第二十六話
第26話 選ばれるのは、ひとり
「第三段階……」
レオニードは呟いた。
――選ばれなかった者を、殺す。
その言葉が、頭から離れない。
「俺は選ばない」
レオニードははっきりと言った。
「誰も選ばない」
胸の黒い紋様が、わずかに疼く。
『それは許されない』
声が響いた。
「なら、王にならなければいい」
『それも許されない』
「なぜだ!」
『王位継承は、すでに始まっている』
レオニードの顔が強張る。
「……始まっている?」
『お前がアリアナを愛した瞬間から』
リリアが息を呑んだ。
「では……」
『そうだ』
『彼女を選べば、聖女が死ぬ』
『聖女を選べば、彼女が死ぬ』
「そんな……」
リリアの顔から血の気が引く。
レオニードは拳を握った。
「そんな馬鹿げた儀式、誰が決めた」
『王家だ』
父親が怒鳴る。
「王家がそんなものを……!」
『違う』
声が冷たくなる。
『初代王が決めた』
その言葉に、父親が黙った。
「……初代王?」
『彼は、エレノアを愛していた』
『だが、エレノアは別の男を愛した』
『だから彼は、愛する者を奪う仕組みを作った』
レオニードは震える。
「……嫉妬で?」
『嫉妬ではない』
『執着だ』
その瞬間。
レオニードの脳裏に、前世の光景が蘇る。
血に染まったエレノア。
黒い指輪。
そして――
自分の手。
「……俺は」
レオニードが呟く。
「前の人生でも、この儀式を止められなかった」
アリアナの声が聞こえた気がした。
――だから、今度こそ。
「なら……」
レオニードは顔を上げる。
「儀式そのものを壊す」
父親が息を呑む。
「殿下?」
「王になる必要もない」
「だが、王位を拒めば――」
「それでもいい」
レオニードはリリアを見る。
「リリアを殺させない」
そして。
「アリアナも」
その言葉に――
胸の黒い紋様が激しく光った。
『……愚かな』
「何だ」
『ならば、代わりを用意する』
「代わり?」
『第三の候補を』
レオニードの表情が変わる。
「誰だ」
声は答えなかった。
代わりに。
王宮の方角から、悲鳴が聞こえた。
「何だ……?」
騎士が窓へ駆け寄る。
「殿下!」
「どうした!」
「王宮の正門に――」
騎士の顔が青ざめる。
「女性が一人、現れました」
「誰だ?」
「分かりません」
そして。
「ですが、兵士たちは全員、その女性を見た瞬間――」
騎士が震える。
「『アリアナ様だ』と言っています」
レオニードは走り出した。
*
王宮正門。
人だかりの中央。
一人の女性が立っている。
銀色の髪。
青い瞳。
アリアナと同じ顔。
だが――
レオニードは一目で分かった。
「……違う」
彼女はアリアナではない。
女性は微笑んだ。
「お久しぶりです、殿下」
「誰だ」
「私は――」
女性は胸元に手を当てる。
「エレノアです」
レオニードの顔が凍る。
「……エレノア?」
女性は頷いた。
「正確には」
その瞳が赤く光る。
「あなたが一度殺した、エレノアの魂です」
「……!」
「アリアナを返してほしければ」
女性は微笑んだ。
「私を、次の王妃にしてください」
その瞬間。
王宮中の鐘が、一斉に鳴り始めた。
――戴冠式前日。
儀式の第三候補が、
現れた。




