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イレギュラー・マリオネット~人形達の休日~  作者: 流右京


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第14話「勇者の肉体(からだ)」

「イレギュラー・マリオネット -The Wild Guardian-」の後日談にあたる話です。

前作はこちら

https://ncode.syosetu.com/n9755kt/

「アイツは、勇者なんて名ばかりの……ただの最低な卑怯者だ」


レオンは、深く息を吐く。


「レオン兄ちゃん……」


「結局、自己中心的な考えで無関係の冥王を巻き込んだ。いくら絶望していたとはいえ、許されることじゃない」


悔いがある。怒りもある。

それ以上に、どうしようもないほどの無力感があった。


ライガはただ、黙ってレオンの言葉を受け止めているようだった。


「だからこれは、アイツの体を受け継いだ俺の罪でもあるんだ。勇者の体を素体とした受肉人形として、主に尽くし続ける。例えどんなことがあっても」


レオンの声色からは、並々ならない決意が滲み出ていた。


「何か、聞けば聞くほど昔の俺と今の俺って、全然似てねーよな」


ライガがポツリと呟いた。


「……そう、だな。そういえば、前から疑問に思っていたんだが……お前が受肉した時、どうして子供の頃の姿になったんだろうな」


「え……? どういう意味だ?」


「俺みたいに、肉体に人格が宿ったケースを除いて、受肉人形は魂の器。だから、死んだ直前の姿で顕現することがほとんどなんだよ」


「そういえば、召喚事故イレギュラーが起こったってノクスが言ってたな。その影響ってことか?」


「恐らくそうだろう。もしかしたら、半端に魂の半分が受肉してしまったのかもな」


レオンは墓標に目をやる。あの卑怯な勇者の記憶が蘇る。

もしもライガが、あいつと同じ人格で顕現していたら――。


「俺としても……あんな卑怯者がそのまま現れていたら、迷わず切りかかっていたかもしれないな」


冗談めかして言ったが、レオンの目はまったく笑っていなかった。

ライガもその空気を感じ取ったのか、苦笑いを浮かべて首をすくめる。


「あ、はは……っ。オレ、半分のままで良かったぜ」


レオンは墓標の表面を軽く指でなぞると、すっと目を細めた。





「実はな、ここには一つの区切りをつけるためにきたんだ」


「区切りって?」


「……俺は確かに勇者ライガとして、彼を心から愛していた。それは事実だ。けれど、今の俺は……『レオン』なんだ」


そう、愛していた……。もう過去形だ。

いま、レオンとして心から愛しているのは……。


「兄ちゃんってさ、ノクスと出会う前からグリオールの受肉人形だったんだよな? どんな生活してたんだ?」


「そうだな。ここからは……レオンとしての話になる」



◇◆◇◆



青い炎が灯る薄暗い部屋。

目が覚めると、自分をのぞき込んでいる異形の存在が目に映った。


(ここ、は……?)


「はぁ~い♪ 勇者様、お久しぶり。私のこと覚えてるぅ?」


その存在が指をクイッと上げると、自分の体が宙づりになった。

四肢は動かせず、完全にされるがままだ。


「うぐ……!? ……ア…ッ」


「ほら、見てみなさいな。自分の姿」


そのまま鏡のように磨き上げられた壁に打ち付けられる。

改めて自分の現状を把握した。


一糸まとわぬ素肌。鍛え上げられた筋肉。

どれも、見覚えのある体だ。


しかし、どこか他人の姿のような感覚だった。


「あ……う……? あ……っ」


必死に口を開けるが、うまく言葉にならない。


「さすがに、死体から蘇ったばかりじゃ言葉もロクに喋れないかしら? でも、頭は働いてるみたいね」


……蘇った?


その言葉を聞いた瞬間、記憶が脳裏になだれ込む。

勇者ライガだった自分、愛する人を失った絶望、そして――……。


(俺は、死んだ……? そうだ。冥王の手で、殺されたはず……)


自分の手のひらを何度も握っては開いてを繰り返す。

冥王に貫かれた胸の傷も、跡形も無く消えていた。


「まだ現状が理解出来てないみたいねぇ? アンタはね、受肉人形として蘇ったの。いいえ、生まれ変わったと言っても良い」


「うまえ……あわった……?」


「そうよぉ? クスッ♪ 残念だったわねぇ、せっかく死ねると思ってたのに」


冷たい視線を向けられたまま、今度は思いっきり腹を蹴り上げられた。


「がは……っ!?」


「ふぅん……? やっぱり魂の気配を感じないわね。それなのに人格があるなんて、勇者の死体が素体だからなのかしら? 意外な結果だわ」


(……そうか。俺は、もう逃げられないのか)


ぼんやりと、そう思った。

その後も何度も殴られ、蹴られ続け、全身青あざだらけになった。


しかし、もう一切の抵抗はしなかった。

全身に痛みが走っても、骨が砕ける音が耳に響いても、それでも気付くと元通りに戻っていた。


「これ、は……!?」


「面白いでしょ? いまのアンタは受肉人形。私の魂力がある限り、その肉体はすぐに再生する。アンタにとって最高のお仕置きだと思わない?」


「…………」


「……あら、勇者ともあろうものが、もう音を上げちゃった?」


「ゆう……しゃ……」


改めてそう呼ばれたが、どうにも実感が湧かなかった。


「……? ねぇ、アンタ。本当にあのライガなの?」


冥王も何か違和感を感じ取ったような表情だ。

金色の眼でこちらをジッと見つめてくる。


「そういえば、肉体が傷ついたのに全然回復しなかったわね。さっきは私の魂力で元に戻したけれど、勇者には元々、色んな加護があったはずでしょ?」


確かにそうだ。

冥王と戦っている最中でも、勝手に加護が発動して、体は回復し続けていた。

それなのに、いまは何も力を感じない。


「ふぅん……? そういうことね。これは、良い暇つぶしのオモチャが手に入ったかも♪」


冥王の表情が不気味にニヤリと笑う。

それから、体中隅々まで調べ尽くされた。


麻酔無しで腹を裂かれたり、四肢をバラバラにされたこともあった。

しかし、すぐに冥王の強大な魂力で元に戻され、また八つ裂きにされる日々。


そんな中、自分の中に一つの感情が芽生えていくのを感じていた――……。

Copyright(C)2026-流右京

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