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イレギュラー・マリオネット~人形達の休日~  作者: 流右京


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第03話「寄り道」

「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。

前作はこちら

https://ncode.syosetu.com/n9755kt/

「ここ、すっげぇな……!」


レオンの案内で訪れたのは、一面に広がる花園だった。

白い花が咲き誇り、風に乗って花弁が散る様は幻想的だ。


「……ここは、俺たちの秘密の場所だったんだ」


「へぇ……! え、俺たち……?」


「…………」


レオンは、黙って幾つかの花を摘み、手際よく花束を作るとライガに話しかけた。


「ライガ、お前に……会わせたい人がいるんだ。ついてきてくれ」


「会わせたい人……?」


レオンは頷くと、花園を進む。ライガもその後をついていった。


「……なぁ、何でレオン兄ちゃんはこんな所知ってたんだ?」


「『俺』が知っていた訳じゃない。アイツが……『勇者ライガ』がここを大切に想っていたから、強く記憶に残っていたんだ」


しばらく進むと、丘の上に出た。

そこには石造りの墓標がポツンと立っていた。しかし、その外見はボロボロで、刻んである文字もほとんど(かす)れていた。


「流石に、200年も経ってしまうとボロボロだな。無理もないが」


レオンは丁寧に墓の汚れをふき取ると、花束をそっと置いた。


「……すまない、カイン。随分来るのが遅れたな」


片膝を付き、目をそっと閉じると墓石を撫でながら呟く。


「兄ちゃん……そいつ、知り合いなのか?」


後ろでライガが問いかける。レオンは少し目を開けるとライガに語り掛けた。


「ここに眠っている者の名は……カイン。勇者ライガが……唯一愛した男だ」


絞り出すような声。


本来、生まれ変わった自分とは関係ない筈なのに、その熱い感情はひしひしと全身を支配するように広がっていく。


ああ、まだ自分にもこんな感情が残っていたなんて。

いや、無理もない。人格が変わったとはいえ、この肉体は紛れもなく『勇者ライガ』の体なのだから。


「ずっと、ここに来るのを躊躇(ためら)っていたんだ。俺は……アイツとは違うと言い聞かせてきたからな」


「そっか、レオン兄ちゃん……アイツを受け入れたんだよな。グリオールから聞いた」


「ああ。アイツはもう俺の中に溶けた。だからこそ、ここに来る決心がついた。ずっと待たせてしまったけれど」


墓石を撫でる度に、胸の奥に熱が蘇ってくる。

これは、自分の中のアイツが反応しているのだろうか?


「……あの、さ。俺も触って良いか?」


ライガがレオンの隣に座ると、一緒に墓石を撫で始めた。


「前に、夢を見たんだ。多分あれは……俺が勇者だったころの夢だ。でさ、そこに男が出てきたんだ」


「……そうか」


「もしかして……コイツなのか? 夢に出てきたのって」


レオンは小さく頷いた。


「……恐らく、そうだな。アイツは、カインへの想いが強かった。だから魂にも刻まれていたんだろう。転生したお前の夢の中に現れても、不思議じゃない」


ライガは墓石を見つめたまま、そっと指でその欠けた文字の跡をなぞった。


「……名前も顔もよく思い出せないけど、あったかかったんだ。なんか、安心できた。……コイツを守らなきゃって、思った」


レオンはその言葉に微笑を浮かべると、小さく息を吐いた。


「カインは、そういう奴だったよ。自然に誰かを笑わせていて、いつも守ってくれた。ライガも、彼の笑顔に何度も救われていたんだ」


風が吹き抜け、花弁がふたりの間に舞い落ちる。


「……だから、俺は――いや、『ライガ』は、そんなカインを、どうしようもなく愛してしまったんだ」


レオンの声が震えていた。


「けど、勇者だからと周りから責任を背負わされて、来る日も来る日も魔物を討って……だから、選べなかった。カインと生きる未来を」


「……そっか。だから、後悔してるんだな」


ライガの言葉に、レオンは肩を落とすようにして頷いた。


「ここに来たところで、気休めにしかならないと分かっていた。あの時、最後に交わした言葉さえ、もはや今の俺には関係ない。でも……それでも、胸が痛むんだ」


「うん……なんか分かる気がする。俺も、ここに居ると同じ気持ちになってくるんだ」


ライガは、自分の胸に手を当てた。


レオンはその言葉に驚いたように顔を上げたが、すぐに納得したように目を細めた。


「……やっぱり、お前の中にも残っているのかもな。アイツの欠片が」


「レオン兄ちゃん。……俺、知りたい」


「ん?」


ライガは真剣な眼差しでレオンを見上げた。


「俺が……勇者だったころの、大事な人のこと。もっとちゃんと、知っておきたい」


その瞳には迷いがなかった。過去を拒絶するのではなく、受け入れようとする覚悟があった。


レオンはゆっくりと立ち上がると、墓の前に向き直った。


「……そうだな。良い機会だし、伝えておこう」


「……良いのか?」


「ああ、聞いてくれ。俺の……いや、『勇者ライガ』の話を」


ライガの言葉に、レオンは静かに頷いた。


そして、風の中でそっと語り始めた。

二百年前――誰にも知られることのなかった、勇者の物語を。

Copyright(C)2026-流右京

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