第14話「勇者の肉体(からだ)」
「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。
前作はこちら
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「アイツは、勇者なんて名ばかりの……ただの最低な卑怯者だ」
レオンは、深く息を吐く。
「レオン兄ちゃん……」
「結局、自己中心的な考えで無関係の冥王を巻き込んだ。いくら絶望していたとはいえ、許されることじゃない」
悔いがある。怒りもある。
それ以上に、どうしようもないほどの無力感があった。
ライガはただ、黙ってレオンの言葉を受け止めているようだった。
「だからこれは、アイツの体を受け継いだ俺の罪でもあるんだ。勇者の体を素体とした受肉人形として、主に尽くし続ける。例えどんなことがあっても」
レオンの声色からは、並々ならない決意が滲み出ていた。
「何か、聞けば聞くほど昔の俺と今の俺って、全然似てねーよな」
ライガがポツリと呟いた。
「……そう、だな。そういえば、前から疑問に思っていたんだが……お前が受肉した時、どうして子供の頃の姿になったんだろうな」
「え……? どういう意味だ?」
「俺みたいに、肉体に人格が宿ったケースを除いて、受肉人形は魂の器。だから、死んだ直前の姿で顕現することがほとんどなんだよ」
「そういえば、召喚事故が起こったってノクスが言ってたな。その影響ってことか?」
「恐らくそうだろう。もしかしたら、半端に魂の半分が受肉してしまったのかもな」
レオンは墓標に目をやる。あの卑怯な勇者の記憶が蘇る。
もしもライガが、あいつと同じ人格で顕現していたら――。
「俺としても……あんな卑怯者がそのまま現れていたら、迷わず切りかかっていたかもしれないな」
冗談めかして言ったが、レオンの目はまったく笑っていなかった。
ライガもその空気を感じ取ったのか、苦笑いを浮かべて首をすくめる。
「あ、はは……っ。オレ、半分のままで良かったぜ」
レオンは墓標の表面を軽く指でなぞると、すっと目を細めた。
「実はな、ここには一つの区切りをつけるためにきたんだ」
「区切りって?」
「……俺は確かに勇者ライガとして、彼を心から愛していた。それは事実だ。けれど、今の俺は……『レオン』なんだ」
そう、愛していた……。もう過去形だ。
いま、レオンとして心から愛しているのは……。
「兄ちゃんってさ、ノクスと出会う前からグリオールの受肉人形だったんだよな? どんな生活してたんだ?」
「そうだな。ここからは……レオンとしての話になる」
◇◆◇◆
青い炎が灯る薄暗い部屋。
目が覚めると、自分をのぞき込んでいる異形の存在が目に映った。
(ここ、は……?)
「はぁ~い♪ 勇者様、お久しぶり。私のこと覚えてるぅ?」
その存在が指をクイッと上げると、自分の体が宙づりになった。
四肢は動かせず、完全にされるがままだ。
「うぐ……!? ……ア…ッ」
「ほら、見てみなさいな。自分の姿」
そのまま鏡のように磨き上げられた壁に打ち付けられる。
改めて自分の現状を把握した。
一糸まとわぬ素肌。鍛え上げられた筋肉。
どれも、見覚えのある体だ。
しかし、どこか他人の姿のような感覚だった。
「あ……う……? あ……っ」
必死に口を開けるが、うまく言葉にならない。
「さすがに、死体から蘇ったばかりじゃ言葉もロクに喋れないかしら? でも、頭は働いてるみたいね」
……蘇った?
その言葉を聞いた瞬間、記憶が脳裏になだれ込む。
勇者ライガだった自分、愛する人を失った絶望、そして――……。
(俺は、死んだ……? そうだ。冥王の手で、殺されたはず……)
自分の手のひらを何度も握っては開いてを繰り返す。
冥王に貫かれた胸の傷も、跡形も無く消えていた。
「まだ現状が理解出来てないみたいねぇ? アンタはね、受肉人形として蘇ったの。いいえ、生まれ変わったと言っても良い」
「うまえ……あわった……?」
「そうよぉ? クスッ♪ 残念だったわねぇ、せっかく死ねると思ってたのに」
冷たい視線を向けられたまま、今度は思いっきり腹を蹴り上げられた。
「がは……っ!?」
「ふぅん……? やっぱり魂の気配を感じないわね。それなのに人格があるなんて、勇者の死体が素体だからなのかしら? 意外な結果だわ」
(……そうか。俺は、もう逃げられないのか)
ぼんやりと、そう思った。
その後も何度も殴られ、蹴られ続け、全身青あざだらけになった。
しかし、もう一切の抵抗はしなかった。
全身に痛みが走っても、骨が砕ける音が耳に響いても、それでも気付くと元通りに戻っていた。
「これ、は……!?」
「面白いでしょ? いまのアンタは受肉人形。私の魂力がある限り、その肉体はすぐに再生する。アンタにとって最高のお仕置きだと思わない?」
「…………」
「……あら、勇者ともあろうものが、もう音を上げちゃった?」
「ゆう……しゃ……」
改めてそう呼ばれたが、どうにも実感が湧かなかった。
「……? ねぇ、アンタ。本当にあのライガなの?」
冥王も何か違和感を感じ取ったような表情だ。
金色の眼でこちらをジッと見つめてくる。
「そういえば、肉体が傷ついたのに全然回復しなかったわね。さっきは私の魂力で元に戻したけれど、勇者には元々、色んな加護があったはずでしょ?」
確かにそうだ。
冥王と戦っている最中でも、勝手に加護が発動して、体は回復し続けていた。
それなのに、いまは何も力を感じない。
「ふぅん……? そういうことね。これは、良い暇つぶしのオモチャが手に入ったかも♪」
冥王の表情が不気味にニヤリと笑う。
それから、体中隅々まで調べ尽くされた。
麻酔無しで腹を裂かれたり、四肢をバラバラにされたこともあった。
しかし、すぐに冥王の強大な魂力で元に戻され、また八つ裂きにされる日々。
そんな中、自分の中に一つの感情が芽生えていくのを感じていた――……。
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