女君たちの憂鬱
●三の君、四の君、ともども嘆く
老中納言は、衛門督と縁戚となったことで有頂天になっているようです。三の君と四の君は複雑な思いを抱かざるを得ません。
夫の蔵人の少将を衛門督の妹に奪われた三の君は、眉根を寄せ、ため息をつきます。
「衛門督殿ご一家とウチと、親しくおつきあいをすることになるのかしら? いやだわ……」
四の君は、めそめそと泣いてさえいます。
「私も気持ちの整理がつかなくて……。衛門督殿は、私を騙して、私の人生をめちゃめちゃになさった方。親戚づきあいが始まったら、姉上よりも誰よりも、私がいちばんみじめな思いをすることになりそう……」
御簾を透かして、侍女と遊んでもらっている子供の姿が見えます。あの、四の君が結婚してすぐに身籠った子で、今はもう三歳になっているのでした。父親の面白の駒に似たところのない、なんともかわいらしい女の子です。
三の君は、愛くるしい姪っ子を見やって、妹に尋ねます。
「あなた、尼になってしまいたいと、しきりに言っていた時期があったわね。今でも出家を考えたり、する?」
「考えないことも……ないけれど……。あの姫がいるから……」
「そうよ。姫君のためにも、尼になどなっては、だめ。姫君には、ぜひとも、よい婿君をお迎えしなくちゃ、ね。ところで、面白の――いえ、兵部の少輔殿は今も通っておいでになるの?」
「いいえ。諦めてくれたみたい。私、かなりあからさまに拒否ったの。姫の父親だけど、私には、もう受け入れ難くて」
「やっぱり、あのお鼻?」
「だけじゃなくて、何もかも!」
●懲りない鬼ババ北の方
息子の越前守に、すぐにも三条殿へ、と言われた老中納言は、身支度を始めたようです。アドレナリンが出まくっていて、ハイテンションになっていますね。
「私は年寄りだ、確かにな。ちと耄碌しておるかもしれん、確かにな。だが、侮るなかれ、世間の者どもよ。私は衛門督殿と縁続きになったのだ。衛門督殿。右大臣のご子息。帝の女御の弟君。あのお方の縁者なのだ、この私は。望外の幸運ぞ!」
けれど、夏の午後はあまりに蒸し暑く、礼服に身を整えるのも容易ではありません。もたもたしているうちに、日はどんどん傾いていきます。
「出かけるのは明日にするか。考えてみると、日柄も今日より明日のほうがよさそうだ。――それに。忘れていたが、何か手土産が要るぞ。落窪の君が気に入りそうなものがよい。あの子の好物は何だったかな? スイカか? メロンか? パッションフルーツか?」
北の方は夫を冷ややかに眺め、舌打ちします。
「落窪は権勢家の北の方に成り上がったんだ、いい衣を着ているにちがいない。殿は、落窪と再会したら、こちらにいる娘たちは見劣りがする、なんて思うかもしれない。ああ、悔しい!」
その夜――。
三の君と四の君は、心を落ち着けようと、薫物の調合を始めます。
「清水寺で起きたいやなことも、衛門督殿の報復だったんだわ。あの童は確かに言ってたもの、『懲りたか』って」
「すべて、計画されていたことだったのね」
「この屋敷から次々に侍女たちが出ていってしまったことも」
「みんな落窪の君が召し抱えたんでしょうね」
そこへ、母北の方がやってきます。
「ここにいた侍女たちを落窪が召し抱えた? 思い上がったものだね、落窪は!」
「落窪の君は恨みに思っていたんです。長いあいだ、母上に、落窪の間なんかに放っておかれたんですもの。みすぼらしい恰好で、几帳や屏風なんかもなくて」
「恨むのはこっちだよ! 面白の駒なんて婿を押しつけられて、恥をかかされて、痛い目に遭わされて。忌々しいね、まったく! なんとしても、仕返ししないでは腹の虫がおさまらないよ!」
「母上……。仕返しだなんて、もうお考えにならないでください。ウチには婿君(長女と次女の婿)もおられるのですよ。へたなことをすれば、婿君の出世にも関わりますわ。冷静になってくださいませ」
「典薬助殿のことはどうなるの! 殴る蹴るの暴力を受けたではないか!」
「あんな老人と結婚させられそうになった落窪の君は、そりゃ、恨みに思いますわ」
「衛門督殿は、その恨みを知って、仕返しをなさったんです」
嘆いてみたり、忌々しいといきりたってみたり、誰もが心を波立たたせ、眠れぬ夜を過ごすのでした。




