白い湯気とともに茶の香りが客間に広がる中、御苑家の内輪の会話が始まった。


  ……


 子爵は堅苦しく、まるで目上の者が案じるように言った。「興木(コウモク)(長男)、聞くところによると、君が担当している絹工場で何かあったそうだな。大丈夫かね」


 子爵の言葉は、一見すると心配しているようだった。

 だが、本当に「問題がある」「助けが必要」などと答えようものなら、返ってくるのは心配などではない。

 表向きは「休ませる」と言いながら、実際には家産経営の権利を奪うような対応だった。


 こうした家長的な圧力のもとで、


 子爵の長男はすぐに立ち上がった。

 型どおりの答えだった。

「父上、絹工場の怠け者が養蚕を疎かにしておりましたが、すでに処分いたしました」


 御苑家の後継者たちは、今やそれを理解している。自分の立場を安定させるには、少しのミスも犯さず、筋から外れた音を一切立てないことだ。

 どんな小さな音でも、子爵や、兄弟姉妹の競争者たちに付け込まれる隙になる。


 子爵は頷いた。「しっかりやれ。君ならうまくやれると信じている」そして視線を綺絢(キケン)へ移した。「綺絢(キケン)、最近の鹿苑の件は片づいたか?」


 綺絢(キケン)は茶碗を置いた。

「鹿苑に残っている雄鹿には、私が日夜見張りを付けさせておりますので、問題は起きません。そうそう、父上。鹿苑の近くで、とても若い職業者を一人、徴募いたしました」


 子爵は頷いた。

「それは知っている。どこの家の子供がこっそり抜け出してきたのやら。しっかり面倒を見てやれ。それから、早めに身元をはっきりさせておくように」


 綺絢(キケン)は「はい」と答えた。——この宴席で、綺絢(キケン)は全ての発見を話したわけではなかった。

 例えばブレスレットの模様のことなどは、父親には話さなかった。


  ……


 御苑家の晩餐会が終わりに近づいた頃。


 こちらでは、秉核(ヘイカク)が浴室から出てきた。


 二ヶ月ぶりに質の良い服をまとった。秉核(ヘイカク)はわざと体をひねって服の感触を確かめ、満足そうに微笑んだ。秉核(ヘイカク)が大げさにしているわけではない。

 麻布の服と綿裏地の服とでは、感触がまるで違うのだ。

(注。現代人はティッシュペーパーに慣れているが、誰が硬い新聞紙など使うだろうか。)


 二十一世紀は物資が極めて豊富で衣服の品質も良いため、二十世紀の衣服との快適さの差など理解できない。

 まして生産力の遅れた時代には、人々は麻袋のような衣服で羞恥を隠していたのだから、上古と比べれば二十一世紀生まれの者は皆、肌が滑らかで柔らかいと言える。


 この二ヶ月間、秉核(ヘイカク)は普段、緩んだ服装を軽い気流術で支え、肌との硬い擦れをできるだけ減らしていた。そして今、この綿の衣服を着て初めて、秉核(ヘイカク)は布地の柔らかさを感じることができた。


 帯を締め終えると、秉核(ヘイカク)は息を吐いた。

 自嘲するような口調だった。

「どうやら、自分は苦労に耐えられると自慢するのはやめた方がよさそうだ。甘い水に浸かりすぎて、苦しみという概念すらなくなってしまった」


  ……


 革靴を履いてホールを出ると、秉核(ヘイカク)は突然、演壇に立ったかのような感覚に襲われた。


 廊下では、メイドたちの視線が一斉に自分に注がれた。


 そして、おしゃべりに興じていた彼らの会話もぴたりと止んだ。

 皆が自分を見つめていた。


 秉核(ヘイカク)は慌てて鏡面魔法を開き、身に覚えのない妙なものが付いていないか確かめた。

 周囲を見回しながら、喉の奥でつぶやく。

「俺、何かおかしいのか?」


 数分後、秉核(ヘイカク)は御苑家の離れの客間に着き、そこへ駆けつけた綺絢(キケン)と顔を合わせた。


 綺絢(キケン)は秉核(ヘイカク)を見つけると、白い水晶のハイヒールを一瞬止めた。瞳に光が閃いたかと思えば、そのまま足早に秉核(ヘイカク)へと近づいてくる。


 綺絢(キケン)は両手でロングドレスの裾をそっと持ち上げ、淑やかに言った。「融鋼様(ユウコウ)、ご満足いただけましたでしょうか」


 秉核(ヘイカク)は頷いた。「とても満足です」秉核(ヘイカク)は傍らの客室を見回した。スイートルームには二人のメイドが手を前に組んで立っている。秉核(ヘイカク)は尋ねた。

「ご一族は、私の仕事について何かお取り決めがおありですか?」

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