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悪役令嬢の遺書を、死んだあとに読む。  作者: ももにく


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第八話

第8話 棺の中の手紙


――コツン。


もう一度。


「……今、音がしましたよね?」


マリアの声が震えた。


レオニードは答えなかった。


棺を見つめたまま、ゆっくりと近づいていく。


「殿下……」


「大丈夫だ」


自分に言い聞かせるように呟き、棺の蓋へ手をかける。


だが、その前に父親が止めた。


「待て」


「なぜです?」


「この部屋をアリアナが隠していた理由を考えろ」


レオニードは黙った。


確かにそうだった。


アリアナは、誰にも知られたくないものをここへ隠していた。


ならば――


不用意に開けるべきではない。


父親が棺の周囲を調べる。


すると、底に小さな文字が刻まれていた。


『愛する者が死ぬことを恐れるなら、棺を開けてはいけない』


「……どういう意味だ」


レオニードが眉をひそめる。


マリアが棺の横を指差した。


「こちらにもあります」


そこには、別の文字。


『けれど、真実を知りたいなら開けなさい』


「……随分と意地悪な置き方ですね」


マリアが泣きそうな顔で笑う。


アリアナらしい。


まるで、生きている彼女がこちらを見ているようだった。


レオニードは目を閉じた。


そして――


棺を開けた。


中に人はいなかった。


代わりに入っていたのは、一冊の本。


黒い革で装丁された古い本だった。


表紙には名前が刻まれている。


『エレノア・ルーディア』


百年以上前の女王。


先ほどの肖像画の女性だった。


父親が本を開く。


最初のページには、こう記されていた。


『私は、自分の死を予知した』


『そして同時に知った』


『私が愛した男は、私が死ななければ生きられない』


レオニードが息を呑む。


ページをめくる。


『だから私は、彼に嫌われることを選んだ』


『彼が私を憎めば、呪いは成立しない』


『私は悪女になった』


『彼の前から消えた』


『それでも――』


文章が途切れている。


次のページには、震えた文字。


『彼は王になった』


『そして、私の死後にすべてを知った』


レオニードの指が止まる。


その下には――


『王になった者は、必ず真実を知る』


『そして真実を知った王は――』


そこから先が破られていた。


「また……」


レオニードは呟く。


「また肝心なところがない」


父親が本を裏返した。


すると、背表紙の内側から一枚の紙が落ちた。


それは古い紙ではなかった。


つい最近書かれたもの。


アリアナの字だった。


『ここまで読んだのなら、殿下はもう気づいているでしょう』


『私とエレノア様は、同じ運命を繰り返しています』


『ただし、一つだけ違います』


レオニードは息を止める。


『前の人生では、彼女は死んだ』


『けれど私は――』


そこで文章が途切れていた。


「……続きは?」


レオニードが紙を裏返す。


何もない。


だが、父親が紙を光に透かした。


そこに薄く文字が浮かび上がる。


『私は、死ぬことを選んだのではありません』


三人が息を呑む。


その下には――


『私の死を利用して、呪いを終わらせるつもりでした』


レオニードの顔が強張った。


「……誰が?」


すると。


本の最後のページに、知らない筆跡で一文が書かれていた。


『王太子の愛する者を殺すのは、呪いではない』


『呪いを利用している者がいる』


――部屋の空気が凍った。


レオニードはゆっくりと顔を上げる。


アリアナが死んだのは、


運命のためではなかった。


誰かが――


彼女の死を必要としていた。

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