第10話「二人の出会い」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。
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「……カインといったな。お前は、俺を見ても何とも思わないのか?」
ライガは、今までの連中と明らかに反応の違うカインに驚いていた。
「んん? 何って、確かに俺好みのイケメンだけど……じゃなくて! 何かあんのか?」
初めてだった。どうせすぐに『勇者様、最高!』と何の脈絡もなく持ち上げられるのだろうと思っていた。
「まぁ、怪我がないなら良かった良かった! んじゃ、俺はこの辺で……」
「あ……、待ってくれ!」
そそくさと立ち去ろうとしたカインを、ライガは咄嗟に引き留めた。
「うわぁああ! すまん、やっぱ怒ってるよな?」
「いや、違うんだっ! あの、その……っ、どこかで話さないか? 君のこと、もっと聞かせて欲しい」
「え……?」
◆◇◆◇
「それが、カインとの出会いだったんだ」
レオンは墓標を見つめながら、懐かしそうな声で語る。
隣に鎮座するライガもまた、ジッと墓に刻まれた名前を見つめていた。
「アイツだけは、何故か勇者の持つ加護の影響を受けていなかった。だから俺達はすぐに打ち解けた。今までで一番充実した毎日だったよ」
「……どうして、カインには加護の力が働かなかったんだ?」
「原因については確たる資料が見当たらなかった。ただ……そうだな、これは当事者だからこその意見だが、本当に心を通わせられる者には加護なんて要らないんじゃないかな」
「それって……」
「ああ。俺は……いや、俺達は互いに少しずつ惹かれ合っていったんだ」
◆◇◆◇
「へぇ……? 料理本が錬金術に役立つのか?」
国立図書館に設けられた来賓室。ライガとカインの二人は様々な本を読み漁っていた。
「ああ、素材を混ぜ合わせて新しいものを作る……。錬金術師が使う『合成』に似てるだろ? お前も料理に興味あるって聞いて取り寄せてもらったんだぜ」
カインは錬金術師のジョブを持っていた。その知識を増やしたいとのことで、勇者の名のもとに来賓室を貸し切っていたのだ。
「いやぁ~! さっすが勇者様だなぁ。一声掛けただけで皆ホイホイ手続きしてくれんの。おかげで貴重な文献も読み放題だ。あっはっは!」
「……勇者を小間使いするなんて、前代未聞だな」
ライガはクスッと笑った。カインはその快活な性格も相まって一緒に居てとても居心地が良かった。
「俺な? 究極の合成薬を作るのが夢なんだ。どんな怪我もたちどころに直しちまう、夢のような薬をな」
「……そうか。壮大な夢なんだな」
目を輝かせるカインを、ライガは羨ましく思った。
(最初は貰い物の力でも、懸命に努力してスキルを磨けば、こんなにも輝いて見えるんだな……)
自分は、勇者になって以来、その力に煩わしさばかり覚えてきた。
「俺には……夢や目標といったものは無かったんだ。言われるがまま、魔物を討伐する日々にうんざりしていた」
「ライガ……」
ライガはグッとカインの手を握ると、真剣な表情で彼を見つめる。
「カイン、俺は……お前の夢を応援したい。その為なら、この貰い物の力、いくらでも貸してやる。だから、これからもずっと俺の隣に居て欲しい――……」
そこまで言った時、カインの指が唇を塞ぐように触れてきた。
「バーカ! んなもん、言われなくても分かってるっつーの! お前と一緒に居るさ。いつまででもな」
唇に触れていた指は顎を支えるように移動すると、カインの唇が近づいてくる。
そっと重なった瞬間、ライガの胸の奥で何かが弾けた。
驚きと同時に、温かな熱がじんわりと広がっていく。
「……カイン」
息を漏らすように名前を呼ぶと、カインはにやりと笑って、しかし瞳の奥は真剣そのものだった。
「なぁ、ライガ。お前が思ってるより、俺はずっとお前のことを信じてるんだぜ。勇者だろうが何だろうが関係ねぇ。お前がお前でいる限り、俺は隣にいる」
ライガは言葉を失い、ただ見つめ返す。
自分の存在を、肩書きではなく“自分自身”として受け止めてくれる。そのことが、どれほど心を救うか。
「……ありがとう。カイン」
握った手を強く結び直す。もう二度と離したくない。
重なり合った唇は、ただの誓い以上のものを伝えていた。
来賓室の窓から差し込む夕陽が、二人を優しく照らしていく。
「……なぁ、ちょっとだけ良いだろ?」
カインは意地悪そうな顔で、ライガの股間を撫で始めた。
「お、おい……っ! こんなところで……っ」
ライガはハッとしてカインを制止しようと肩に手を置く。
「良いじゃん、ご無沙汰なんだし。ここ貸し切りなんだから、時間まで誰も来ねーよ」
「お前……っ、本当に節操ないな」
しかし、ライガは服の上から股間を上下に愛撫される刺激に身を投じていく。
「ん……っ、はぁ……っ」
「へへっ♪ お前本当、ここ弄られるの弱いよなぁ? 無敵の勇者様にこんな弱点があったとは」
「……良いんだよ、お前にしか……触らせないから」
ライガは我慢できなくなったのか、少し腰を浮かせると自分のズボンを下着ごと一気に下に下ろした。
「……俺の負けだ。ほら、もうお前のせいでこんなになっちまった。後は好きにしてくれ」
「おおっ、こりゃすげぇわ♪ んじゃ、お言葉に甘えて……好きにさせてもらうぜ♡」
◆◇◆◇
「へぇ~? カインってやつ、かなり積極的なんだな」
ライガはニマニマとレオンの股間を眺めていた。
「ははっ、そうだな。アイツにはいつもリードされっぱなしだった。でも、不思議とそれが心地よかったんだ」
風が吹き抜ける度、花の良い香りが二人を包み込む。
「でもさ、こんなとこにカインの墓があるのは……何でなんだ?」
「ああ、それは……」
◆◇◆◇
「……なぁ、カイン。どこまで行くんだ?」
翌日、カインに見せたいものがあると言われ、ライガは森の奥地に足を運んでいた。
「へっへ~♪ 俺のとっておきの場所、教えてやろうと思ってな。丁度、満開の時期だし」
「……?」
しばらく歩き、森を抜けると目の前には花園が広がっていた。
「おぉ……っ! ここ、すごいな!」
ライガは思わず感嘆の声を漏らす。
「ああ、俺の秘密の場所。お前にしか教えてないんだぜ?」
カインは自慢げに笑うと、続けた。
「でさ、お前に見せたいものってのは、これだけじゃないんだ。ほら、あそこに見えるの分かるか?」
指差された先、丘の上に何か光るものが見える。一瞬、人影に見えたそれは――……。
「あれは……鎧か?」
「ご明察ぅ~! 最近知り合った鍛冶師職人の爺さんに依頼して特別に作ってもらったんだ!」
ライガは丘の上まで到着すると、鎧に手を触れてみた。
「これ、良いな。確かに一級品だ。これを……俺に?」
「おおっと、まだだぜ? すげぇのはここからよ!」
と、カインはライガを少し下がらせた。
「さ~って、昨日『勇者印の極上タンパク質』をしこたま摂取できたし、こんな市販品の賢者の石もどきでも成功率は跳ね上がるはず……」
そう言うとカインは懐から取り出した石を鎧にセットし、力を込めはじめた。
途端、辺りが少し薄暗くなったかと思うと花園の花弁がカインと鎧の周りに集まり出す。
「な、何が始まるんだ!?」
「まぁ見てろって♪ 知ってるか? ここに咲く花。花言葉は『献身的な愛』なんだってさ」
そして、カインと鎧は眩い光に包まれた。
「~~~っ!!」
舞い散る花弁と強烈な光に目を開けていられない。
しかし、光は時期に収まり辺りも静けさを取り戻していった。
「ふぅ~……。上手くいったみたいだぜ」
カインが額に滴る汗をぬぐいながら満足げに語る。
「出来たぜライガ! 俺様の傑作、名付けて『武勇の衣』だ! 俺の錬金術師の力で、ここの花に宿る力を鎧に『合成』させた。これで、この鎧はどんなに離れていてもお前を守るために駆けつけてくれる……かも?」
「……なんだよ、ハッキリしないな」
「まぁ、俺も『概念』の合成なんて初めてやったからな。でも、効果はバッチリの筈だぞ!」
ライガは改めて鎧に触れてみる。確かに、さっきとは何かが違う気がした。
「ありがとう、カイン。武勇の衣……か。大切に使わせてもらうよ」
「おうよっ! ま、合成に失敗しなかったのは『勇者印の極上タンパク質』のおかげかも? また摂取しとこうかな~?」
「はは……、勘弁してくれ。こんなところで全裸にされて、搾り取られるのは流石に恥ずかしいよ」
顔を見合わせて、思わず吹き出す二人。
この幸せな時間がずっと続いて欲しかった。そう、続けば……良かったのに。
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