第09話「加護」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。
前作はこちら
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「はぁ……っ、はぁ……っ」
ライガは村はずれにある街道まで走ってきた。
「な、何だったんだ? あれは……」
突然の出来事だった。いきなり声を掛けられたかと思ったら、次々と見ず知らずの人達が集まってきた。
別にコミュニケーションが苦手とかそういう訳ではない。話しかけられれば、普通に会話くらい出来る。
ただ――……。
「やぁ、こんにちは」
ハッと気づいて顔を上げると、またしても何人もの人達に取り囲まれていた。
(…………!??)
さっきとは違う面々だ。
「君、とても強そうだね。私たちの仲間にならないかい? 私は治癒士のジョブを持っているんだ」
「は……?」
いや、聞いてないんだが? そう言いかけた矢先。
「アタイはね、剣闘士のジョブを持ってるんだ。よろしくぅ!」
「私は、魔導士のジョブを持っておりますの。オホホホ♪」
何だ、この既視感は?
思わずライガの背筋がゾクリとする。
「あ、僕も仲間に入れて! 僕は鍛冶師のジョブが……」
「えへん! 私は盗賊のジョブを……」
「うわぁあああ!!!」
また駆け出した。その後も、どこに行っても必ずといっていいほど仲間にしてくれと声を掛けられる。
なのに、回復役やタンク役、魔法攻撃役に斥候役など、人は違えど全員同じようなジョブを持っていた。
気持ち悪い! 何なんだ、この都合の良すぎる展開は!?
普通、仲間を集めるにしても、そうそうバランスの良いパーティーにはなりにくいものだ。
なのに、これはどういうことなんだろう?
ライガは違和感の正体を確かめるべく、図書館に通って過去の記録を読み漁った。
(勇者の加護……?)
記録によると、勇者には様々な『加護』と呼ばれる力が発現するとのことだった。
その中には自動的に割り振られた仲間を集めるような厄介な加護もあるらしい。
(な、なんて迷惑な……っ!!)
それからというもの、ライガの周囲には毎日のように人が集まってきた。
「勇者様! 一緒に旅に出ましょう!」
「次のクエストにぜひ同行を! 魔法攻撃なら任せてください!」
「私の治癒術、きっとお役に立ちます!」
朝の食堂、昼の商店街、夕方の風呂場、そして夜の就寝前にまで。
まるでストーカーのように“仲間候補”たちが付きまとってくるのだ。
しかも、全員が言う。
「不思議なんです。なぜか勇者様のそばに居ないといけない気がして……」
そう、“気がする”のだと。理屈ではない。感覚的な引力のようなものらしい。
ある日、思い切って寄ってきた一人の女性に問いただした。
「……本当に、俺と旅がしたいのか?」
「えっ?」
「誰かに言われたのか? それとも、自分の意思で?」
女性は一瞬、きょとんとした顔をしてから――。
「……分かりません。でも、勇者様と一緒にいたいんです。それだけは確かで」
その無垢な笑顔に、ライガは内心で悲鳴をあげた。
(違う。これは俺の人柄でも、努力でもない。全部、“加護”のせいだ……)
感情のない“引力”によって縛りつけられる人々。その中心に、自分が立たされているという現実。
徐々に、ライガは人の目を避けるようになった。
裏道を使って街を抜け、物陰でパンをかじり、人気のない井戸端で水を汲む。
だが、それでも。
「勇者様……ここにいらしたのですね!」
「もう! どこ探してたと思ってるのよ~?」
「はぁ、ようやく見つけました! 明日の任務、準備を進めておきますね!」
まるで感知能力でもあるかのように、彼らはやってくる。
逃げれば追ってくる。隠れれば探し出される。否定しても、張り付いたような笑顔でついてくる。
その光景は、ライガの脳裏にかつての村の人々を蘇らせた。
あの、「勇者様」と呼ばれた瞬間、掌を返した者たちの姿を――。
(……もう、うんざりだ!!!)
ライガは心の中で叫ぶ。
皆が求めているのは『勇者』であって、誰も『俺』を求めてくれていないじゃないか!!
「~~~~っ!!」
仲間は勝手に増えるけれど、一番欲しいものは手に入らない。
いや、自分が欲しいものってなんだ? それすらも、もはやどうでも良くなっていた。
◆◇◆◇
レオンは目を閉じながら、再びため息を吐いた。
「あの頃の俺は、自分自身の力に振り回されていた。自分では抗いようのない力、大いなる力なんて……俺には必要なかったのに」
「レオン兄ちゃん……」
「結局、俺はますます荒んでいった。様々な加護が発現し、体は強靭になるのに……心はボロボロだった。それでも勇者としての責務は重くのしかかる。もう限界が近かったんだ」
しかし、そっと目を開く。
「けど、18になった時……アイツに出会ったんだ」
「アイツって……?」
◆◇◆◇
ライガは、逃げるように人気のない街道にいた。
「この辺りしか……もう休めるところがないなんてな」
勇者としての責務は果たしている。
一度だけ、あまりのしつこさに折れて、すり寄ってきた連中とパーティーを組んだことがあったのだが……。
「ああ! 凄いわ勇者様!」
「おお! さすがだ勇者様!」
「素敵よ勇者様!!」
「やっぱり勇者様は凄いわ! 凄い! 凄い!」
一挙手一投足に賞賛の声が聞こえてくる。
歩いても、走っても、呼吸の仕方ひとつにさえ褒めちぎる輩もいる。
「凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い凄い」
「さすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすがさすが」
――――気持ち悪い!!!
まるで壊れたオルゴールのように彼らは褒めることしかしない。
思い出しただけで背中に寒気が走る。
何なんだアイツらは?
あの日、勉強を褒めてくれた先生とは雲泥の差だ。
何に対しての『凄い』? 『さすが』ってどの行動に対して? もう意見するのも馬鹿らしくなってきた。
(吐き気がする……! こんな得体の知れない賞賛の嵐が加護だっていうのか!?)
「はぁ……っ」
ライガは何度も深いため息を吐く。
確かに、四六時中罵倒されるよりはマシかもしれないけれど、何でもかんでも手放しで褒められて嬉しいと言えるのだろうか?
(そういえば……、結局アイツら、一人も俺を名前で呼んでくれてなかった)
『勇者様』と呼ばれることに抵抗がなくなっていたせいで気にしていなかったが、改めて思い返せば変な話だ。
それはただの称号なのだから。
「俺が欲しかったのは……ずっと褒めちぎってくるような仲間だったのか?」
独り、夜空に輝く星を眺めながら自問自答する。
しかし答えは掴めない。
「……結局。ジョブを手に入れたところで、優秀な加護を授かったところで、俺は一人ぼっちじゃないか」
そんな愚痴を吐いていた時だった。
「おわっ! やっべ! 制御が効かねぇ~!!」
少年の声が聞こえてくる。思わず振り返ってみると……。
――ドォオオン!!!
ライガは爆炎に包まれた。
「うわぁああ! やべぇ! 誰かそこに居るのか!?」
直後、自分より少し年下くらいの背格好の少年が声を掛けてくる。
「……ケホッ! いや、大丈夫だ」
確かに大丈夫だった。自分の服以外は。
「うぉっ!? マジかアンタ。あの爆発の直撃食らって平気なのかよ!?」
少年は黒焦げになっても平気な顔をしているライガを興味深そうに見つめる。
「……えっと、君は?」
「ああ、俺の名前はカイン。いまちょっと実験しててさ! って、その顔知ってる! 勇者とかいう奴だろ?」
ああ、コイツもか。ライガは吐き捨てるように言い放つ。
「そうだよ。勇者ライガだ。……悪いが、今は仲間になる気はない」
「はぁ? 仲間ぁ~? 何言ってんだ、お前」
訝しげな表情のカインを、ライガは思わず「えっ?」という目で見返した。
「俺の仲間になりたくて、話しかけてきたんじゃないのか?」
「……別に? さっきも言っただろ、俺はただ実験してただけ」
「実験……?」
それが、ライガにとって運命の出会いとなるのだった――……。
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