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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻三
77/105

三条殿バトル④

●鏡の箱


 四日目の朝、越前守は、これが三度目ですが、三条殿へ出向きます。このときも、すぐには衛門督に面会できません。とりあえず、取り次ぎに出た女房にでも、意向を伝えたのだと思われます。


「今日こそは荷物をお返しいただきたい。侍女たちの櫛の箱(化粧道具箱)なども荷物に入っていますので、不便な思いをしております」


 口上を聞いた道頼は、くすっと笑います。

「越前守殿は、中納言邸の侍女たちが化粧もできず、不細工顔をさらしているのでストレスがたまっておいでなのかな」

 そして、側近に命じるのでした。

「荷物の引き渡しのときは立ち会って、目録を書きつけて、お返しするように」


 ここで、道頼、最後の意趣返しを思いついちゃいます。

「蓋が真っ黒けの鏡の箱、どうしたかな? あれもいっしょにお返ししたら? 中納言殿の北の方が、すごく勿体もったいをつけて寄越した箱だったよね」


 衛門が目を輝かせます。いひひ、なんて笑っちゃってます。

「あの箱なら私の手元にございます。可燃ごみか不燃ごみか分別できなかったので、ガラクタ入れにつっこんでおいたのです」


 衛門が古い鏡の箱を持ち出してくると、道頼は、

「これだ、これ。ツタンカーメンの弁当箱」

 と笑って、北の方(姫君)に言います。

「これをお返しするのに、文を添えたらいいよ」

「それは……できませんわ。父上が落胆なさっておいでのときに、私がここにいるとお知りになったら、さらにお辛い思いをなさるでしょう」

「そうとも限らないのでは? さあ、一筆書いて」


 北の方(姫君)は鏡の箱の底に敷いてあったもの(薄板か和紙と思われる)を裏返し、和歌を一首したためます。


『日々辛い思いもいたしましたが、それでも、この真澄鏡ますかがみを見ると母上のことが懐かしくしのばれます』


 自分を臭い部屋に監禁して色ボケ爺さんまで押しつけてきたあの鬼ババが懐かしいとか、この姫君、相当なマゾですね。


 道頼は、箱をきれいな紙でラッピングさせて、適当な木の枝に結わえつけさせると、衛門に託します。

「後で越前守にお渡しして」

「かしこまりました」


 意趣返しのプレゼントを用意して、ようやく、道頼は越前守と面会します。


「中納言殿は、ずいぶんひどいことをする、と嘆いておいでであろうな。だが当方も、何のご連絡もいただかないうちに、そちらが引っ越しておいでになると聞いて、見過ごすわけにいかなかった。中納言殿にお伝えいただきたい。『今回のお気の毒な事態については、お詫び申しあげた上で、私自身の口からご説明申しあげます。この三条殿の地券もご覧にいれて、お話ししたい儀がございます。今日明日のうちに、必ずお立ち寄りください』と」


「では……そのように申し伝えます」

 お詫び? 説明? この展開は何だ? 越前守は、どういう顔をしていいか、わからなくなってしまいます。


「越前守殿も中納言邸のほかの方々も、事情がわからず、困惑しておいでだろうけれど、きっちり説明しますよ。ぜ~んぶ、きっちりと、ね。中納言殿には、必ず、こちらへお出でいただきたい。そのときは、越前守殿、そなたもお供をしておいでなさい」

 道頼、ニカっ、と笑います。とても機嫌がよさそうです。



●思いがけない再会


 寝殿(本殿)を辞去しようとする越前守を、妻戸の手前で誰かが呼び止めます。

「越前守殿、お待ちくださいませ」

 御簾の下から美しい装束の袖がこぼれ出ていて、その袖からのぞく白い手が、何かを差し出しています。


「これを中納言殿の北の方さまに差し上げてくださいませ。これは、北の方さまが宝のように大切になさっていたものです。私が仕えるご主人さまが譲り受け、今までなくさずに持っていらした物です。いろいろなお荷物をそちらへお返しするこの折に、いっしょにお返ししようと、ご主人さまが思いつかれたのでございます」


「どなたからのおことづけと言って渡せば、よろしいのですか?」


「北の方さまが中身をご覧になれば、おわかりになるはず。昔を思い出してくださいますでしょう。昔といえば、この私の声も昔と変わらないと、お聞きとりにはなりませんでしょうか?」


 昔と変わらない?

 越前守は、はっとします。この声の主は、ずっと以前に中納言邸で召し使っていた女童のあこぎではないか。

「あこぎか?」

「うふふ」

 

「そうか……あこぎは今はこちらのお屋敷にお仕えしているのか。もう何年になるだろう? 中納言邸のことなど忘れてしまっただろうね。ならば私も、馴れ馴れしく話しかけるなんてことは、しないでおこう。――いや、冗談さ。これからは、こちらに参上するときは、声をかけさせてもらおう。あこぎだけが、ここでの知り合いだからね」


「越前守殿のお知り合いなら、ここにもおりましてよ」

 別の女性の声がして、これまた美しい衣の袖が、御簾の下からこぼれます。


「その声は、少納言?」

「はい。少納言にございます」

「少納言にあこぎ。二人ともこちらにいたとはね。びっくりするじゃないか。いや、本当に驚いた」


 すると、御簾の奥からは、また別の女性が声を発します。

「私も驚かせてさしあげようと思いましたのに、もう出番は無いようですわね」


 耳に心地よく響くアルトです。中の君に仕えていた侍従の君の声ではありませんか。

 この侍従の君と越前守は、過去に、ワケありなのでした。侍従の君の曹司に、越前守は足繁く通ったことがあるのです。


 かつて中納言邸に仕えていた侍女たちが次々に声をかけてくるので、越前守の頭のなかは「?」マークでいっぱいになってしまいます。越前守、言葉を失ってしまいます。なにしろ、「?」の佃煮ができそうなくらいなのです。


 御簾の奥から衛門が言います。

「三郎君はどうなさっておいでですか? 元服は済まされたのでしょうか?」

「済ませたよ。この春、五位を賜った」

「では、三郎君にもお伝えくださいませ。『必ず、この三条殿をお訪ねください。お会いして、積もる話のかずかずを申しあげたく存じます』と」

「わかった。伝えておくよ」


 帰宅する牛車のなかで、越前守は、枝に結びつけられた包みを眺めながら、あれこれ考えます。


 あこぎの主人?

 落窪の君か?

 では、落窪の君が衛門督殿の北の方、ということなのか?


 意外なことではあるけれど、まったくありえない話でも、ないな。どうしてそうなったのか、想像もつかないが。


 あこぎは、すっかり一人前の女房のようだったな。

 あこぎ、少納言、侍従の君。中納言邸に仕えていた侍女が、三条殿に三人いるのか。衛門督殿との今後の交わりを考えると、好都合なことではあるな。


 越前守は呑気に考えています。母親が落窪の君をどれほど虐待したか、これまでは任国で暮らしていたので、知る由もなかったのです。


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