表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封印勇者と追放令嬢の下剋上  作者: 岳丈丸
第1章:逆襲の剣姫
17/20

017:再戦

 剣帯を締めた。


 この十日間、地面を踏み砕くほどに振り続けた。

 背中には、ガントの剣。霊装具(ジェムギアーズ)は篭手と脚甲。

 そして、シエラ族の肩当て。


 剣の重みが、身体に馴染んでいる。

 装備の重量は増えたが、以前と同じ速度は出せる。

 むしろ、重みが増した分、威力は上がっているはずだ。


 闘技場に向かって、五人で歩く。

 ガントが前。ベルタが左。フォーラが右。最後尾はランズローだ。


「エンリコ先生も来ているみたいよ」


 フォーラが言った。

 あの人のおかげで、この再戦がある。


 闘技場が見えてきた。入口の前に、人だかりができている。

 この前とは違って、平民の姿も多く見受けられた。


「前回は、招待枠の貴族ばかりでしたが、今回は一般客が多くなっているはずです」


 あの時は、ラドリックが手を回していたのだろう。


「勝ったら、お祝いしなくちゃね」


 フォーラが、朝から酒瓶を揺らしながら言った。


「特別な料理を用意してあげるわ」

「……魔物肉は、やめてくれ」

「心外ね。お祝いごとで実験はしないわよ」


 ガントが咳をした。「嘘をつくな」という主張だと思う。

 後ろで、ランズローが欠伸をした。

 いつもの空気感。心が落ち着き、身体が軽くなる。


「いってくる」


 入場口に向かって、歩き出す。

 四人の視線が、私の背中を押してくれていた。



  ***



 反対側の入場口から、バニエルが歩いてくる。


 まず目についたのは、炎剣イグニス。前回と同様、赤い刀身が妖しい光を放っている。

 篭手・胸甲・脚甲も変わらず、マギテクスの量産品に見える。

 ただし、装填されているスキルカードは変わっているに違いない。


――マギテクスの対策がどういうものか、見ものだな。


 ひと通り、装備を観察した後、バニエル本体へと目を向ける。

 余裕の笑み。だが、前回とは違って、戯れのような気取った雰囲気は感じられない。


「今度こそは、すぐに終わらせてやる」


 余裕というより、自信というべきか。

 マギテクスを通じて、私が対策装備を買わなかったことは知っているはず。

 つまり、装備の質、金が勝敗を決める。その考えに変わりはないということだ。


 審判が、中央に進み出た。


「本決闘に際し、金級以上のスキルカードの使用は禁ずる。違反した場合、即時失格とする」


 バニエルが、僅かに視線をそらした。


――うしろめたさは感じているのか。


 審判が、わざわざ宣言したのは、前回の経緯を考慮してのことだろう。

 二度も不正を許しては、勇者組合の沽券にかかわる。

 今回は、まともな審判を寄越したということだ。


 審判の手が上がった。

 観客の声が消え、闘技場が静まり返る。


――この日を待っていた。


 鍛錬の成果を見せる。

 いや、勝利のためには、それ以上の力を出す必要がある。


「はじめっ!」


 審判官の手が振り下ろされた。

 地を蹴る。大事なのは距離をつめること、つまり引かない心だ。


――銀閃流・霜華ぎんせんりゅう・そうか


 バニエルを捉えたはずの剣が、空を切った。

 輪郭が揺れている。【残像Ⅱ】(フェイク・ムーブ)だ。

 見た目では、本物と区別できなかった。


――前回よりも、等級が上がっているな。


 本体のバニエルは、かなり右後方に下がっていた。

 予想通り、引き撃ちの構えを見せている。


「一方的に撃たれ続ける、怖さを教えてやるぞ!」


 イグニスが光った。

 剣の先端から、火の塊が射出される。【火炎弾】(ファイア・ボール)

 一つ、二つ、三つ、次々と撃ってきた。

 すぐに射線から外れたが、空中で軌道が変わる。弧を描いて追って来た。

 【追尾】(ターゲティング)だ。一定時間、対象を追尾するスキルカード。


――面倒だが、ただ追って来るだけなら。


 跳躍。そのまま慣性にまかせて着地する。

 【火炎弾】(ファイア・ボール)も同じ軌道を取ったが、地面に激突して爆発した。

 熱風が頬を撫でる。砂埃が視界を覆った。

 その向こうで、バニエルは、さらに距離を取っている。


――前回の反省を活かしているな。


 走って、距離を詰めようとする。【火炎弾】(ファイア・ボール)【追尾Ⅱ】(ターゲティング)。避ける。距離を取られる。

 この繰り返しが続いた。


 埒が明かないのは、お互い様だが、バニエルは【高速移動Ⅱ】(ハイ・スピード)のスキルカードで移動している。体力を消耗しない。

 一方で、私は自らの足で、筋力を使って走っている。体力を消耗していく。


 スキルカードには、使用回数がある。持久戦に徹して、枯渇を待つ手もある。

 だが、脚甲に装填されているスキルカードは、防御を捨てて、移動と回避で固めているのではないか。

 私への対策装備であれば、そう考えるべきだろう。

 だとすれば、持久戦は悪手。それに、私の性にも合わない。


――試してみるか。


 走りながら、背中からガントの剣を抜いた。

 跳躍をやめる。バニエルに向かって、直線的な動きに切り替える。

 瞬く間に、【火炎弾】(ファイア・ボール)が肉薄してきた。


――剛亀流・瀬返ごうきりゅう・せがえし


 鉄の刃で、【火炎弾】(ファイア・ボール)を受ける。

 炎を受け止める。重い。肩の関節が軋む。

 反動で弾き飛ばされたが、炎の塊は、明後日の方向へと逸れて、爆発した。

 その間に、バニエルとの距離は開いてしまった。


——だが、見えた。


 間近で、【火炎弾】(ファイア・ボール)を見た甲斐があった。

 炎の揺らぎの中に、薄っすらと浮かび上がっていた

 力の流れ。切れ目。私の感覚では、繊維という言葉が思い浮かんだ。


 これで行けると思った瞬間、足元が重くなった。

 靴底が沈む。地面が泥に変わっている。

 着弾の瞬間を見ていなかった。【火炎弾】(ファイア・ボール)に気を取られている間に、足元を撃たれていた。

 バニエルが、してやったりの笑みをしている。


【泥沼弾】(マイアズマ)だ!」

「珍しいスキルカードを使ってきたな」


 観客席の声で、スキルカードの名前を知った。

 知らないカードだ。だが、効果は身をもって理解した。


――これが、マギテクスの本命か。


 踏み込もうとしたが、足の裏が地面を掴めない。

 泥濘に、膝まで沈んでいる。

 引き抜こうとしたが、すでに【火炎弾】(ファイア・ボール)が迫っていた。


 一発目は、身体を捩って躱したが、そこまでだった。

 二発目、三発目と、【火炎弾】(ファイア・ボール)が次々に殺到する。

 爆発が連なる。熱気で泥沼が乾いていく。濛々とした爆煙が、闘技場の空を覆った。


「やったぞ!」


 バニエルの歓喜の声が、遠くから聞こえた。

 イグニスの切っ先が、さらに光を帯びる。

 五発の【火炎弾】(ファイア・ボール)が、バニエルの周囲に浮かんだ。


「こいつで、とどめだ!」


 全弾発射。四つの炎が、真っすぐ、泥沼のあった場所に着弾して爆発した。


 闘技場を静寂が支配する。

 バニエルの肩から力が抜けた。呼吸が落ち着き、口元が緩んでいく。

 イグニスの切っ先を下ろし、汗を拭った。


「やったのか?」

「装備が違いすぎたな」


 観客席から、嘆息と諦めの混じった声が聞こえてきた。

 バニエルが、審判の方を向いた。宣告を待つ顔だ。

 勝ったと、その目が言っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ