第2話「フォローした覚えがない」
「先輩、これ見ました?」
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デスクにコーヒーを置いたタイミングで、後輩がスマホを差し出してきた。
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「なに」
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「昨日の夜、ちょっとバズってたスレなんですけど」
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画面を見る。
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無機質なスレッド。
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どこにでもありそうなやり取り。
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「……あー」
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軽く流そうとして、
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指が止まった。
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「この人知ってるやついる?」
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その一文。
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なぜか、妙に引っかかる。
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「……なにこれ」
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「分かんないです」
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後輩が肩をすくめる。
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「なんか、“よく見るのに思い出せないインフルエンサー”らしいです」
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「は?」
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「見た人みんな内容説明できないらしくて」
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「……」
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もう一度、画面を見る。
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確かに、妙だった。
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全員が同じことを言っている。
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“見たはずなのに思い出せない”
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「……作り話じゃないの」
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「っぽいですよね」
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後輩は笑う。
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「でも、ちょっと面白くないですか?」
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「……まぁ」
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曖昧に返す。
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「こういうの、ネタになりそうだなって」
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「オカルト雑誌の?」
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「そうです」
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ニヤッとする後輩。
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「最近ネタ薄いじゃないですか」
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「うるさい」
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適当にあしらう。
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「でもまぁ、こういう“ネット発の怪談”ってウケいいし」
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「でしょ?」
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後輩が嬉しそうに頷く。
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「ちょっと調べてみません?」
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「……」
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一瞬、考える。
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正直、よくある話だ。
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匿名の噂。
曖昧な証言。
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適当に脚色すれば、それっぽい記事にはなる。
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「……まぁいいよ」
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椅子にもたれながら答える。
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「軽くな」
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「やった」
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後輩が小さく拳を握る。
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「じゃあまず、この人探しましょう」
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「名前分かんないんだろ」
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「それが……」
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後輩がスマホを操作する。
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「たぶん、これです」
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差し出された画面。
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動画アプリ。
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見覚えのないアカウント。
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名前は――
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「……」
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「……読めないな」
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「ですよね」
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苦笑する後輩。
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「でも、たぶんこれです」
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「なんで」
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「分かんないですけど」
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「……」
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「なんか、“それっぽい”っていうか」
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「……」
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曖昧すぎる。
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でも、
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なぜか、
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否定できなかった。
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「……開くぞ」
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「はい」
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動画をタップする。
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再生。
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数秒。
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「……」
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「……どうです?」
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後輩の声。
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「……」
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画面を見る。
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人。
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部屋。
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日常。
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の、はず。
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「……」
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「……いや」
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口を開く。
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「……分からん」
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「ですよね」
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後輩がすぐに頷く。
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「俺もなんですよ」
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「……」
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もう一度、画面を見る。
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確かに見ている。
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でも、
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「……何してる動画だこれ」
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言葉にできない。
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「……」
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そのとき、
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ふと、目に入る。
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フォローボタン。
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「フォロー中」
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「……あれ」
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思わず声が漏れる。
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「どうしました?」
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「……いや」
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画面を見つめる。
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「これ、フォローしてるわ」
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「え?」
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「覚えないけど」
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「……」
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後輩も画面を見る。
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「……ほんとですね」
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少しだけ、空気が止まる。
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「……外せる?」
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「やってみます」
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後輩が指を伸ばす。
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タップ。
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一瞬、
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「フォローする」に変わる。
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次の瞬間、
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「フォロー中」に戻る。
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「……」
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「……え」
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後輩がもう一度押す。
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同じ。
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戻る。
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「……なんだこれ」
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小さく呟く。
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そのとき、
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動画の中の人物が、
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ゆっくりとこちらを見た気がした。
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「……」
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「先輩?」
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「……いや」
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目を逸らす。
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「……気のせいだ」
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そう言いながら、
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もう一度、画面を見る。
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動画は、普通に続いている。
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何も、おかしくない。
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はずなのに、
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「……」
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なぜか、
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最後だけは、
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はっきりと分かった。
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「……」
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口が動く。
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「――いらっしゃいませ」




