終章
フランツと話し終わった後、回廊に出たら国王がいたためお辞儀をする。
「何かご用でしょうか?」
国王はダフネに言った。
「どうか、サベリアをよろしく頼む。魔女殿を気に入っているようだ。」
ダフネはそう言われてギョッとした。これが王族なりのジョークなのだろうか。王族と懇意になるつもりはないので、そんなことを軽々というのはやめておいてほしい。
誰がどこで聞き耳を立てているのかわからない。
「そんなことはないかと思われます。」
「サベリアがこんな頻繁に城の外へ出て行くようになってから口数が増えてきたのもおそらく魔女殿のおかげなんだ。サベリアは今まで自分の本当の気持ちは私に気を遣って言わなかったのだろうが、此度の出来事でなんとなくわかった気がする。そのきっかけを作ってくれて礼を言うよ。こらからもよろしく頼むよ。」
国王はダフネに手を差し出す。
(これからはなるべく関わらない方向でお願いしたい)
ダフネは渋々その手を取り、建前を言う。
「ありがたきお言葉です。」
すると、会場から出てきた宰相に呼ばれ、国王は名残惜しそうに会場へ戻って行った。
♢♢♢
ダフネはうーんと頭を悩ませる。依頼達成料と言ってセベリアが持ってきたお金の金額が大きすぎるのだ。ひとまとめにして置いておくのは、防犯上憚られる。なんとか分散させて置いておきたかった。
そんな時、ドアベルが2回鳴った。ミオだ。
「ダフネ、先週ぶりだね。風邪引いてない?」
ダフネはムッと眉を寄せる。
「私を馬鹿にしてるわけ?自分の体調管理くらいできるよ。」
「いや。それが案外馬鹿にできないんだよ。風邪と少し違う流行病がどんどん広まっているんだ。喉の痛みでモノが喉を通らないらしくて、虚弱な人は餓死してしまうかも知れない。王国が早めに手を打ってくれていたからそんな大事になっていないけど、今年の冬は気をつけなくちゃならないよ。」
ミオは念を押す。
「そうなのね。気をつけるわ、ありがとう。ところで、」
ダフネは早速悩みの種を話すことにする。
「この依頼達成料、どうすればいいかしら。ここにひとまとめにしておくのも不用心だし、何かいい方法ない?」
ダフネはカネ袋を机の上に置いて、中身を見せた。
「わあ、金貨が百枚以上入ってるね。子爵の平均年収くらいだ。」
さすが、ミオは伊達に商人をやっていない。
「そう。色をつけてくれたみたいで、150枚は入ってると言っていたわ。私もまだ数えていないの。」
「お金の管理か。いいものがあるよ。」
ミオは人差し指を立てて、教えてくれる。
「銀行に預けるんだ。」
「銀行?」
ダフネは初めて聞いた言葉で、首を傾げる。
「今までは城の財務院がカネの製作と管理をしていたけど、そのお金を他国でも使えるように国営化することになって、国営銀行というものができたんだよ。役割はそのまま、カネの製作と管理。銀行が管理するのは民間人のお金で、王城のお金は引き続き王立財務院。国民なら無料で大きいお金を預けられるよ。」
「そういうものが出来たのね。でも、私この国の戸籍持ってないんだよ。」
「カレンデュラ公爵家当主にお願いすればいいんじゃない?ダフネのお父さんお母さんの婚姻も認められたし、その子供の1人の戸籍を作ることは簡単だと思うよ。その時に偽名を登録しちゃえば魔女であるダフネと結び付けられる可能性も無くなるし、銀行を利用させてもらうだけなんだから、第一王子の方もそれくらいは動いてくれると思うよ。」
ダフネは、思ったことを言う。
「ミオ、人使い荒くない?」
「商人は、みんなこういうものなんだよ。ダフネはそれ相応の働きをした人なんだから、多少好き勝手しても何も言われないよ。」
ダフネはミオが言うのだからそうなんだろうと思うことにする。
「そうなの?じゃあ、後でお願いしてみるわ。」
ミオはその返事を聞くと、ダフネにウインクした。
「今日ここにきたのは、風邪薬でも卸してもらおうと伝えたくて来たんだ。次は三週間後に定期報告に来るから、その時に。あと、公爵家がうちの商会と取引したがっているんだけど、何か言っていなかった?」
ダフネは早速連絡を入れたのかとフランツの行動力に少し呆れながらも、あははと笑う。
「私がミオと仲がいいのを聞いて、気になっちゃったみたい。公爵様も何か思うことがあるのかな?」
ダフネはそれとなく言ってみたが、フランツの考えていることなんてほとんどわからない。
(パーティー会場にいる時の様子といったら、騙してくる者がいようものなら騙し返してやろうという、飄々とした狐のようだった。)
「カレンデュラはほかの家門と比べるとやや閉鎖的だから、ほかの公爵家と比べるとあまり情報がないんだよ。」
「そうなの?」
フランツの仕事内容を鑑みると閉鎖的ではないように見えた。もしかしたら、王族と関わりが深い分、王族の情報を漏らさないために、情報規制などをしているのかもしれない。
「そうだよ。カレンデュラ家は王族と密接だからね。下手に情報を漏らさないためにその分他貴族との関わりはほかの上位貴族と比べて少ないんだ。屋敷の使用人も、分家や従属貴族の元貴族がほとんどなんだよ。だから人数も多くできないんだ。」
「そう考えてみるとカレンデュラ家はだいぶ閉鎖的なのね。」
確かに、使用人は廊下を歩いていても1人か2人くらいのメイドさんしかすれ違わなかった。権力と財力を誇示したがるお貴族様は諸経費を削ってでも使用人を増やそうとするだろう。それと比べれば、必要最低限の人数しか雇っていないように見える。
「それじゃあ、僕はそろそろ帰るよ。」
ミオはいつもの少し大きめのリュックを背負う。
「とりあえず、公爵様に手紙を送ればいいってわけね。わかったわ。」
ミオはまた、ウインクをして出ていった。
♢♢♢
ミオの訪問から三日後、フランツからかえってきた手紙を読み、 ダフネはこんなに早く対応してくれてありがとうという言葉と共に、1ヶ月以内には公爵家に行きますと手紙に書き、カレンデュラ家へ魔術で転送しておく。
手紙の1番最後には、次はいつ頃公爵家に来るのか?と記されていた。大きい子供みたいだ。
手紙にはカレンデュラ系譜で戸籍登録をしておいたと書いてあった。そして、銀行の口座開設もしてくれた。貴族家が口座開設をすると、カネの出し入れや保管できる上限金額が上がるらしい。通帳という、銀行口座のカネの出し入れを記録する小さいノートも同封してくれた。カネの出し入れは原則本人のみで、本人確認は魔道具で行うらしい。
(すごく便利なサービスだが、そこに利益は生まれないはずだ。)
ダフネは後でサベリアに聞けばそのサービスを提供する利点などがわかるだろうかとふと思う。ただ、サベリアはこの魔術院には依頼もないので来ない。お金を渡しに来てくれた時、禁書庫から拝借してもらった本もまだもう少し詳しく読みたかったが返してしまった。
(ただ、)
ダフネは手を組み両腕を上げ、大きく伸びをした。
「やっと終わったーーーーーー!!!!」
ダフネは約1ヶ月ぶりに暇な時間を手に入れた。サベリアが来る前と同様の、薬草を育て、足りなくなった常備薬を作り、たまに来る訳ありのお客様の要望を聞く。ダフネには多少の危険はあるが自分のペースでできる緩い仕事の方が合っていた。
サベリアが来てからはずっと、頭の片隅で何かモノを考えていたような気がする。多少の休息はあったが、あまり休まらなかった。
(これからもうしばらくは何もしなくていい。)
「ミオが来る予定もないし、お客様も来ないことを願って今日はお昼寝でもしちゃおう。」
そう言ってダフネは、魔術院の奥へと入った。
これで第一章は終了です。約一年間読み続けていただきありがとうございました。
番外編を投稿した後、第二章の書き溜めまでお時間いただきます。秋ごろ再開予定です。
しばらくは勇者の聖霊のみ更新。
お盆には新作投稿いたします。




