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悪役令嬢の遺書を、死んだあとに読む。  作者: ももにく


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第二十話

第20話 百年前の罪


「堕天使……?」


レオニードは呟いた。


父親は、地面に落ちた黒い羽を見つめている。


「昔、王家には一体の堕天使が仕えていた」


「仕えていた?」


「ああ」


父親は苦しそうに続けた。


「初代女王エレノアが、まだ王女だった頃だ」


レオニードの胸がざわつく。


エレノア。


また、その名前だ。


「その堕天使の名は?」


父親はしばらく黙っていた。


そして――


「ノア」


その名前を聞いた瞬間。


黒い羽が、ふっと宙へ浮いた。


「……!」


羽はゆっくりと回転しながら、墓の奥へ落ちていく。


レオニードが追いかける。


「待て!」


しかし、羽が落ちた場所には何もない。


ただ。


地面に文字が刻まれていた。


『彼女は、私のものだ』


レオニードの顔が強張る。


「……私のもの?」


父親が険しい顔をする。


「これは、かなりまずい」


「なぜです?」


「ノアはエレノアを愛していた」


レオニードは息を呑んだ。


「……愛して?」


「ああ。だが、エレノアが選んだのは別の男だった」


「それが……?」


「初代王だ」


百年前。


エレノアは一人の王子を愛した。


その王子と結ばれるために、ノアの力を借りた。


だが――


エレノアは王子との間に子を授かった。


そしてノアは、それを許さなかった。


「ノアは、王子を殺そうとした」


「結果は?」


「エレノアが止めた」


父親は目を伏せる。


「そしてエレノアは、ノアを封印した」


「……だから堕天使になった?」


「いや」


父親は首を横に振った。


「元々は天使だった」


レオニードは黙り込む。


「エレノアを愛したことで、人を殺そうとした」


「その結果、天から堕とされた」


「そして……封印された」


レオニードは拳を握る。


「それが、アリアナと何の関係がある?」


父親は答えなかった。


代わりに――


アリアナの母親が震える声で言った。


「関係があります」


全員が振り返る。


「アリアナが生まれた夜……」


母親の顔には、恐怖が浮かんでいた。


「私、見たんです」


「何を?」


「窓の外に……黒い翼を持った男がいました」


レオニードの目が見開かれる。


「なぜ今まで言わなかった?」


「怖かったんです」


母親は涙を流す。


「そして、その男は私に言いました」


『その子は、エレノアのものではない』


『私のものだ』


「……!」


レオニードは言葉を失う。


「でも、アリアナは私の娘です」


母親は胸元を押さえる。


「私が産んだ子です」


「なら……」


「だからこそ、分からないんです」


そのとき。


マリアが突然叫んだ。


「待ってください!」


彼女はアリアナの墓を指差していた。


「さっきの……」


墓石の裏。


いつの間にか、新しい文字が刻まれている。


『三度目』


「……三度目?」


レオニードが近づく。


その下には――


『次は、十八歳では終わらない』


そして。


さらに小さな文字。


『今度は、彼女ではなく――』


そこで途切れていた。


レオニードは息を呑んだ。


「……俺?」


誰も答えない。


その瞬間。


遠くから馬の蹄の音が聞こえた。


王宮から来た騎士だった。


「殿下!」


騎士が駆け寄る。


「何があった?」


「国王陛下が……」


騎士は息を整える。


「意識を取り戻されました」


レオニードは立ち上がる。


「父上が?」


「はい」


「何と言っていた?」


騎士は顔を伏せた。


「殿下に、どうしても伝えたいことがあると」


「何だ」


騎士は震える声で言った。


「『アリアナを探すな』と」


レオニードの表情が変わる。


「理由は?」


「……そして」


騎士は続けた。


「『あの子はもう、アリアナではない』と」


レオニードは凍りついた。


その瞬間。


墓の向こう。


誰もいないはずの森から――


少女の声がした。


「……レオニード」


彼は振り返る。


今度は、はっきり聞こえた。


「助けて」


その声は。


間違いなく――


アリアナだった。

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