第02話「もし、弟がいたなら」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。
前作はこちら
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今回は「レオン」を主人公にストーリーが進みます。
前作では語りきれなかった勇者の過去に焦点を当てていきます。
「……で、結局出かけるの? どうするの?」
一通り楽しんだグリオールは、紅茶のおかわりを注ぐレオンに声を掛けた。
「あ、はい。では……折角のご厚意、ありがたく拝受いたします」
レオンは紅茶を注ぎ終わると、そのまま主人に向かって深々と頭を下げた。
「あっそ。せいぜいライガちゃんと楽しんできなさいな。で、行きたい所とかあるのかしら?」
「そう……ですね。では――……」
レオンは一瞬間を置くと、グリオールに向き直り胸に手を当てて膝まづく。
「……お許し頂けるのであれば、地上界テラアースへ行きたいと思います」
「テラアースに……ですか? どうしてです?」
レオンの発言に、思わず声を出したのはノクスだった。
地上界テラアースーー…。
それは天人達が住まう天界とは別に存在する世界の一つだ。レオンは受肉人形として転生する前、そこで暮らしていた。
「実は、俺が『勇者ライガ』だった頃に地上界に残していたものがあるんです。それを回収しようかと」
「ほう? 勇者の遺産というやつですか。で、それはどんな?」
「いえ、ただの資料集です。まだ残っているか分かりませんが……その有無も含めて確認しに行こうかと」
勇者ライガ。それは自分の前世ともいうべき人物だ。
「いまの俺は、勇者の死体から作られた人形。であれば、アイツの残した物を回収するのは義務だと思っています」
その言葉を聞き、ノクスも頷く。
「分かりました。では地上界への通行証を発行しておきましょう。4つある地上界のうち、テラアースは東聖堂の管轄ですし、受肉人形だけでの移動も融通がききます」
「ご配慮くださりありがとうございます、ノクス様」
「地上界か! 俺も行きたい!」
ライガはよほど嬉しいのか、手を上げて目を輝かせながらピョンピョンと飛び跳ねる。
「こらっ! お茶に埃が入るでしょうが! 少しは落ち着きなさい」
「まったく……騒がしい子たちばかりで、静かなお茶会も開けやしないわねぇ」
相変わらずグリオールはクスクスと笑いながら二人の会話を聞いている。
と、ノクスの紅茶を飲む手が止まった。
「あ、そうだ! テラアースへ行くんだったら……お使いを頼んで良いですか?」
「お使い……ですか?」
ノクスは懐から封書を取り出した。
「……ノクス様、それは?」
「依頼書です。エルト君へのね」
「エルトって……ああ、前に白い塔の調査で活躍してくれた地上人の子よね」
「ええ。実はあの後も各地上界で異変が無いか調査すべきという意見が出ていまして。ただ、前回のジルミスとの一件で未だ処理しきれていない書類が山積みですから」
ノクスはしっかりと封がされていることを確認すると、レオンに差し出した。
「……なるほど。地の利がある地上人に任せるというのは、名案だと思います」
レオンは封書を受け取ると、改めて姿勢を正す。
「それでは、しばらくライガをお借りいたします」
「ええ。依頼書の件ともども、よろしくお願いしますね」
ノクスはニコッと笑うと、改めて紅茶に口をつける。
「いよっしゃぁあ~! お出かけお出かけ~♪」
と、はしゃぐライガを見て何かを思い出したのか、ノクスは何か呪文のような言葉を呟きながら空間に手を伸ばした。
すると、空間の一部がノクスの腕をズブリと飲み込む。これは、天人が良く使う空間収納の術だ。
「そうだ、地上界に行くなら、テラアースのお金を渡しておきましょう。ええっと、財布が確かこの辺に……」
「あ……っ!!」
さっきまで大騒ぎしていたライガがピタリと止まった。
「な、なぁ……ノクス? 俺の事は気にしなくて良いから、その辺で手を引っ込めとけよ……?」
「おや? 主人に気を使えるなんて成長しましたねぇ。でも、可愛いライガの為なら多少の出費なんて……」
――ガッシャァアアンッ!! ガラガラガラ……。
何かが盛大に壊れる音が耳に入る。
見ると、空間から大量のオモチャが飛び出て、ノクスがお気に入りだと言っていたカップが粉々に粉砕されていた。
「…………は?」
ノクスは茫然とその光景を見ていた。脳が理解しきれていないようだ。
「あ……っ、やっべ」
思わず後ずさりするライガだったが、時すでに遅し。
レオンもこの後の展開を察し、そっとグリオールの両耳を塞いだ。
「ラ、イ……ガァァアアア!!! また勝手にオモチャを詰め込みましたねぇぇ!!??」
ノクスは大声を張り上げ、怒りに震えながら再び指輪に力を込めるのだった。
◇◆◇◆
「んん~! ここ、空気良いなぁ~」
転移ゲートをくぐり抜けて、ライガとレオンの二人は地上界テラアースへと降り立った。
「にしてもよぉ! ちょっとヘマしたくらいで裸にして逆さ宙釣りにするとか、マジムカつくぜ!! おまけに、オモチャの処分まで自分でしろって言われるし」
「けど、ノクス様が手配してくださった通行証のおかげで、簡単な書類審査だけで通れたんだぞ?」
「けっ! それもこれもノクスが東聖堂の政務官様だからだってんだろ? ま、こういう時だけは都合が良いな」
ライガは相変わらず主人への悪態をついていたが、レオンは知っている。
通行証を見せてノクスの名前を出した際、畏まる門番を見てライガは誇らしげな表情をしていたことを。
(ノクス様が事前に段取りしてくださったとのことで、認識齟齬の術式も自動付与されているらしいからな……。このまま地上人に会っても大丈夫だろう)
通常、天界の住人が地上界に行く際は様々な術式を施す決まりになっている。それは秩序の為でもあり、防衛の為でもあるのだ。
本来、レオン達のような受肉人形は天人が使う術を使えないのだが、転移ゲートには設定した術式を付与する機能があるとのことだった。
「ライガ、俺たちの今回の目的は分かっているか?」
「んぁ? ええっとぉ~……アレだろ? エルトに会って依頼書とかいうの渡すんだよな!」
「ああ、エルト様との待ち合わせ場所と時間は伺っている。その後は勇者の私物を回収しに行くんだが……ついてくるか?」
「もちろん! 今日は俺がレオン兄ちゃん独り占めだかんな!」
ライガはガシッとレオンの鍛え上げられた腕にしがみつく。
「……そうか。まぁ、お手柔らかにな?」
もし、弟がいたならこんな感じなのだろうか?
レオンはそう思いながらライガの頭を撫でた。
――ビクンッ!
その時、ライガの全身が一瞬震えたかと思うとその場で直立したまま硬直する。
「……? ライガ?」
声を掛けたが全く反応がない。しばらく小刻みに震えたあと、口が開いた。
『……もしもし? レオン君、聞こえます?』
それはライガの声だったが、明らかに口調は別人のようだった。
「あ、はい。もしかして……ノクス様ですか?」
『ええ。天界からだと流石に≪伝通の術≫の通信圏外だったので、いまライガを通じて話しています』
ライガ自身は意識を失っているのか、虚ろな表情のまま、その場で涎を垂らしながら口をパクパクと開き、ノクスの口調で話し続ける。
『エルト君とは天界に出入りしている地上界の業者を通じてやり取りしていたのですが、連絡に行き違いがありまして……待ち時間を変更して欲しいとのことです』
「はい、了解しました」
『申し訳ないです。……え? ああ、はいはい! 分かってますよ、グリオール。今通話中……って、ちょっと! そんなド派手な服、着ていかないでください!』
突然、ライガは白目を向いてカクカクと揺れ始めた。どうやら人形の操作が覚束なくなっているらしい。
(……あっちは余程バタバタしているようだな)
レオンは、その様子を観察しながらもしばしライガを見守る。
『おっと、僕もそろそろ準備しないと……。えっと、時間は――……』
◇◆◇◆
しばらくすると、ライガの意識が戻った。
「――はっ!? あれ、いま俺なにしてたんだ??」
「ああ、目が覚めたか? ノクス様がお前を通して伝言されていたんだ」
「ったく、イラつくなぁ! クソ主のせいで折角の楽しい気分がぶち壊しだぜ!」
ライガは不本意にノクスに操られたのが不満なのか、ブツブツと文句を言っていた。
「仕方ないさ、俺達のような受肉人形にとって主の意向は絶対だ。お前だって分かってるだろ?」
「けどよぉ……っ、くそ! アホノクス! バカノクス! ブツブツ……」
「そうだライガ、エルト様との待ち合わせまで時間が出来たし……少し寄り道してもいいか?」
「んぁ? 寄り道?」
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