第3話「思い出せない」
「……これ、他にもいそうだな」
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画面から目を離したまま言う。
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「ですよね」
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後輩も同じ画面を見ている。
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「さっきのスレも、結構人数いましたし」
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「……あれだけで終わりじゃないだろ」
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椅子を回してパソコンに向き直る。
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検索欄を開く。
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「こういうのって、だいたい他にも引っかかる」
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「掲示板とかですか?」
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「SNSも含めてな」
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適当にキーワードを打ち込む。
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“思い出せない 動画”
“フォローした覚えがない”
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検索。
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「……ほら」
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いくつも出てくる。
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「うわ」
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後輩が身を乗り出す。
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「めっちゃあるじゃないですか」
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「……」
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スクロールする。
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短い投稿。
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> 最近よく見る動画、内容説明できないの自分だけ?
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別の投稿。
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> フォロー外したのに戻るんだけどバグ?
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さらに。
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> 名前が読めないアカウント、分かる人いる?
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「……」
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どれも似ている。
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言っていることが、
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ほぼ同じだ。
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「……偶然じゃないな」
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「ですね」
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後輩が頷く。
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「ちょっとコメント見ていいですか」
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「ああ」
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一つの投稿を開く。
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コメント欄。
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> 分かる
> 何回見ても覚えられない
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> 自分も
> なんか日常動画っぽいのは分かるんだけど
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> 最後だけ分かるやついない?
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「……」
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「ほら」
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後輩が指差す。
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> 「いらっしゃいませ」って言ってない?
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「……」
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一瞬、言葉が詰まる。
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「……やっぱりな」
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小さく呟く。
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「共通してる」
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「偶然じゃないですね、これ」
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「……」
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別の投稿を開く。
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> これ、前からあった?
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> 最近急に出てきた気がする
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> でも前から見てたような気もする
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「……」
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既視感。
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どこかで見た流れ。
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「……スレと同じだな」
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「ですね」
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後輩が頷く。
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「言ってること、ほぼ一緒です」
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「……」
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さらにスクロールする。
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そのとき、
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一つの投稿で、指が止まる。
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> 直接会ったことある気がするんだけど思い出せない
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「……は?」
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思わず声が出る。
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「先輩?」
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「……これ」
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画面を指差す。
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後輩も覗き込む。
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> 写真もあるはずなんだけど見ても誰か分からない
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> でも絶対その人
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「……」
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「いやいや」
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後輩が苦笑する。
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「さすがにそれは盛ってるでしょ」
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「……どうだろうな」
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小さく呟く。
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「え?」
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「……」
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画面を見る。
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さっきの動画。
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思い出せない。
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でも、
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「……」
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確かに、“見た”。
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その感覚だけが残っている。
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「……なぁ」
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「はい?」
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「これさ」
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少しだけ、言葉を選ぶ。
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「……本当に、ただの動画か?」
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「……え」
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後輩が一瞬固まる。
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「いや、だって」
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笑いながら言う。
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「動画ですよ、それは」
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「……」
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「人が撮って、投稿してるやつでしょ?」
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「……」
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「じゃなかったらなんなんですか」
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「……」
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答えられない。
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「……まぁ、そうだな」
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適当に流す。
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「とりあえず」
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キーボードに手を置く。
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「この“会ったことある”ってやつ」
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「はい」
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「当たってみるか」
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「取材ですか?」
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「一応な」
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後輩が少しだけ嬉しそうに笑う。
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「面白くなってきましたね」
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「……」
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その言葉に、
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なぜか少しだけ、違和感を覚えた。
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「……」
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画面を見る。
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投稿。
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コメント。
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動画。
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「……」
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ふと、
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さっき開いた動画のサムネが目に入る。
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「……」
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見覚えがある。
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気がする。
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「……あれ」
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小さく呟く。
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「先輩?」
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「……これ」
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画面を指差す。
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「さっきと同じ動画、だよな」
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「……たぶん」
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後輩も曖昧に答える。
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「……」
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でも、
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どこか、
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「……違う気がする」
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何が違うのかは、
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分からなかった。




