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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻三
76/105

三条殿バトル③

●姫君、心を痛める


 道頼の北の方(姫君)は、御簾内で、夫と越前守とのやりとりをすべて聞いていたのでした。辛い心情を夫に訴えます。


「私たちが移ろうとしている屋敷は三条殿なのですね。父上が長年造って引っ越されようとなさっておいでなのに、それを邪魔だてなさるなんて……。父上はどんなにお嘆きになっているでしょう。私、親不孝者になってしまいますわ。妨害工作なんて、あなたの配下の者がすることだったとしても嘆かわしいのに、あなたが率先してなさるなんて、耐えられませんわ。それにしても、今度のことは衛門が思いついたことなのでしょうね」


「子が親の家を奪っていいはずは、もちろん、ないさ。中納言殿は今は困っておいでだろうけれど、あなたが後でじゅうぶんに孝行すればいい。三条殿への引っ越しの件だけど、あなたが不承知でも、私は行くからね。子供たちを連れてね。ここまで事を構えたからには、引っ越さないでは、こっちも体裁がつかないよ。三条殿をお父上に差し上げたいと思うなら、あなたが私の妻としてこうして暮らしていることをお知らせした後で、そうすればいい」


 これ以上何を言っても無駄、と察して、北の方(姫君)は黙するのでした。

 


●越前守、老中納言に報告する


 越前守、帰宅します。

 車宿りに迎えに出た女童に命じます。

「かき氷だ!」

「はい?」

「かき氷を二人前、大殿のお部屋まで持ってくるように」

「並み盛り? 大盛り?」

「大盛り」

「シロップは?」

「宇治金時」

「アイスは?」

「もちろん、つけて」

「ワンディップ?」

「ダブルで、頼む」

「オーダー、復唱いたします」

「せんでよい! 特急で持ってこい!」


 越前守、父中納言のいる寝殿(本殿)へ渡っていきます。

「父上、ただいま帰参いたしました」

「おお、ご苦労じゃったのぉ。で、いかが、あいなった?」

「絶望的、であります。てんで、ダメ。三条殿は衛門督殿に奪われてしまい、恥をかいて泣き寝入り、というエンディングです」

「なんと……!?」


「諦めるほかなさそうです。こちらは重要案件と思って、いろいろ申しあげたのですが、衛門督殿は真剣に応じてはくださいませんでした。子供を――それが、めっちゃ、かわいい子なんですけど――膝に抱いて、あやしたりなんかなさって。私の言うことなんか、聞いてもいただけませんで。地券をお持ちだそうで、『それを父上にお見せする』と伝えよ、とだけおっしゃって、奥へ入ってしまわれました」


「待て、待て。右大臣殿はどのように仰せなのか、右大臣殿は?」

「『私は判断できない。衛門督が、地券を持っている方が領有権を主張できる、と言っていた』と、仰せでした。どう抗弁しても、無駄というものです」

「むむむ……」


「父上、どうして、地券をちゃんと見つけて、手元に確保しておかなかったのです? 衛門督殿のお屋敷では、引っ越しのだし車や供人のことなど、賑やかに準備しておいででした」


 老中納言は肩を落とします。床の一点をぼんやりと見つめて、

「落窪の君の母親が、死ぬ間際に、あの子に地券を渡したのだが、その後のことは私も記憶になくてな。うっかり、地券をこちらのものにするのを忘れているうちに、あの子がいなくなってしもうた。衛門督殿が持っておられるという地券だが、買い取ったものにちがいあるまいて。あの子が売りに出したのだ。衛門督殿は、どこかで買った地券で、今こうして、私らの邪魔だてをなさるのだ。訴訟を起こしても、相手があの権勢家の衛門督殿では、公平な判定は下るまい。あれほどの財を注ぎこんだというのに……」


「父上は運にめぐまれなさいませんでしたね……」


 そこへ、かき氷宇治金時ダブルディップが、うやうやしく運ばれてきます。大きな椀にてんこ盛りになっています。

「父上、召し上がりませんか。暑さでお体がまいってしまわれますよ」

「うむ……」

 老中納言がトッピングのアイスを匙ですくおうとしたそのとき、


 ボッタッ。


 ダブルディップ、あえなく、床に落下。

「どこまでも不運じゃ……みじめなものよ……」

 老中納言、空を仰ぎます。



●道頼たち、三条殿へ


 日が暮れます。

 衛門督邸では、侍女たちが支給された晴れ着に感激して、わあきゃあ騒ぎながら、身支度を整えています。

「チーム二条殿に加えてもらったばかりなのに、新しい装束までいただけて。ここでは何もかも派手ね。楽しい~っ♪」


 戌の刻(午後八時ごろ)。

 衛門督道頼の一行は、牛車十輛を連ね、威儀を整え、三条殿へ向かいます。供奉する者たちが持つ松明は百以上ありそうです。あかあかと燃える松明に照らされた出だし車の列の、きらびやかなこと!


 ほどなく、一行は三条殿に到着します。

 車から降りた道頼は、邸宅のようすを眺めわたします。

 寝殿の内装はすっかり整っています。屏風や几帳は必要な場所にきちんと設置され、床には真新しい薄縁うすべり(畳カーペット)が敷かれています。三条殿の満足度は二百パーセント、といったところでしょうか。

 

 予想以上に満足度が高かったために、道頼は、ほんの少し、老中納言に同情をおぼえます。

「中納言殿は、確かに、残念に思っておいでだろうな」

 とはいえ、すぐに思いなおします。

「鬼ババ北の方よ、せいぜい悔しがるがいい」


 一方、道頼の北の方(姫君)は、実父の嘆きを思うと、この引っ越しにどんな興奮もおぼえることができません。ため息ばかりついてしまうのでした。



●荷物を返せ!


 そこへ、越前守が十人ほどの従者を従えてやってきます。中納言家が運び入れた荷物の返却を申し入れるために、です。

 門はぴたりと閉じられていて、左右に衛門督邸の舎人が立っています。越前守の従者の一人が、舎人に声をかけます。


「中納言邸より参った。衛門督殿に、こちらの荷物をお返し願いたい、と伝えていただきたい」

「しばし、お待ちを」

 

 越前守の一行、かなり待たされます。

 舎人が戻ってきます。

「どうぞご自由に、早くなさいませ、とのことです」

「では、門を開けていただこう」

「できません」

「できぬ?」


「部外者、立ち入り禁止です。プライベートなパーティが始まりますので」

「それでは荷物を持ち出せないではないか」

「いえ。荷物はお持ち帰りください。ご自由に。早くなさいませ」

「じゃあ、この門を通るぞ。よいな?」

「なりません」


「ふざけてんのか! 小童こわっぱめっ!」

 越前守の従者たちがすごんで見せますが、邸内からは数倍の数の男たちがわらわらと出てきます。


 越前守が牛車のなかから声をかけます。

「争ってはならぬ。もうよい。今夜は諦める。帰るぞ」


 荷物が戻ってくるものと期待していた老中納言の北の方は、越前守から話を聞いて、悔しがります。

「衛門督っ! あの人っ! どうして私をこんなに苦しめるんだいっ! いったい何の恨みがあるってのっ!」

「母上、落ち着いてください」

「落ち着いてなんか、いられるもんかっ。よしっ、向こうがパーティを開くってんなら、こっちもだ」

「パーティですか?」

「そういうこと。呪いのパーティだよ」

「呪い、って……」

「ウチじゅうみんな集まって、車座になって、呪いの祈祷をするんだよ。げんがあるかどうかわからないけど、ダメもとじゃないか。さあ、始めるよっ」


 怒れる北の方の思いつきに、四人の姫君がたは巻きこまれたようですが、男君おとこぎみたちはどうだったでしょう? 蒸し暑い長い夜となりそうです。



●引っ越し祝いのパーティ


「荷物を引き取りにこられた越前守殿ですが、お帰りになられたようです」

 舎人頭が道頼に報告します。

 道頼はうなずいて、側近の者に命じます。

「中納言家がここへ運びこんだ物は、何一つとして、紛失してはならないぞ。後できちんとお返しするのだからな」

「かしこまりました」


「さて、と。引っ越し祝いパーティの支度は、できているかな?」

「はい。できております」

 

 渡殿わたどののほうから陽気な声が聞こえてきます。

「兄上~、すばらしいご新居ですね~♪」

「お祝いに駆けつけました~♪」

 道頼の二人の弟、少将と兵衛佐ひょうえのすけです。

「ザ・ロッキング・ジジューズも馳せ参じておりますよ~」

 少将は、自身がベース琵琶を担当するバンドも、引き連れてきたようです。侍従から少将へ昇進しても、まだ侍従ズの一員なのですね。


 賑やかにパーティが始まります。

 ほろ酔い気分の衛門は、これまたほろ酔いの左衛門尉さえもんのじょう(帯刀)にささやきます。

「衛門督殿、最高っ! ついに三条殿を奪い取ってくださったわ。――奪い取る、ってのは違うわね。もともと姫君が伝領された邸宅ですもの」



●越前守、また空しく帰る


 翌朝。

 七時ごろです。

 越前守、またやってきます。

「こちらで運び入れた荷物を、お返し願いたい」


 伝言を取り次いだ舎人が、道頼の返答を持って、戻ります。

「衛門督殿のご返事ですが、『引っ越しから三日間※は荷物を動かせません。明後日、おいでください。荷物はちゃんと保管しておきますよ』とのことです」

「また出直すのか……」

 越前守はうんざりします。手ぶらで帰るほか、ありません。


 衛門督邸の引っ越し祝いパーティは、三日目の深夜まで続くのでした。


※三日間――転居時の習俗と思われます。

 

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