第十七話
第17話 消えた聖女
「リリアが消えた?」
レオニードは騎士を睨んだ。
「はい。部屋を確認したところ、聖女様の姿はなく……」
「護衛は?」
「二人とも倒れていました」
「怪我は?」
「ありません。ただ、眠らされたような状態で……」
レオニードは手紙を握りしめた。
――私が死んだあとも、絶対に王にならないで。
アリアナは、リリアが消えることまで知っていたのか。
「殿下」
父親が口を開いた。
「急いで聖女を探すべきです」
「分かっている」
レオニードは立ち上がる。
だが、そのとき。
「……待って」
マリアが呟いた。
全員が振り返る。
「何か思い出したのか?」
「はい」
マリアは青ざめた顔で言った。
「アリアナ様が亡くなる前の日……」
「何を?」
「私に、『もしリリア様がいなくなったら、庭の時計塔へ行って』と言っていました」
「時計塔?」
「はい」
レオニードはすぐに部屋を出た。
王宮の西側。
ほとんど使われていない古い時計塔。
扉には鍵がかかっていた。
父親が鍵を開ける。
ギィィ……
中は真っ暗だった。
階段を上る。
一階。
二階。
三階。
最上階へ着いたとき――
「……誰かいる」
レオニードが剣を抜く。
窓際に、一人の女性が立っていた。
白い聖女の衣装。
「リリア!」
駆け寄る。
だが。
リリアは振り返らない。
「……殿下」
「無事だったのか」
「はい」
「誰に連れてこられた?」
リリアは首を横に振った。
「誰にも」
「何?」
「私は、自分でここへ来ました」
レオニードが言葉を失う。
「なぜだ」
リリアは、ゆっくりと振り返った。
その手には――
黒い指輪があった。
「これを、アリアナ様から預かっていたんです」
「……!」
「正確には、アリアナ様が亡くなる前夜に私の部屋へ置いていったものです」
レオニードは指輪を見つめる。
「なら、なぜ今まで言わなかった?」
「怖かったからです」
リリアの目から涙が落ちる。
「アリアナ様に言われました」
『これを持って、時計塔で待っていて』
『誰かが来るまで、絶対に動かないで』
「誰かって……」
リリアは答えなかった。
代わりに、時計塔の壁を指差した。
そこには無数の傷があった。
そして中央に――
古い文字が刻まれている。
『王が誕生するとき、最初の生贄を捧げよ』
レオニードの表情が変わる。
「……生贄?」
父親が壁を調べる。
「古い王家の儀式だ」
「そんなものが……?」
マリアが怯える。
父親はさらに文字を読む。
「『王位を継ぐ者は、最も大切な者を捧げることで、王となる』」
レオニードは凍りついた。
「……アリアナが言っていた」
「何を?」
「王になれば、誰かが死ぬ」
リリアが小さく頷く。
「はい」
「だから俺に、王になるなと……」
その瞬間。
時計塔の鐘が鳴った。
――ゴーン。
一度。
――ゴーン。
二度。
時計の針が、真夜中を指す。
そして壁の文字が――
赤く光り始めた。
『王位継承者、決定』
レオニードは息を呑む。
その下に、新しい文字が浮かび上がった。
『第一の生贄――』
そして。
ゆっくりと名前が刻まれていく。
レオニードは目を見開いた。
そこに現れた名前は――
『リリア』
「……!」
リリアが震える。
だが。
その直後。
文字がもう一つ浮かび上がった。
『第二の生贄――』
レオニードの顔が青ざめる。
刻まれた名前は――
「……嘘だ」
マリアが口元を覆う。
そこにあったのは、
もう死んだはずの人間の名前。
――アリアナ・フォン・ヴァルディア。
「……アリアナ様?」
リリアが呟いた。
レオニードは、ただ立ち尽くしていた。
死んだはずのアリアナが――
今もなお、
王位継承の「生贄」として選ばれていた。




