第二十七話
第27話 王妃になりたい女
「……王妃に?」
レオニードは目の前の女を睨んだ。
アリアナと同じ顔。
だが、その瞳は違う。
アリアナの瞳には、いつも優しさがあった。
目の前の女には――何もない。
「あなたがエレノアだという証拠は?」
女は微笑んだ。
「必要ありません」
「何?」
「あなたは、私を知っているから」
「……知らない」
「いいえ」
女が一歩近づく。
「前の人生で、あなたは私を殺した」
レオニードの頭に、あの光景が蘇る。
血。
雪。
黒い指輪。
そして――
「違う」
レオニードは首を振った。
「俺は、お前を殺していない」
女は笑う。
「では、誰が?」
「……」
答えられない。
女は満足そうに笑った。
「その答えを思い出せない限り、あなたはまた同じことを繰り返します」
「何を望んでいる」
「簡単です」
女は王宮を見上げる。
「あなたの王妃になること」
「断る」
即答だった。
女の笑顔が消える。
「なぜ?」
「俺には、愛する人がいる」
「死んだ女を?」
レオニードの拳が震える。
「アリアナは生きている」
「……そう」
女は小さく笑った。
「なら、見せてください」
「何?」
「あなたが本当に彼女を愛しているなら」
女は指を鳴らした。
その瞬間――
王宮の大鐘が鳴る。
同時に、空から黒い羽が舞い落ちた。
そして王宮の壁に文字が浮かび上がる。
『王は、最も愛する者を選べ』
その下に三つの名前。
『アリアナ』
『リリア』
『エレノア』
レオニードは息を呑む。
「……三人?」
「そう」
女が笑う。
「明日の戴冠式で、あなたは一人を選ぶ」
「選ばない」
「選ばなければ――」
女は二つ目の名前を指差した。
『リリア』
「聖女が死ぬ」
次に。
『アリアナ』
「彼女も死ぬ」
最後に。
『エレノア』
「そして私を選ばなければ――」
女は微笑んだ。
「あなた自身が死ぬ」
「……」
完全な罠だった。
どれを選んでも、誰かが死ぬ。
だが。
そのとき。
レオニードはふと気づいた。
「一つ、足りない」
「何が?」
「四人目だ」
女の表情がわずかに変わる。
「……何?」
「この儀式には、三人しか必要ないのか?」
女は黙った。
レオニードは続ける。
「アリアナが残した手紙には、王位継承の儀式には『愛』と『聖女の力』が必要だと書いてあった」
「……」
「なら、エレノアは何だ?」
女の笑顔が消える。
「お前は、儀式に必要な存在じゃない」
その瞬間。
女の顔から血の気が引いた。
レオニードは確信する。
「お前は――」
「違う!」
女が叫んだ。
「私はエレノアよ!」
「なら、なぜ怯える?」
沈黙。
そのとき。
レオニードの懐に入れていたペンダントが光った。
アリアナの手紙。
五枚目。
その裏に、新しい文字が浮かぶ。
『殿下』
『三人の中から選ばないでください』
『それが、儀式を壊す唯一の方法です』
レオニードは息を呑んだ。
「……アリアナ」
さらに文字が浮かび上がる。
『そして、もし三人目の女性が現れたなら――』
『その人は、エレノア様ではありません』
レオニードが顔を上げる。
目の前の女が、一歩後ずさった。
「……なぜ」
「アリアナが教えてくれた」
「そんな……」
女の表情が崩れる。
そして。
彼女の顔が一瞬だけ歪んだ。
銀色の髪が黒く染まる。
青い瞳が赤く変わる。
「……!」
レオニードは剣を抜いた。
女は笑った。
「ならば、もう隠す必要はない」
背中から――
黒い翼が現れる。
「エレノアの魂などではない」
その姿を見て、リリアが震える。
「……ノア?」
違う。
ノアではない。
もっと禍々しい気配。
女はゆっくりと笑う。
「私は――」
「この王国が、千年前から恐れてきた『王の器』」
そして。
彼女の手には――
黒い指輪が現れた。
「アリアナが死んでも、私がいる限り」
「この儀式は終わらない」
その瞬間。
王宮の奥から――
アリアナの声が響いた。
『……逃げて、殿下』
『その人は――』
声が震える。
『私の母を殺した人です』




