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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻四
89/105

鬼ババ北の方、路頭に迷う?

●大納言、遺産を分ける


 大納言は、もういよいよと観念して、遺産分けをすませておこうと思い立ちます。七人の子供たちはあまり仲がよくない。父親である自分がきちんと分けておかないと、きっと揉めるにちがいない。そう考えてのことでした。


 越前守を筆頭に、七人の子供たちと北の方が集められます。大納言は床の上になんとか上体を起こして座り、越前守に財産目録を読み上げさせます。


「◎◎◎の荘」

「米がよく穫れる所だ。その地券は大将殿の北の方へ」

「〇〇〇の荘」

「そこも米の出来がよい。地券は大将殿の北の方へ」

「△△△の荘」

「よい絹を送ってくる所だ。地券は大将殿の北の方へ」

「ほにゃららの荘」

「ちっぽけな荘園だな、あそこは。越前守に取らせる」

「純金のミッキーマウスの置物」

「大将殿の北の方へ」

「純銀のスヌーピー」

「大将殿の北の方へ」

「木彫りの熊」

「そのへんに飾っておけ」

「ブルガリの石帯」

「大将殿の北の方へ」

「ティファニーの石帯」

「大将殿の北の方へ」

「ハリー・ウィンストンの石帯」

「大将殿の北の方へ」

「水晶の石帯」

「越前守に取らせる」

「石が欠けてしまった石帯」

左衛門佐さえもんのすけに」

「…………」


「この遺産分けに、そなたたちは不服を申すでないぞ。大将殿の北の方を羨ましいとさえ、思ってはならぬ。大将殿の北の方ほど孝養を尽くしてくれた者がおるか? そなたたちは、幼少のときから今日まで親に世話になったのを、恩恵と思うがよかろう」

 死にゆく大納言は、えらく毅然とした口調で言い渡します。


 親の恩か……それは確かに受けた、と七人の子供たちは思うのでした。わりと素直ですね。


「そして、この屋敷だが。古びてはいるが、安普請ではないし広さもまあまあだ。大将殿の北の方に遺す」


 ええっ!?

 往生際の悪いジジイめ、いま何と言った!?

 鬼ババ北の方は自分の耳を疑ってしまいます。


「私は殿に長年連れ添ってまいりましたわ。子を七人も生みましたわ。なのに、どうしてこの屋敷を私に遺してくださらないんですの? 大将殿の北の方は、この屋敷を貰わなくても困りはしませんわ。大将殿は超セレブで超リッチで、これからだって、豪邸を三棟も四棟もお建てになるでしょう。三条殿だって、あんなにおしゃれな邸宅に大改造したのに、あちらに差し上げることになってしまって……」


 鬼ババ北の方は、しゃべっているうちに悔し涙にくれてしまいます。

「息子たちのことは心配いりませんわ。婿を迎えた娘二人も、マイホームを建てるには至ってませんけど、まあ、なんとかなりましょう。とにかく、婿がいるんですもの。でも、私と三の君と四の君はどうなりますの? この屋敷から追い立てられたら、どこへ行ったらよろしいんですの? 路頭に迷え、とでも? 理不尽ですわ! あんまりですわ!」


 鬼ババ北の方は大泣きに泣きます。

 大納言の固い意志は、けれど、揺るぎそうにありません。


「路頭に迷うなど、ありえん。越前守や左衛門佐がいるではないか。三条殿は、そもそも私の家ではない。大将殿の北の方が所有するものだ。私は大将殿に大変にお世話になった。少しでもまともなものをさしあげずに死んだのでは、私は世話した甲斐も無い人間と思われてしまう。そなたが何と言おうと、この屋敷をそなたに遺すわけにはいかんのだ」


「納得できませんわ! お考えなおしになってくださいませ!」


「私は今日明日にも死ぬ身ぞ。恨むな。子供たちよ、これ以上母上に何も言わせるでない」



●大納言、死す


 父親の臨終に駆けつけた大将の北の方(姫君)は、この遺産分けの話を聞いて、辞退を申し入れます。


「私は何一ついただきません。この屋敷には、母上をはじめとして、多くの皆さまがお暮しではありませんか。こちらの地券は、すぐにも母上にさしあげてくださいませ」


 大納言は答えて、

「それは私にはできぬ。私が死んだら、そなたの好きにするがよい。それより、この石帯はどうかな? 大納言任官の祝いによそから贈られたものだが。これも持っていくがよい。これも、これも」


 大納言は、たまたま手元にあった瑪瑙めのう瑠璃るりをあしらった石帯まで、大将の北の方の手に押しつけます。それを見ていた越前守などは、「母上が嘆かれるのも、もっともな気がする。父上のなさりようは少し行き過ぎなのでは……」と思っていますが、口には出しません。


 とにもかくにも、大納言は財産処分のあれこれをすべてきっちり済ませます。かつての落窪姫――大将の北の方に最後の言葉を伝えます。


「法華八講。七十の賀。大納言就任。そなたのおかげで、この世に面目を果たすことができた。感謝してもしきれない。ところで、頼りない四人の娘たちが気がかりでな。力になってやってほしい」

「承知いたしました。私にできることでしたら、何でもいたします」

「嬉しや……」


 大納言は息を引きとります。喜び申しの参内から七日目のことでした。

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