第4話「会ったはずの人」
「……連絡、取れました」
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後輩が少しだけ身を乗り出す。
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「早いな」
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「DM返ってきました」
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「なんて?」
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「“電話ならいいですよ”って」
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「……」
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思ったより軽い。
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もっと警戒されるかと思っていた。
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「変なやつじゃなきゃいいけどな」
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「どうですかね」
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苦笑しながら、後輩がスマホを差し出す。
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通話ボタン。
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「……かけるぞ」
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「はい」
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タップ。
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数秒のコール音。
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『はい』
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若い男の声だった。
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「すみません、突然」
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名乗る。
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オカルト雑誌のライターであること。
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例の投稿を見たこと。
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少し間があって、
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『あー……あれ』
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気の抜けた返事。
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『なんか広がってるみたいですね』
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「ええ、まぁ」
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「少し話聞いてもいいですか」
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『いいですよ』
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あっさりしている。
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拍子抜けするくらいに。
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「投稿にあった、“会ったことがある”って話なんですけど」
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『あー……』
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少しだけ、声が詰まる。
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『ありますね』
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「……」
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「覚えてます?」
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『いや、それが』
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小さく笑う。
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『覚えてないんですよ』
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「……は?」
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思わず聞き返す。
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『いや、会ったのは確実なんですけど』
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『どこで、何してたかが全然』
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「……」
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『でも、動画見たときに、“あ、こいつだ”ってなって』
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「それで投稿を?」
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『そうです』
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「……顔は分かるんですか」
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『いや』
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即答だった。
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『分からないです』
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「……」
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「でも、“そいつ”だと分かる?」
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『はい』
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迷いがない。
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『絶対そうです』
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「……」
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言葉に詰まる。
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「写真とか、残ってないですか」
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『ありますよ』
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「……」
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『ちょっと待ってください』
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ガサガサと音がする。
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数秒。
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『送りました』
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スマホが震える。
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後輩が画面を開く。
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送られてきた画像。
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「……」
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覗き込む。
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人が二人。
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屋外。
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普通の写真。
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「……これ」
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「はい」
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後輩も眉をひそめる。
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「……どっちですか」
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『それなんですよ』
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通話越しの声。
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『分かんないんですよ』
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「……」
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『どっちかなんですけど』
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『いや、どっちでもない気もするし』
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『でも絶対この中にいるんですよ』
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「……」
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写真を見る。
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二人いる。
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でも、
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「……」
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どちらも、
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“それっぽくない”。
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「……他にありませんか」
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『いや、これくらいで』
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『ていうか、これ見ても分かんないですよね?』
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「……ええ」
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正直に答える。
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『ですよね』
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少しだけ笑う。
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『でも、これ見たときは“分かった”んですよ』
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「……」
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『“あ、こいつだ”って』
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「……」
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その感覚が、
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妙にリアルだった。
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「……最後に一つ」
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『はい』
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「動画、何してるか覚えてます?」
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『……』
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少しだけ、沈黙。
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『……いや』
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『全然』
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「……」
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『でも』
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「?」
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『最後に、なんか言ってません?』
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「……」
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後輩と目が合う。
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『“いらっしゃいませ”って』
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「……」
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「……分かりました」
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通話を切る。
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「……どう思う」
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後輩に聞く。
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「いや……」
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少し考えて、
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「普通に怖いです」
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「だよな」
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小さく息を吐く。
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「……写真」
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もう一度見る。
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二人。
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どちらでもない。
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でも、
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「……」
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確かに、
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“誰かがいる気がする”。
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「……」
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ふと、
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違和感。
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「……なぁ」
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「はい?」
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「この写真さ」
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「はい」
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「……さっきと、同じだったか?」
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「……え?」
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後輩がもう一度画面を見る。
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「……同じ、じゃないですか?」
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「……」
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分からない。
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何が違うのか。
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でも、
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「……」
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確実に、
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“何かがズレている”。
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その感覚だけが、
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はっきりと残っていた。




