第19話「唐突な遭遇」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。
前作はこちら
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「なにぃっ!? 大冒険に出かけるだって!?」
茶を飲みながら、レオンの話を聞いたルグナスは突如大声を上げた。
「大冒険じゃないのです! 静光の谷はそんな危険地帯じゃないのです!」
「ちっちっち! 知らねーのか? あそこ、最近魔物が出るって噂なんだぜ?」
「そうなのか? 何か楽しそうだな!」
盛り上がる二人を他所に、レオンは一人考え込む。
(魔物が……? あそこは生前、何度も足を踏み入れていたが……)
「レオンさん、どうしたのです?」
「ああいえ、何でもありません。あの、危険なのであれば俺とライガで採取してきます」
「いえ、ルミナの花は一般人が触るとすぐに枯れてしまうのです。錬金術師である僕でしか、採取できないのです」
「しかし、俺達の勝手な事情でそこまで危険な目に遭わせる訳には……」
「心配すんな! 俺がエルトを守るかんな!」
目を輝かせて喜ぶルグナスを見て、エルトが諦めた様子で呟く。
「……やっぱり君もついてくるのです?」
「当たり前だ! お前を守るのは未来の旦那として当然だぜ! それに、魔物と戦ってこそ戦闘経験値も溜まるってもんだ」
レオンは茶を飲み干すと、立ち上がった。
「了解です。しかし、危険と判断したらすぐに引き返します。それで宜しいでしょうか?」
「おうっ! がってんだ!」
「は、はいなのです!」
「では、準備を整えておいてください。夕暮れ時に静光の谷へ出発しましょう」
◆◇◆◇
夕暮れ。
西の空が朱に染まり、影が長く伸び始める頃。
四人は、街の外れにある林道から森の奥へと入って行った。
前に二人、ライガとルグナス。その後にエルトとレオンがついていった。
「……エルト様、足は疲れていませんか? 入用の物があれば、今なら引き返せますが……」
レオンが確認する。
「大丈夫なのです! それにほら! 道具もこの通り、採取用の手袋も瓶も、全部そろってるのです!」
エルトが胸を張る。腰のポーチには、いくつもの小瓶と道具がきっちり詰め込まれていた。
「採取用の道具ってそんなに多いのか? 色んな液体の入った瓶もあるぞ?」
ポーチの中を興味津々の様子で眺めていたライガがエルトに尋ねた。
「あ、これはいざという時の為に色々持ってきたのですよ。僕もよく素材採取に行くのですけど、稀に小型の魔物に遭遇する時もあるので……」
二人の会話にすぐにルグナスが割って入る。
「だから、そういう時は俺を呼べっていつも言ってるだろが! 俺はお前の護衛役でもあるんだぞ?」
自信満々に胸を叩いてアピールするルグナス。
ルグナスが拳を鳴らすと、ライガがすかさず呆れ顔を向けた。
「……その自信、どっから湧いてくんだよ。ま、いざとなったら俺が前に出るけどな」
「へっ、言ったな? 魔物が出たら、どっちが先に倒すか勝負だ!」
「……二人とも、にぎやかだな」
レオンの苦笑に、場の空気が和らぐ。
「……君が四六時中ベタベタつきまとってくるから、一人で素材採取に行ってるのですよ」
能天気な様子のルグナスの背中を見つめながら、エルトは「はぁ……」と溜息交じりに愚痴をこぼしていた。
「そういえば……エルト様に『白い塔』の調査で同行して頂いたときも、ルグナス様は居られませんでしたよね?」
「ああはい。あの時も聖水の材料の買出しに付き添うと言って聞かなかったので、こっそりルグナスの飲み物に睡眠薬を……」
「ん? なんだ? 俺がどうかしたか?」
エルトから自分の名前が出てきたのが嬉しかったのか、ルグナスが目を輝かせてこちらに振り返ってきた。
「な、何でもないのです! さぁ、行くのですよ!」
ゴホン! と、大きな咳払いをするとエルトはすぐに森の奥を指差した。
◆◇◆◇
やがて一行は林を抜け、静光の谷へと足を踏み入れた。
――その瞬間。
空気が変わった。
谷全体に、まるで息をひそめたような静寂が広がっている。
木々のざわめきも、虫の声も聞こえない。
ただ、淡い光の粒だけが宙を漂い、足元の草を青白く照らしていた。
「……きれい、なのです……」
エルトが息を呑む。
レオンは頷きながらも、視線を巡らせた。
(ここに足を踏み入れるのも、生前ぶりか。変わっていないな)
「おおー! すっげぇな!」
「ルグナス! 静かにするのです! 君は落ち着きがなさすぎるのです」
ルグナスが大声で感想を述べるのをエルトがたしなめる。
「だってワクワクするだろ? なぁ? ライガ!」
「おう! わかるわかる! 探検ってのはそういうもんだよな!」
二人はすぐに意気投合して拳をぶつけ合う。
(……本当に似た者同士、だな)
レオンは苦笑を浮かべつつも、すぐ真剣な顔に戻る。
「恐らく、あの辺に群生しているのがルミナの花ですね」
視線の先、白い花の群生地があった。
しかし、直ぐに異変に気付く。
ほとんどの花がどれも蕾のままだったのだ。
それどころか、開花せずに枯れているものもある。
「これは……、花に活気がないのです。これでは開花しないのですよ!」
(おかしい。記憶の中にある図鑑の記述も、今がちょうど開花時期だったはずだ。これは一体……?)
「ホントだ、なんかどれも萎えてるよな。まるで誰かに元気を吸われてるみてーだ」
「元気を、吸われている……? もしかして!」
ライガの言葉に、エルトはハッとした表情で土を調べ始めた。
「やっぱり! この土、栄養がほとんどないのです。これでは植物自体が育たないのですよ」
「どういうことだ? 誰かが栄養を横取りしてるってことか?」
と、その時だった。
風が止み、一瞬の静寂が周囲を包む。
「……なあ、兄ちゃん。何か変な感じがするぞ」
ライガが辺りを見回しながら低く声をかけてきた。
「ああ、妙な気配だ。どこからか視線を感じる……」
――と、その時だった。
「グルルルル……」
荒い息遣いと共に、獣の匂いが漂ってきた。
見ると、大型の魔物がこちらに向かって威嚇しているのが見えた。
「魔物……!?」
ライガが一歩前へ出て、拳を握りしめた。
茂みの奥から現れたのは、岩のような鱗を持つ四足獣。目は赤く光り、牙の間から黒い霧のような息を吐いている。
「あの巨体はグラル・ファング……? 森に棲む魔獣なのです! でも、どうしてこんなところに?」
エルトが青ざめながら叫ぶ。
(確かに、あの個体は森の奥地が住処の筈だ。一体どうして……?)
「よっしゃ、エルト! 俺が守ってやるぞ!!」
と、ルグナスが突進していく。
「――!? 待て!」
慌てて制止するが、既にルグナスがグラル・ファングに剣で切り掛かる光景が目に入った。
ルグナスの剣が閃いた。
鋭い一撃――のはずだった。だが、刃はグラル・ファングの分厚い皮膚に弾かれ、甲高い音を立てて弾き返される。
「な、なんだとっ!?」
次の瞬間、魔獣の尾が唸りを上げて横薙ぎに振るわれると、ルグナスは防御も間に合わず身体ごと吹き飛ばされた。
「ぐあっ――!!」
地面を転がり、岩に背を打ちつけた。
(まずい! あの位置だと魔獣の爪が届く!)
しかし、距離がある。
間に合わない。
グラル・ファングの爪が、倒れたルグナスの頭上へ振り下ろされる。
「ルグナス――!」
後からエルトの叫びが聞こえると同時に、谷に鈍い衝撃音が響いた。
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