第01話「人形達の休日」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。
前作はこちら
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今回は「レオン」を主人公にストーリーが進みます。
前作では語りきれなかった勇者の過去に焦点を当てていきます。
「えっ、お暇を……いただけるんですか?」
レオンが思わず声を上げた。
ここはアルフレイルと呼ばれる天空に浮かぶ国。
そこには天人と呼ばれる種族が住んでいた。
レオンはその一人、グリオールに仕える受肉人形と呼ばれる天人の守護者だ。
今日はグリオールの仕事仲間でもあるノクスの家で掃除の手伝いをしていたところ、思いがけない言葉を聞かされたのだった。
「そ。今日ね〜、東西南北の大聖堂合同の親睦会があるのよぉ。アタシら、そっちに出席しないといけなくって」
グリオールはめんどくさそうにソファに沈みながら、紅茶をズズッとすする。
「僕とグリオールは東聖堂の政務官と政務補佐官ですからね。一応代表という立場なので、逃げられないんですよ」
ノクスも続いて紅茶をすすると、レオンの焼いたクッキーを食べて舌鼓を打つ。
その横で、黒髪の少年が不機嫌そうに腕を組んでいた。
「で、俺は? 置いてけぼりかよ?」
彼の名はライガ。自分と同じ受肉人形の少年だ。
「当然。受肉人形の出席は禁止されてるので、君はお留守番です」
「チッ、天人様専用ってことかよ。つまんねーの」
しかし、主人であるノクスに対する態度はかなり横柄だった。
「仕方ありません。こういう付き合いもしておかないと各聖堂とのコミュニケーションも円滑に行きませんから」
「どーせ自分達だけで美味い飯食う気なんだろ? ずりぃぞ!」
「いや、親睦会というのはそういう催しじゃなくてですね……。ああもうっ! 君はいつも食い気ばかりなんですから」
「まぁまぁ、そんなにすねないで。せっかくだし、守護者同士でお出かけでもしてきたら~?」
グリオールの提案に、ライガの表情が明るくなる。
「それってレオン兄ちゃんと一緒に遊べるってことか!?」
さっきまでの不機嫌がどこへやら、満面の笑みを浮かべて詰め寄ってきた。
「ああ……俺でよければ」
「よっしゃあ! じゃあ今日はレオン兄ちゃんを独り占めってことだな! やったぁ!」
コロコロと表情が変わるライガを、レオンは微笑ましく見ていた。
「なんですかライガ! さっきまであんなに僕と離れるのが嫌だと言ってたのに!」
ノクスがすかさずライガの襟をつかんで引き戻す。
「一言も言ってねーだろうが! 都合の良いように言い換えんな!」
「やれやれ、四六時中僕にベッタリだった癖に……ちょっと目を離したらこれですか。……ライガ、悪い子にはお仕置きです」
ノクスの目がギラリと光る。左手薬指の指輪が不穏に輝いた。
「ベッタリしてたのはお前のほう……って、まさかまた!? やめろ! お前マジで性格悪いぞ!!」
「さぁさ、今日も張り切ってライガ人形劇を始めましょうね~?」
「やめろぉおおおお!! レオン兄ちゃん助け……」
ライガの叫びは虚しく、次の瞬間、彼の体はガクンと脱力し、白目をむいて口をポカーンと開けた。
意識こそ失ってはいるものの、体は命令を待っているようだ。
死者の魂が、天人達の『魂力』と呼ばれる力によって人形に受肉した姿、ゆえに受肉人形。
だから主人には逆らえず、こうやって強制的に操ることも可能なのだ。
「ふふ、試作品の伝導率、やっぱり良くなってるわねぇ〜。リンク人形より断然使いやすいわぁ」
グリオールがその様子を見ながら楽しげに茶をすする。
「そういえばグリオール様。リンク人形が天人達の間でもかなり不評だったと聞き及んでおります」
「ええ、そうなのよ。異形の脅威があった頃はお守り代わりに使われてたけど、今は不満が多くてね〜。ポケットに入れても、かさばるってクレームが山ほど届いてるって話」
(……災害が乱発すると非常食を買い漁る輩が多く出るけれど、終息するとあっさり捨て始める。あれと同じような現象か)
レオンは納得しつつも、天人達の移り気には少し呆れていた。
「さ〜て、動作確認っと……ふんっ!」
ノクスが指輪に魂力を込めると、ライガの指輪が淡く光り始める。
――ビクッ!
ライガの体が一瞬震えると、動き始めた。
『ご、ごめんなざいぃ、ご主人様ぁ……。ライガ、悪い子だったよぉ……っ! ヒック! ご主人様に、嫌われたくないよぉ……!!』
突然、別人のような泣き声をあげ、ボロボロと大粒の涙を流しながらノクスにすり寄るライガ。
「まったく……ライガは本当にツンデレなんですから」
ノクスは満足げに頭を撫でながら言った。
『グス……ッ、ご主人様はライガのこと……許してくれるの?』
ライガは、猫なで声で甘えるような上目遣いでノクスを見つめる。
「ええ、もちろんですよ? 君にはこれからも僕にご奉仕してもらわないと」
『うんっ! ライガ、これからい〜っぱいご奉仕する! ご主人様のためならなんでもするからぁ♡』
パッと明るい笑顔になると、ノクスに思いっきり抱き着いた。
「あらまぁ? 人形の操作、随分上手くなったわねえ。感情までコントロール出来るようになるなんて」
グリオールが思わず感心しながら二人のやり取りを鑑賞する。
「ふふ、凄いでしょう? 伊達に毎日、人形劇で遊んでませんよ?」
思わず自慢げに語るノクス。何か自慢する方向がズレているような気もするが、あえて言わないでおこうと思う。
『ご主人様ぁ〜♡ ほっぺにチューしていい? いいよね? んちゅ〜♡』
「ふふっ、可愛いですねぇ~? ライガはほんと……ぁああがががが!!!???」
突然奇声を発したノクス。見ると、その頬にガブリとライガが噛みついていた。
「……調子こいてんじゃねーぞ、この変態主ぃいい!!」
どうやら指輪の効力が切れたらしい。正気に戻ったライガは怒りで顔が真っ赤だ。
「いだだだだだっ!? やめっ、やめてライガ!! 頬がちぎれるぅぅぅ!!」
「ついでに鼻も噛んどくかぁ!? あと耳もセットでいっとくかコラァ!!」
部屋中を駆け回る二人。それを見ながら、グリオールが呑気に笑っていた。
「あっはっは、ほんっと飽きないわ〜この二人♪」
「は、はぁ……」
レオンは溜め息を吐きながら、心の中で再確認する。
――きっと、今のライガは、アイツが自由に生きられた未来なんだろう。
それを見守るのが、自分の役目かもしれないな……と。
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