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魔女の娘  作者: 田中 瑞希
第1章
19/20

パーティー

 ダフネは王の間で国王に謁見していた。貴族社会では王族の病が治っただけで功労者の奨励とパーティーをしなければいけないらしい。


「魔女よ、この度はコルトレイク国王族の我らの病を治してくれたこと、感謝する。」


「いえ、私はただ、この国の第一王子様からいただいた依頼を解決しただけです。」


「そう謙遜しなくても良い、サベリアから報告は聞いている。苦労をかけた。」


 ダフネは頭を下げた。


「ありがたきお言葉、感謝いたします。」

 国王への謁見が終わり、パーティーが始まると、主に公爵、侯爵家などの特に勢いがついている有力貴族が私に挨拶をしてきた。

 その相手も終わると、やはり得体の知れない魔女という存在となるべく一緒の空間にいたくないのか、ダフネは距離を取られていた。


 ダフネはその反応にも仕事で慣れてしまっているため、特に気にする風もなく大きい円卓に並べられた数々の料理を一口ずつつまんでいる。


(この鳥の丸焼きは美味いな。臭み消しにハーブ系の草を多く入れられてるけど、強すぎず癖がなくて肉も柔らかい。ワインと合うな。)


 ダフネのお腹がだんだんと膨らんできて、そろそろデザートに手を出そうかと考え始めた頃、サベリアが話しかけてきた。


「ここはそんなに食うところではないぞ。」


 ダフネはムッとして答える。


「私は二週間呑まず食わずで、そのすぐに謁見ですよ。このくらい許される働きはしたと思いますけど。このパーティーを行う意味はよくわかりませんが。」


 サベリアはやれやれという様子で頭をおさえ、ため息をつく。


「このパーティーはお前のために開かれたものだ。パーティーの主役がそんなことを言っては駄目だろう。まあ、貴族たちも魔女を嫌煙しているのを隠す気がないのも問題だがな。」


「そうでしょう。先ほどは伯爵の方に『今宵は思いがけない彩りが加わり、楽しませていただいています。』と言われました。」


 翻訳すると、よくこのパーティーに魔女が来れたな。と言われた。彩りと言われたのは、ミオに仕立ててもらった真新しい真っ黒のローブを着て行ったからだろう。パーティーに真っ黒で来る人はいない。


「あー。どこの貴族が言うことか大体想像がつくな。」


「そうですか。ではその方が宮廷に勤めているのなら、減給しておいてくださいね。流石に、我らの国王が招いた賓客に嫌味を吐くのは問題でしょう。」


 サベリアはこれ以上この会話を広げる気はないらしく、別のことを聞いてきた。


「カレンデュラ公爵とはもう会ったか?手紙の返事をしてくれないと落ち込んでいたぞ。」


「公爵様の手紙は薬の調合前に届いたので、後回しにしたまま忘れていただけです。」


(と言うか、第一王子の話し方が前よりフランクになっている気がするのだが、気のせいだろうか?)


「お前、カレンデュラ公爵家はこの国の三大貴族のうちの一つだからな。機嫌が悪かったら公爵家のみでも罪を課せられるから、気をつけておけよ。」


 フランツからは大体の事は聞いていると思っていたが、フランツは血縁とは言わなかったらしい。


(私を政争に巻き込ませないための配慮なのか。)


「その点は大丈夫かと。他の公爵家の方々とは今回の挨拶を除いては面識もありませんし。」


 フランツの話をしていたら、フランツがこちらにやってきた。


「おやおや。人の噂話とは感心しませんね。私がそんな非情な人間に見えますか?」


 サベリアはフランツの方を向いてニコッと答える。


「先日は屋敷に侵入してきた暗殺者とその首謀者を亡き者にしたと報告が入りましたよ。」


 フランツは豪快に笑った。


「それはあちらが最初に仕掛けてきたから相手をしたまでです。私はこう見えても平和主義者なのですよ。」


 サベリアは社交用の薄っぺらい笑みを浮かべているが、内心ではどうだかと思っている。

 カレンデュラ家は王族に背く者を見つけては抹殺する、いわば王族の盾の役割がある家紋だ。その当主が平和主義者な訳がない。


 その時、メイドがサベリアの方へ伝言を伝えにきた。どうやら国王が呼んでいるらしい。


「では私はこれで。お二人で積もる話もありましょう。城の客間を確保しておいたので、よろしければ是非お使いください。」


 サベリアはダフネとフランツにお辞儀をして、さっと行ってしまった。


「この国の第一王子は忙しいな。」


「ええ。そのようですね。だから私に依頼をしてきたのでしょう。」


(国王の子供が成人する前に死んでしまったら、第一王子が国王になる。第一王子は国王になりたくないように見えた。)


「あ、」


 肝心な事をすっかり忘れていた。エリスは国王に子供ができたと言っていた。王妃にまだつわりがきていないから皆がまだ気付かないだけで、そのことを伝え忘れてえいた。


「どうした?」


 フランツが心配してダフネの様子を伺う。


「あ、いや、後で話しましょう。」


「そうだな。せっかくなら王子が手配してくれた部屋にでも行くか。全く、貸を作られたよ。」


 ダフネはフランツの後についていく。

 会場を抜けて、回廊に出るとミオがワイングラスを持って夜空を眺めていた。


「あ、ミオ!」


 ダフネはつい、話しかけてしまった。


 ミオは、ダフネに気がつくと手を振ってこっちにきてくれる。


「私は先に行って待っているよ。ここから見えるこの回廊突き当たり右にある離れにいるから。」


「ありがとうございます。」


 フランツは気を遣ってさっさと行ってしまった。




「見てたよダフネ。すごい緊張してたでしょ。」


「うそ、わかった?」


「いや、みんなにはわからなかったと思うよ。僕はダフネと関わってきたから空気で伝わるけど、ローブで顔もほとんど隠れていたしね。」


 ダフネはホッとする。


「そう。よかった。」

「ローブを新しく仕立てておいて正解だったわ。まさかパーティーに呼ばれるとは思わないもん。」


 ミオは優しい笑みを浮かべる。


「僕も、ダフネと王城で会うことになるなんて思わなかったよ。新しいローブ、似合ってるよ。」


 ミオがあまりにも照れくさい事をさらっと言うもんだから、ダフネは赤面する。


「そんな恥ずかしいこと言わないで?私もう行くから!」


 ダフネはフランツの指差した方に走って行った。ミオは、そのダフネの背中に手を振っていた。




 ダフネは分厚いドアを開け、そっと中を覗く。

 中には大きいテーブルの両脇にソファが置いてある以外何もない、簡素な部屋だった。簡素と言っても、それは広間と比べたらの話で、壁や柱、窓枠など、どこも意匠が凝っているのがわかる。


「お待たせいたしました。」


 ダフネは部屋の中に入り、フードを脱いでからソファーに座る。


「いや、全然待っていないよ。さっきのヘルメース家の子息とは知り合いなのかい?全然答えたくなかったら、話さなくてもいいんだけど。」


 フランツはものすごく気を遣ってくれている。やはり、私が弟の娘だからだろう。


「ミオとは幼馴染なんです。友達と呼べるのも、気心が1番知れているのもミオなんです。」


 フランツはダフネの父、リオのように目尻に皺を寄せ、微笑んだ。


「そうか。いい友を持っているんだな。」


 フランツはそうかそうかと頷き、今度ヘルメス商会を利用しようかと呟いていた。

 ミオは絶対私とフランツが関わりを持っていると知ったら余計な気を使いまくるだろう。


(いや、ミオの情報量と思考力は桁違いだからもう勘付いている可能性もあるか。)


 ダフネはふと、そんなことを思った。


「もらったお手紙なのですが、まだ読めていないんです。申し訳ないです。」


「大丈夫だよ。王子から薬を作っているんだと様子を教えてもらったからね。いやなに、私の妻がダフネ嬢に会いたいって言うのと、珍しい薬草とか取り寄せているから、もらってくれないかなと思って。」


(めちゃくちゃ尽くしたいんだなこの人は。)


「そんな気を使わなくても結構です。欲しい薬草があったら森の中に探しに行ったり街に買いに出ますし、そんなにしてもらっても返せるものもなく、申し訳ないです。」


「私がそうしたいんだよ。まだ17はこの国では未成年だし、リオの代わりに何かしてやりたいとも思う。それと、連絡する手段がなかったとはいえ、ダフネ嬢の父と母の名を公開してことは、申し訳なく思っているんだ。故人の名を出されることは、あまり気持ちのいいものではないだろう。」


 フランツの説得に折れ、ダフネはありがたく受け取ることにした。


「わかりました。ありがたく受け取らせていただきます。ただし、私が成人する来年までです。」


「ああ、その時までには娘離れをする覚悟をしておこうか。」


 フランツは、はははと笑いながら、娘といられる時間が短すぎるな。とぼやいていた。17歳になっても、言いくるめられて物を貰い続けることになるそうだ。




 ダフネはサベリアに伝えはぐっていたことをフランツに伝えておこうと思った。フランツだったら、誰にバラすでもなく内密に伝達してくれるだろう。


「これから話すことは他言無用なのですが、王子様にだけ伝えて欲しくて。」


 ダフネは部屋に遮音結界を張った。これで外部に音が漏れない。


「なんだ?」


 フランツの様子が真剣そのものになる。


「実は、ある預言者の話によると王妃様はもうご懐妊されているらしいのです。」


 フランツは目を見開いた。


「そうか。めでたいな。だが、王族の新しい命を狙ってくる奴もいるだろう。懐妊してもしばらくは公表しないし、この場で言ってくれて助かった。ありがとう。」


「いえ。王子様に話すタイミングをずっと見失ってただけだったなで、今話せてよかったです。フランツさんは王様の近くで側近などをしているのでしょう?」


「そんなことまでわかるのか?」


 フランツが驚いた顔をしている。


「はい。パーティーが始まる前にはずっとそばにいましたし、いくら公爵家といえどあんな頻繁に来客がくることはないでしょう。王城に呼ぶに値しない人や、まだ忠誠心に疑いのあるものなどは公爵家に一旦招いているのではないですか?国王への試金石として。」


「ダフネ嬢のその賢さには毎回驚かされてばかりだ。大体そんなようなものだよ。国王もみんなを相手にするわけにはいかないからね。直接会って、話せる相手を限定しないと威厳も保てない。」


「力を持つものとは大変ですね。」


「まあ、私とダフネ嬢では先祖も文化も違うからね。ピンとこなくても当たり前だよ。プライドがあるから貴族をやっているし、代々存続させ続けているんだ。」


 ダフネは、そういうものなのかとやっぱりイマイチ納得できなかったが、これ以上話すのはやめておいた。




 フランツは姿勢を変えて、改まる。


「よければ、リオの仇をどう取ったのか教えてくれないかな。」

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