第24話「パートナー」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。
前作はこちら
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「お待たせしましたのです! 薬ができたのです!」
エルトが『調合』を終え、薬を持って作業部屋から出てきた。
一行は、温泉で休養をとった後、エルトの家で修復薬ができあがるのを待っていた。
「おおっ! やったなエルト! で、それをどうすりゃ良いんだ?」
ライガは興奮した様子でエルトに声を掛ける。
「ふふ、見ててくださいなのです。これをこうして……」
エルトは、机に置かれた勇者が残した資料の紙に慎重にできあがった薬を一滴垂らす。
すると、黄ばんだ色味は白くなり、かすれた文字はハッキリと読めるほど色濃くなった。
「おおおお……! すっげぇ!」
ライガが目を輝かせて見つめている。
「お見事です。エルト様」
レオンも、エルトに賞賛の声を掛けた。
「いえいえ! これも皆さんが頑張ってくれたおかげなのです。それに……」
エルトは、懐からカインが残した小瓶を取り出した。
「カインさん……。彼が残してくれた合成薬のおかげでもあるのです」
(カイン……)
レオンは胸の奥が熱くなるのを感じた。
無論、受肉人形として生まれ変わった自分にとっては、それはもう恋愛感情ではないのだろう。
しかし、カインの努力は無駄ではなかったのだという事実が単純に嬉しかった。
「ありがとうございました、エルト様。おかげで資料として持ち帰れます。何かお礼ができれば良いのですが……」
「いえいえ滅相もないのです! 僕のほうこそ、お役に立てて何よりなのですよ」
「では、この小瓶をエルト様にお譲しましょう。残った薬液の成分を分析して再現すれば、現代でも農薬として役に立つはずです」
「ふぇっ!? 良いのです? で、でもでも!」
「埃を被ったままより、誰かの役に立って欲しいんです。どうか、お納めください」
「……あ、ありがとうなのです! きっと、素晴らしい薬にしてみせるのですよ!」
エルトはそう言うと、レオンに約束するように小瓶を握りしめた。
「……エルト! ちょっと良いか?」
ルグナスが意を決したかのようにエルトに声をかけた。
「ルグナス? どうしたのです?」
「……単刀直入に伝えるぜ! 俺、ずっとお前の事が好きだった!」
「……ふぇ!?」
「おお! マジでド直球……ふがが!?」
レオンはライガの口を塞ぎつつ、「しーっ」と人差し指を唇に当てた。
「俺さ、物心ついた時から、ずっとお前のこと意識してたと思う。でも、お前が錬金術師の適性に目覚めて、街の皆に頼られるようになると段々距離を感じてきたんだ」
「ルグナス……」
「俺なんかさ、何の取り柄もなくて。幼馴染とはいえ、もう隣に居られなくなるのかなって不安になったんだ」
ルグナスの言葉を聞きながら、レオンは納得していた。
「なるほど、だから旦那だと言い張っていたんだな」
「……ぷはっ! 兄ちゃん、どういうことだ?」
「夫婦というのは、相手が居ないと成立しないものだろ?」
「あ……、そっか!」
「もしかして、勇者になると言っていたのも、僕が勇者様に憧れていたからなのです?」
ルグナスは、ただ黙ってコクリと頷く。
「お前の傍に居られるなら、何だってなろうって思った。無茶だって分かってたけど、それでも一緒に居たかったんだ」
エルトは、胸の前で小さく握った手をぎゅっと強めた。
目元が少し潤んでいるのを、ルグナスは気づいていない。
「……そんなこと、思ってくれてたなんて……知らなかったのです」
「いや、そりゃ言えねぇよ……! 言ったら、振られるかもしれないって……怖かったんだ」
ルグナスは頭を掻きながら、それでも目だけはエルトから逸らさなかった。
長年抱えてきた思いを、もう隠す気はないという強い意志が滲んでいるように見える。
エルトは、ゆっくりと口を開いた。
「実は僕も、ルグナスがどんどん離れていくように見えて……本当は不安だったのです」
「へっ……!?」
ルグナスが目を丸くする。
「だってルグナスは、僕よりずっと体力もあるし、腕っぷしも強いし……。僕なんて、机にかじりついているだけで……つまらないと思われてないか、いつも心配してたのですよ」
「つ、つまらないわけねぇだろ!!」
ルグナスは思わず大声を上げて、慌てて口を押えた。
しかしもう止まらない。
「お前が一生懸命に研究に没頭してる姿、俺……めちゃくちゃ好きなんだよ!」
「ル、ルグナス……」
エルトの頬がほんのり赤く染まる。
「だから俺――」
ルグナスが一歩近づき、真剣なまなざしでエルトを見つめた。
「これからも、お前の隣に居たい。幼馴染としてじゃなく……別の形で、お前のことを守りたいんだ」
その場の空気が、一瞬でしんと静まり返る。
レオンもライガも口をつぐみ、ただ二人を見守っている。
エルトはぎゅっと小瓶を握りしめ、少し震える声で答えた。
「……僕も、ルグナスに隣にいてほしいのです。……君が居てくれると、すごく安心するのですよ」
ルグナスの瞳が、大きく揺れた。
「い、いいのか……?」
「はいなのです。君は僕のパートナーなのですよ!」
「パートナー……! そっか、パートナーか!」
「へへっ♪ よかったな、ルグナス」
ライガは嬉しそうにルグナスに声をかけた。。
ルグナスは何かを決意したかのように拳を握りしめ、皆に向かって声を張り上げた。
「よぉぉしゃあ! 決めたぜ、俺は今日から……エルトの“嫁”になる!」
「…………」
「…………」
「……ヨ……メ?」
一瞬の沈黙。
しかし、ルグナスはすぐに口火を切った。
「ずっと迷ってたけど、やっぱ生涯のパートナーになるなら、エルトに嫁ぐしかねぇよな!」
「ちょ、ちょっと待つのですルグナス!!!」
エルトは顔を真っ赤にしながら、両手をぶんぶん振って否定した。
ルグナスは胸を張り、なぜか誇らしげだ。
「いや、だってパートナーだろ? だったらどっちかが嫁にならなきゃ、しっくり来ねぇじゃん!」
「来ないのです!! 全く来ないのです!!! そんなの誰が決めたのです!?」
「俺の心だ!」
「意味不明なのですぅぅ~!!」
エルトが全力でツッコミを入れた瞬間、レオンとライガは耐えきれず吹き出した。
「ぷっ……あはははは!! お前ら本当いいコンビだな!」
ライガが腹を抱えながら笑う。
ルグナスは頬を膨らませながらも、不思議と嬉しそうだ。
「エルトは頭も良いし、皆に頼られてる。だがしかし! 俺は知ってるぞ、お前がいつもジャンクフードばかり食ってるのを」
「うぐっ!? だ、だって研究しながら手軽に食べられるし……」
「お前は研究に没頭すると、掃除も洗い物もロクにやらねぇ! だったら俺がエルトを支える方が自然だろ?」
「そそ、それとこれとは……!」
「ああ、もしかして『あっち』の話か? 安心しろ、夜もしっかり付き合ってやる! もちろん俺が受けで!」
「そういう話ではないのですぅぅ~!」
言い出したら聞かないルグナスに、エルトは頭を抱える。
「お! そっちの話だったら俺も得意だぞ?」
ライガもノリノリで話に割って入ってきた。
「何だよお前、経験者だったのか? ちょうどいい、旦那様を『気持ちよく』させる方法伝授してくれ!」
「任せとけ! なんたって毎晩ノクスに付き合わされてっからな。良いか? まず股を開いて、こう……相手に見せつけるように腰を少し上げて……」
「わぁぁああ!!? 実演しなくて良いのですぅ!!」
ライガの体を張った講習を、エルトは必死て止めに入った。
(本当、にぎやかだな……)
レオンも穏やかに笑いながら、三人のやりとりを微笑ましく見守っていた。
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★次回、最終回です




