第03話「寄り道」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。
前作はこちら
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「ここ、すっげぇな……!」
レオンの案内で訪れたのは、一面に広がる花園だった。
白い花が咲き誇り、風に乗って花弁が散る様は幻想的だ。
「……ここは、俺たちの秘密の場所だったんだ」
「へぇ……! え、俺たち……?」
「…………」
レオンは、黙って幾つかの花を摘み、手際よく花束を作るとライガに話しかけた。
「ライガ、お前に……会わせたい人がいるんだ。ついてきてくれ」
「会わせたい人……?」
レオンは頷くと、花園を進む。ライガもその後をついていった。
「……なぁ、何でレオン兄ちゃんはこんな所知ってたんだ?」
「『俺』が知っていた訳じゃない。アイツが……『勇者ライガ』がここを大切に想っていたから、強く記憶に残っていたんだ」
しばらく進むと、丘の上に出た。
そこには石造りの墓標がポツンと立っていた。しかし、その外見はボロボロで、刻んである文字もほとんど掠れていた。
「流石に、200年も経ってしまうとボロボロだな。無理もないが」
レオンは丁寧に墓の汚れをふき取ると、花束をそっと置いた。
「……すまない、カイン。随分来るのが遅れたな」
片膝を付き、目をそっと閉じると墓石を撫でながら呟く。
「兄ちゃん……そいつ、知り合いなのか?」
後ろでライガが問いかける。レオンは少し目を開けるとライガに語り掛けた。
「ここに眠っている者の名は……カイン。勇者ライガが……唯一愛した男だ」
絞り出すような声。
本来、生まれ変わった自分とは関係ない筈なのに、その熱い感情はひしひしと全身を支配するように広がっていく。
ああ、まだ自分にもこんな感情が残っていたなんて。
いや、無理もない。人格が変わったとはいえ、この肉体は紛れもなく『勇者ライガ』の体なのだから。
「ずっと、ここに来るのを躊躇っていたんだ。俺は……アイツとは違うと言い聞かせてきたからな」
「そっか、レオン兄ちゃん……アイツを受け入れたんだよな。グリオールから聞いた」
「ああ。アイツはもう俺の中に溶けた。だからこそ、ここに来る決心がついた。ずっと待たせてしまったけれど」
墓石を撫でる度に、胸の奥に熱が蘇ってくる。
これは、自分の中のアイツが反応しているのだろうか?
「……あの、さ。俺も触って良いか?」
ライガがレオンの隣に座ると、一緒に墓石を撫で始めた。
「前に、夢を見たんだ。多分あれは……俺が勇者だったころの夢だ。でさ、そこに男が出てきたんだ」
「……そうか」
「もしかして……コイツなのか? 夢に出てきたのって」
レオンは小さく頷いた。
「……恐らく、そうだな。アイツは、カインへの想いが強かった。だから魂にも刻まれていたんだろう。転生したお前の夢の中に現れても、不思議じゃない」
ライガは墓石を見つめたまま、そっと指でその欠けた文字の跡をなぞった。
「……名前も顔もよく思い出せないけど、あったかかったんだ。なんか、安心できた。……コイツを守らなきゃって、思った」
レオンはその言葉に微笑を浮かべると、小さく息を吐いた。
「カインは、そういう奴だったよ。自然に誰かを笑わせていて、いつも守ってくれた。ライガも、彼の笑顔に何度も救われていたんだ」
風が吹き抜け、花弁がふたりの間に舞い落ちる。
「……だから、俺は――いや、『ライガ』は、そんなカインを、どうしようもなく愛してしまったんだ」
レオンの声が震えていた。
「けど、勇者だからと周りから責任を背負わされて、来る日も来る日も魔物を討って……だから、選べなかった。カインと生きる未来を」
「……そっか。だから、後悔してるんだな」
ライガの言葉に、レオンは肩を落とすようにして頷いた。
「ここに来たところで、気休めにしかならないと分かっていた。あの時、最後に交わした言葉さえ、もはや今の俺には関係ない。でも……それでも、胸が痛むんだ」
「うん……なんか分かる気がする。俺も、ここに居ると同じ気持ちになってくるんだ」
ライガは、自分の胸に手を当てた。
レオンはその言葉に驚いたように顔を上げたが、すぐに納得したように目を細めた。
「……やっぱり、お前の中にも残っているのかもな。アイツの欠片が」
「レオン兄ちゃん。……俺、知りたい」
「ん?」
ライガは真剣な眼差しでレオンを見上げた。
「俺が……勇者だったころの、大事な人のこと。もっとちゃんと、知っておきたい」
その瞳には迷いがなかった。過去を拒絶するのではなく、受け入れようとする覚悟があった。
レオンはゆっくりと立ち上がると、墓の前に向き直った。
「……そうだな。良い機会だし、伝えておこう」
「……良いのか?」
「ああ、聞いてくれ。俺の……いや、『勇者ライガ』の話を」
ライガの言葉に、レオンは静かに頷いた。
そして、風の中でそっと語り始めた。
二百年前――誰にも知られることのなかった、勇者の物語を。
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