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封印勇者と追放令嬢の下剋上  作者: 岳丈丸
第1章:逆襲の剣姫
18/20

018:断魄

 爆煙を突き破った。


 泥で汚れた脚甲。焦げた紫紺の戦衣。

 胸の奥で、心臓が早鐘を打っている。肺が熱い。脚の筋肉が張っている。

 だが、肉体への損傷は、ほとんど無い。


 地を這うように、最短距離で間合いを詰める。

 バニエルの顔が見えた。弛緩した頬。油断しきっている。

 本人は反応できていない。だが、スキルカードが対応し、光の膜が展開した。

 【自動障壁】(オート・バリア)。前回は、二十回も叩き割り、使用回数切れで突破した。


――今回は、一撃で決める。


 膜の構造が見えた。炎の揺らぎとは違い、直線的な力の流れ。

 障壁(バリア)を割るのではなく、断ち切る。そのまま篭手も破壊する。


――剛亀流・断魄ごうきりゅう・だんぱく


 膜が裂ける。光が歪み、ほどけていく。

 斬ったから弾かれない。鋼の刃が、そのまま膜を貫通し、篭手に届く。


 左手の霊装具(ジェムギアーズ)が砕ける。

 稀精石(レア・エーテル)の破片が飛び散り、銀の燐光が消えた。

 光の膜は再生しない。【衝撃吸収Ⅱ】(ダメージ・カット)が発動し、完全に破壊することはできなかったが、機能は停止した。


 篭手を破壊された衝撃で、バニエルが回転しながら、後方に吹き飛んでいる。

 普通なら、肩関節も壊れそうなものだが、【衝撃吸収Ⅱ】(ダメージ・カット)のおかげで、コマのように回るだけで済んでいた。


「ば、障壁(バリア)を、斬った……だと……」


 バニエルの声が震えていた。

 篭手があった左腕には、金属の破片が腕に食い込み、血が滴っている。

 すかさず追撃に入ろうとしたが、【高速移動】(ハイ・スピード)が発動し、右後方に加速していた。


「そもそも、なんで、お前は元気なんだよ!」


 バニエルは、再び引き撃ちの姿勢に入った。

 【火炎弾】(ファイア・ボール)【泥沼弾】(マイアズマ)を乱射している。

 照準が荒い。【泥沼弾】(マイアズマ)は、あらぬ方向へ飛んで行った。


 炎の弾丸が迫る。三つ。曲がって来る。

 一つ、抜きざまに、横薙ぎ。

 二つ、返す刀で、袈裟斬り。

 三つ、上段に構え直し、真向に斬り裂いた。


 バニエルの目が見開かれる。


「ど、どういうことだ? 炎を……斬ったのか?」


 声が震えていた。信じられないといった様子だ。

 それでも、【火炎弾】(ファイア・ボール)を撃っているが、霊孔(スロット)の光点が一つ消えている。

 スキルカードの使用回数が枯渇したようだ。


――それしかできないのか。


 炎を斬りながら、バニエルに向かって、直線的に走った。

 着実に距離が縮まっていく。

 

 炎に混じって、土色の塊が飛んでいる。【泥沼弾】(マイアズマ)

 さっきと同じ手だ。足場を潰して、動きを止めに来た。

 

――剛亀流・断魄ごうきりゅう・だんぱく


 足場狙いなら、着弾する前に斬ればいい。

 下方から拾うように、土色の弾を切り裂いた。

 【泥沼弾】(マイアズマ)が、空中で割れて四散する。

 【火炎弾】(ファイア・ボール)よりも弾速が遅く、捉えるのは難しくなかった。


「こ、こんなことは、知らない、聞いてないぞ! 反則じゃないのか? 未知のスキルカードを使っているんだろう!」


 バニエルが、審判の方を見ながら言った。

 審判は、首を横に振っている。

 当然だ。鋼の剣は、霊装具(ジェムギアーズ)ではない。


「くそっ、いくら積んだんだよ!」


 バニエルの脚甲が光った。【高速移動Ⅱ】(ハイ・スピード)だ。

 ならば、やるべきことは決まっている。


 私は、バニエルの右後方に跳んだ。

 それより僅かに遅れて、バニエルも右後方に加速する。


「な、なにぃ!」


 先回りされる形になったバニエルは、驚きの声を上げた。

 癖なのか何なのか。いつも一歩目は右後方だった。


 断魄(だんぱく)で、右手の篭手を狙う。

 【自動障壁】(オート・バリア)が発動したが、難なく斬れた。


 篭手が砕ける。その衝撃で、炎剣イグニスが右手から離れた。

 バニエルは、またしてもコマのように回転しながら、後方へと吹き飛んだ。

 今度も、【衝撃吸収Ⅱ】(ダメージ・カット)が発動している。


 残す防具は、胸甲と脚甲。胸甲を破壊すれば、丸裸同然になるはずだ。

 少し遅れて、バニエルの【残像Ⅱ】(フェイク・ムーブ)が発動したが、鋼の剣で振り払った。


 観客席から、歓声が沸き起こった。

 大勢は決した。多くの人は、そう思っているようだ。


「序列九十三位が、両手の篭手を割られているぞ」

「やっぱり、コネだったんだな」


 嘲笑。前回の決闘で、私が障壁(バリア)を割った時、観客席の貴族たちは驚き、興奮していた。

 意外な展開を楽しむ愉悦だった。

 今回は違う。この空気は、弱者を嬲る残酷さだ。


 バニエルが、イグニスを拾い上げた。

 自慢の金髪は散り散りに乱れ、両腕は血に濡れて、地面に這いつくばっている。

 手が、震えていた。イグニスの柄を掴む指に、力が入っていない。

 光の消えた目。その奥には、暗い怨讐が(うごめ)いている。


「……殺してやる」


 くぐもった低い声だった。

 バニエルの右手が、懐に伸びる。


 今なら、止められる。

 前回は、たいした考えもなく見逃してしまった。

 【轟炎葬】(ボルケノン)の装填を許し、母の形見ごと、身体を焼かれた。


 必勝を期すなら、止めるべきだ。

 だが、身体が動かない。止めたくない自分がいる。

 戦士の欲だ。あの炎を超えなければ、本当の勝利にはならない。


 イグニスの空いた霊孔(スロット)に、黒い光を帯びたスキルカードが吸い込まれた。

 審判が立ち上がった。


「待て、それは――」


 止められない。

 空気が燃える。禍々しい熱が放出される。


【轟炎葬】(ボルケノン)!」


 バニエルが、空に向かって吠えた。

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