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悪役令嬢の遺書を、死んだあとに読む。  作者: ももにく


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第十八話

第18話 死者の名前


「……アリアナ」


レオニードは、壁に刻まれた名前を見つめていた。


ありえない。


彼女は死んだ。


自分も葬儀に出た。


棺の中に眠る彼女を、この目で見た。


それなのに――


『第二の生贄』


そこに、彼女の名前がある。


「これは何なんですか……?」


リリアの声が震える。


父親が壁に手を当てた。


「古い魔術だ」


「魔術?」


「王家に伝わる儀式の一種だろう。だが……」


父親は眉をひそめる。


「おかしい」


「何が?」


「この文字は、百年以上前に使われなくなったはずだ」


レオニードは壁を見る。


すると、アリアナの名前の横に小さな文字が浮かび上がった。


『生贄候補』


「……候補?」


リリアが呟く。


「まだ、生贄に決まったわけではない?」


父親が頷く。


「そういうことだ」


レオニードは安堵しかけた。


だが。


その下に、新しい文字が現れた。


『第一の生贄が拒絶した場合、第二の生贄へ移行する』


「……第一の生贄が?」


レオニードがリリアを見る。


リリアの顔が青ざめた。


「私が……拒絶したら?」


「おそらく、アリアナへ移る」


「でも……アリアナ様はもう……」


リリアの言葉が止まる。


レオニードも同じことを考えていた。


なぜ死んだアリアナが候補になる?


そのとき。


黒い指輪が突然、リリアの手から落ちた。


床に転がる。


――カラン。


指輪の黒い石が、赤く光った。


そして。


時計塔の壁に、新しい文字が浮かび上がった。


『生贄は死者に限らない』


レオニードの目が見開かれる。


「……死者に限らない?」


父親が呟く。


「つまり――」


マリアが震える声で言った。


「アリアナ様は……」


誰も言葉にできなかった。


その瞬間。


時計塔の外から馬の蹄の音が聞こえた。


――パカッ、パカッ。


一頭。


そして二頭。


誰かが来た。


レオニードが窓から外を見る。


王宮の外門から、一台の馬車が入ってくる。


「……あれは?」


父親が目を細める。


馬車には、公爵家の紋章。


「私の家の馬車だ」


「どうして……?」


レオニードは階段を駆け下りた。


馬車の前に立つ。


扉が開く。


降りてきたのは――


アリアナの母親だった。


「お母様?」


レオニードが駆け寄る。


彼女は青ざめた顔をしていた。


「殿下……」


「何があった?」


母親は震える手で、一枚の紙を差し出した。


「これを……アリアナの棺の中に入れたはずだったんです」


「棺の中に?」


「はい」


レオニードが紙を見る。


そこには――


アリアナの葬儀の日に書かれた言葉。


『私の娘は、もう死んだ』


レオニードの胸が痛む。


だが、その下に続きがあった。


『だから、どうか探さないでください』


そして最後の一文。


『もし娘が生きていると言う者が現れても――』


『それは、私の娘ではありません』


レオニードは息を止めた。


「……生きていると言う者?」


母親は泣きながら頷く。


「今日……」


「何があった?」


「屋敷の門番が見たんです」


「誰を?」


母親は唇を震わせた。


「アリアナを」


レオニードの心臓が、大きく跳ねた。


「……何?」


「今夜」


母親は涙を流した。


「死んだはずのアリアナが――」


「屋敷の庭に立っていたそうです」


そして。


彼女は最後に、震える声で告げた。


「その手には……黒い指輪があったそうです」

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