表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イレギュラー・マリオネット~人形達の休日~  作者: 流右京


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/25

第16話「書き足された名前」

「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。

前作はこちら

https://ncode.syosetu.com/n9755kt/

「ライガく~ん! レオンさ~ん!」


待ち合わせ場所で待っていると、少年が慌てた様子でこちらに声を掛けてきた。


「よぉ、エルト! 久しぶりだな!」


「こんにちは、エルト様。お元気そうで何よりです。それと、こちらを」


レオンはノクスから預かった依頼書をエルトに手渡した。


「ありがとうございますなのです! まさか天人様からご依頼頂けるなんて……光栄なのです」


「けっ! それって雑用の押し付けだろ? おいエルト、面倒なら断っても良いんだぞ?」


「めめめ滅相もないのです~!!」


ライガとエルトのやり取りを、レオンは微笑ましく見ていた。


何だか、あの頃のカインとの思い出が蘇ってくる。


「そういやさ、今日はなんで遅れたんだ?」


「ごめんなさいなのです。調合に失敗して……作業部屋を爆発させちゃったのです」


エルトは何度もペコペコと謝罪していた。


「へぇ~? 爆発ねぇ。そういやお前も錬金術師だったな」


ライガはレオンと目を合わせるとププッと笑う。


レオンも、エルトに見えないように角度を付けつつ、静かに笑った。


「では、エルト様。もし宜しければ、俺たちで片付けを手伝います。人手は多いほうが良いでしょうし」


「えっ! 手伝って頂けるのです!?」


エルトに続いて、ライガも問いかける。


「なぁ、レオン兄ちゃん、良いのか? この後用事があるんだろ?」


「ああ、少しくらい構わない。俺もお前も、今日一日動ける分の魂力は貰っているしな。それにエルト様には白い塔の件でお世話になった。主人に代わってご恩返しができるチャンスだ」


「あ……そういえば。ノクスも助けてもらったっけ」


ライガも、エルトが合成薬を作って瀕死状態のノクスを助けてくれたことを思い出したようだ。


「……まぁ、仕方ねーか。俺も手伝ってやるぜ!」


「はわわわっ! あ、ありがとうございますなのです!!」


「べっ、別に……バカノクスの為って訳じゃねーかんな? ほんとだぞ?」


ライガは慌ててレオンに向かって訂正する。

しかし、耳まで真っ赤になっていた。


「……ああ、そういう事にしておこう」


レオンはクスッと笑うと、歩き出す。


「~~だからぁっ! ノクスの為じゃねーからな! 俺がただ手伝ってやろうかなって……」


ライガも後から続くが、ずっと言い訳のように叫んでいた。



◆◇◆◇



「おーい、エルト。これ、こっちで良いのか?」


「はいなのです! お二人のおかげで捗るのです~!」


レオンとライガの二人は、エルトの家で爆発した部屋の片づけを手伝っていた。


「それにしても……すっげぇ匂いだよな。俺、この部屋入った瞬間に気絶しかけたぞ」


ライガの言葉どおり、エルトの作業部屋は鼻が曲がるような刺激臭で満ちていた。


「うう~……ごめんなさいなのです。まさかあの調合比率で爆発するなんて……」


窓を開けて換気しながらエルトは何度も謝る。


「いえ、エルト様にお怪我がなくて良かったです。しかし、調合用の薬品や素材が多いのは分かりますが、随分と本も多いんですね」


レオンはテキパキと床に散らばった本の山を本棚に収納していく。


「えへへ……。実は、僕のひいおばあ様が良く仰っていたのです。『他人の意見や噂に惑わされず、自分の目で確かめて、資料を集めて判断すること』って」


途端、レオンの手がピタリと止まった。


「エルト様……! あの、その言葉……」


「あ、最初に会った時に話しましたよね? 僕のひいおばあ様は、教師をしていたそうなのです」


「教……師……」


レオンが話に乗ってきてくれたことが嬉しかったのか、エルトは笑顔になる。


「それがですね? とっても面白いのです。ひいおばあ様、『妖精さんに勉強を教えていたことがあるのよ』と仰っていたらしいのですよ!」


(妖精……。そうだったのか)


レオンの瞳が潤む。まさか、こんな偶然があるなんて。


「あ、そうそう! これ……見てくださいなのです」


エルトはそう言うと、金庫から大事そうに何かを取り出した。

それは、ボロボロのノートのような物だった。かなり年季が入っているらしい。


「エルト様、これは……?」


「ひいおばあ様いわく、これは妖精さんの為に残した出席名簿だそうなのです」


エルトは、レオンに出席名簿を渡すと続けた。


「ある日を境に、妖精さんとは会えなくなってしまったそうなのですが……ひいおばあ様は、よく仰っていたそうです。『私は、ちゃんと妖精さんにとって良い先生になれたかしら』と」


「…………っ!!!」


レオンの出席簿を握る手が震える。

熱くなる目頭。溢れそうな涙を必死にこらえた。


「そして、『いつかまた会えたら、今度は名前を教えてもらって、私のクラスの出席名簿に書き足したいの』と言って、この名簿を残したそうなのです」


と、その時。奥で片付けをしていたライガの声が聞こえてきた。


「おーい、エルト! これ以上入らねーぞ?」


「あ、はいなのです! いま行くのです」


エルトは慌ててライガの元に駆け寄る。



「……先生。あなたの考えは、しっかりと後世に受け継がれていったようですね」


レオンは、エルトが部屋の角を曲がる背中を見守りながら、ポツリと呟く。

そして、近くに落ちていたペンを拾い、出席名簿に何かを書き始めた。


「レオン兄ちゃ~ん! 手伝ってくれよぉ~!」


部屋の奥からライガの声が響く。


「ああ、今行く!」


レオンはそっと金庫の中に出席名簿を置くと、静かに呟く。


「……あなたは、最高の教師だったよ。ありがとう、先生」



その名簿の隅には小さく『ライガ』の名前が書き足されていたのだった。

Copyright(C)2026-流右京

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ