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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻三
73/105

侍女たちの再会

●二条殿に着いてみると


 衛門督邸では、破格のサービス精神を発揮して、中納言邸からの転職組の一人一人に迎えの牛車を遣わします。転職組としては、これはかなり嬉しいですよね。


 二条殿の車宿りで車から降りてみると、見知った者同士がそこにいるではないですか。互いに顔を見合わせて、びっくりするやら、笑ってしまうやらです。

「侍従の君!」

典侍すけの君!」

大輔たゆうのおもとも、こちらに?」

「あら、まろやがいるわ。まあ、驚いたこと」


 びっくりといえば、二条殿の侍女たちが、噂には聞いていたものの、みなファッショナブルなのにも目をみはらされます。


 若い侍女たちが二十人ばかり、この蒸し暑い季節にあわせて、糊をしっかりきかせた単襲ひとえがさね※に、二藍ふたあい(青みの強い藍色)の(後ろ半分だけのスカートみたいなもの)、それに濃い紅の長袴という装いで、次々に出迎えてくれたのです。


 さらに、年配の侍女たちも五、六人やってきました。こちらは、緋色の長袴、綾織りの単襲、それに淡い紫の透きとおるような薄絹や綾織りの裳という、年齢にふさわしいシックな装いです。


※単襲――単は、いちばん下に着る裏地のない衣で、これ一枚しか着ていなければ肌着姿でいるのと同じことになりますが、二枚重ねれば、ちゃんとした装いとなります。そのために、糊もしっかりきかせるのです。夏なので薄着で過ごしたいわけですが、単以外の衣は裏地付きなので、単+うちきでは布を三枚着ることになって、ちと暑いのです。単襲の場合、上の単は、下のそれより一回り小さく仕立てたものを着ることになります。平安時代の装束はすべて、上に着るものほど袖丈も身頃丈も短くなります。

 


●侍女たちの再会


 北の方(姫君)は、暑気あたりでしょうか、気分がすぐれないようです。到着した新顔の侍女たちとの顔合わせに、お出ましになれません。

「じゃ、私が行こう」

 と道頼が動きます。フットワークが軽いですね。


 衛門督じきじきのお出ましとあって、新参の侍女たちはカチンコチンに緊張してしまいます。顔をまっすぐに上げられません。それでも、上目遣いに、衛門督の姿を垣間見ます。


 まあ……!

 なんて爽やかなイケメンなのかしら!

 

 衛門督は、濃いくれないの袴※に、白い生絹すずし(薄く軽い絹)のひとえ、薄い織物の直衣という装いです。侍女たちにこの姿が見えたということは、御簾で隔てていないわけですね。


 新顔の女房たちのようすを見たあと、道頼は北の方(姫君)のところへ戻ります。

「どの侍女も悪くないんじゃないかな。ま、衛門あこぎが連れてきたんだから、悪い、なんて言えないよね」

 北の方(姫君)は笑って、

「衛門はずいぶん信頼されていること」


 衛門は得意顔で言います。

「悪い、なんてケチはつけられっこありませんよ。ご覧いただけば、おわかりになります。私がこうして御前に参じていましたら、新参の侍女たちの髪を梳かしたりして、うんときれいにしてお目にかけることができません。なので、ちょっと失礼させていただいて――」


 衛門は、中納言邸からやってきた侍女たちが控えているところへ出向きます。

 侍女たちは、やってきた女性が誰か、すぐに気づきます。身形みなりから、女童などではなく、立派な女房、それも筆頭格だと見てとります。あのあこぎさんが、すばらしいご出世をなさったんだわ、と驚いてしまいます。どんなことが起きたのかしら?


 衛門あこぎは、わざと、侍女たちに会うのは初めて、というふりをして言います。

「どこかでお見かけした方々ばかりのようですわね。不思議ですわ」

 すると新参の侍女たちも、とぼけた顔つきで応じます。

「本当ですわね。嬉しい偶然ですわ」

 そこで、衛門も侍女たちも、笑み崩れてしまいます。

「ようこそ、チーム二条殿へ!」

「あこぎさ~ん! お懐かしいわぁ」

「お会いしないままに何年経ったでしょう? 寂しく思っておりました」

 あっというまに、思い出話に花が咲くのでした。


 そこへ、二歳くらいの色白のかわいい男君おとこぎみ※を抱いた女房が現れます。男君は女房の肩にしがみつくように甘えています。

「衛門の君、北の方さまがお呼びですわ」


 新参の女房たちは、いっせいに驚きの声をあげます。

「少納言さん! あなたもこちらに?」

「うふふ。そうなんですの。さっきから懐かしいお声が聞こえていて、昔に返ったようで、不思議な気がしていましたのよ」


 その夜――。

 中納言邸から移ってきた侍女たちは、興奮さめやらぬようすで、おしゃべりを続けます。

「ここへ来られてラッキーだったわ」

「あこぎさん、じゃなかった、衛門の君や少納言さんたちがいろいろ気遣いをしてくれて、ありがたいことね」

「本当にね。新しい職場に頼れる人たちがいてくれて、よかったわ」


※濃い紅の袴――ふつうの袴とは考えられません。もちろん、下着として穿く袴では、ありえません。指貫袴と解釈すべきでしょうか? それも無理がありそうです。紅の長袴と仮定すると、道頼は「お引き直衣」という装いでいたのかもしれません。引き直衣は、帝の普段着スタイルですが、臣下でも、私的な場所であるなら、その装いをするのも自由でしょう。紅の長袴の上に直衣を羽織りますが、ウェスト部分で丈を端折らず、裾を長く引きずるように着ます。帝の場合は、最初からうんと丈長に仕立ててあります。冬は純白の直衣ですから、紅の袴とのコントラストがなんとも優艶です。この場面は夏なので、二藍の直衣でしょうか。白い単に透けるような二藍の直衣を重ねているのでしょうか。涼しげですね。


※二歳くらいの~~男君――太郎君。三歳(数え年で)と書かれるべきですね。


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