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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻三
72/105

三条殿に引っ越すのは誰?

●引っ越しの準備


 老中納言の気分は落ちこむばかりですが、そうこうするうちに、三条殿の改築が完了します。立派な御殿になりました。


 新しい御殿ができあがって、ようやく、老中納言も前向きになったようです。

「六月に新邸へ移ろう。ここまで次々に災難に見舞われるとは、今のこの住まいの方位が悪いのかもしれん。はっきりさせるためにも、引っ越すのがよかろう」


 姫君たちも、のんびりしていられません。

「衣はぜんぶ唐櫃へ詰めさせないと。唐櫃が足りるかしら?」

「古いラブレターなんかが入った硯箱は、乳母に預けたほうがよさそうね」

「引っ越し先で、すぐにお化粧道具が見つからなかったら、困るわ。自分で抱えて持っていこうかしら」



●三条殿の地券


 この引っ越しの件をどこからか衛門が聞きつけ、早速、道頼の耳に入れます。


「冗談じゃないわ、って事態が出来しゅったいしております。北の方さまのお父君の中納言殿ですが、三条殿を立派に造り変えられて、ご一家でお移りになられるとか」

「冗談じゃない? どういう意味だい?」


「三条殿は、こちらの北の方さま(姫君)が所有なさっておいでの不動産にございます」

「それは初耳だな」


「北の方さまの亡き母君さまが、繰り返し繰り返し言い遺されたのです。『この邸宅は手放してはなりません。亡き父宮(親王)が、邸内も庭も風雅を尽くして住んでおいでになった所ですから、とても愛着があります』と。なのに、あの中納言殿が、まるで見せつけるようにご自分のものになさるなんて! 三条殿は、お渡しするわけにはまいりません、中納言殿には」


 道頼は腕組みをして視線を遠くへ投げますが、すぐに衛門と向き合って、

「地券(不動産登記簿謄本)はあるの?」

「ございます。確かでございます」


「よし。こちらの言い分が通りそうだな。向こうが、いつ三条殿へ引っ越してくるのか、しっかり探ってこい」

「かしこまりました♪」


 そこへ、北の方(姫君)がやってきます。

 あら、殿と衛門が熱心に何やら話しているということは――また、ろくでもない計画を練っていたのね。きっと、そうにちがいないわ。


「今度はまた何をなさるおつもりですの? 衛門、あなた、このごろ私の手に負えないわ。すっかり、ワルね。ただでさえ容赦なさらない衛門督殿を煽ったりして」


「ええ~~? ワルですか、私? 道理のないことは、いたしておりませんですよ」


 道頼は笑って、

「何を言ってもだめだよ、こちらの北の方には。このお方はね、ふつうの人とは考え方が違うんだ。自分をひどい目に遭わせた人を『お気の毒』だといって、この私は逆に、責められちゃうんだ」


 衛門はすまし顔で応じます。

「なるほど。そうなのですね。では、北の方さまには何も申し上げません」



●三条殿先回り作戦


 六月。

 老中納言一家の引っ越しは十九日であると、衛門は探り当てます。早速、道頼に報告します。


 道頼の目が輝きます。

「じゃ、作戦、開始。その日に、北の方に三条殿へ移ってもらう」

「先手を打ってしまう、というわけですね」

「そういうこと。で、侍女をまた増やしたい。若い侍女たちをリクルートしてくれないか。あっちの中納言邸にまだいるんじゃないのかな、若くて有能な侍女たちが。いたら、仕える場所は三条殿になるということは伏せて、集めてほしいんだ。あの鬼ババ、また悔しがるぜ、きっと」

「きゃあ! あはははは」

 衛門は笑み崩れます。 


「あはは、とか大口開けて笑うなよ、もう。衛門と私とは意見がぴったり合っちゃうよな。性格、似てるのかな? どうでもいいけど、この話、北の方には内緒、ね」

「内緒。がってんでございます」


 てな感じで、道頼と衛門は、何かにつけ、こそこそ話し合うのでした。


 数日後――。

 道頼は北の方にこう切り出します。


「ある人から屋敷を譲られてね。とてもすばらしい屋敷だ。この二条殿も修理の必要があるから、ちょうどよかった。引っ越しをしよう」

「いつですの?」

「今月の十九日。侍女たちの装束を用意しないとね。紅の絹や茜の染草などは、明日にも届けさせよう」


 平安貴族の引っ越しには、儀式めいたことや、必ず守られる習慣などがあり、真新しい赤い装束を身に着けるのもその一つのようです。


 北の方(姫君)は、道頼の計画を知らないままに、引っ越しの準備に専念します。



●衛門のヘッドハンティング


 衛門は、中納言邸に仕える侍女たちのうち、呼び寄せるのにふさわしい顔ぶれをリストアップします。


 ☑侍従の君

 ☑典侍すけの君

 ☑大輔たゆうのおもと

 ☑まろや


 侍従の君は、鬼ババ北の方付きの女房です。大変な美人で、侍女たちの筆頭にいるのです。とにもかくにも、この人は絶対にヘッドハントしなくちゃね、と衛門は決めています。

 典侍の君と大輔のおもと、そして下仕えのまろやは、三の君付きでした。みな、器量よしで仕事のできる侍女たちです。 


 女童のつゆは、残念ながら、リストには入っていませんね。呼び寄せるには幼すぎるのかもしれせん。


 衛門はリストアップした侍女たちを個別ターゲットにして、密かに使いを送り、こんな台詞を言わせるのでした。

「衛門督殿のお屋敷が、若い侍女を求めています。衛門督殿ですよ。今、いちばん権勢を振るわれているお方ですよ。そのお屋敷なのですから、好待遇で迎えてくれますよ。侍女たちをとても大切にしてくれるお屋敷です」


 声をかけられた侍女たちは、みな、かつての少納言のような気分で暮らしているのでした。中納言殿はずいぶんと耄碌なさっておいでだわ。不安だわ。どこかにいい転職先、ないものかしら?


 そこへ、衛門がマンツーマンで送りこんだ使者が、おいしい話を伝えたというわけです。

「そのお話、ぜひにもお受けしたいと存じます!」


 衛門督邸への転職を決めた侍女たちは、同僚たちには何も知らせず、里下がりをします。衛門は、ヘッドハンターとしては有能で、最後まで手を抜きません。ヘッドハントした侍女たちのそれぞれが実家で出仕の支度をするあいだも、例の使者を張り付けてけておきます。


「転職をお決めになったのは賢明でございましたよ。衛門督殿のお屋敷は、それはそれは居心地のよい所でございますよ。衛門督殿は本当におやさしいお方でおいでですから。それに、眩暈がするようなイケメンでいらっしゃるのです。毎日、心ウキウキでございますよ」

「あら、いやですわ~。お仕えするお殿さまにくらくらしてたら、仕事に集中できませんわ。ほほほ」

「くらくらじゃなくて、ウキウキですよ~」

「ルンルン、のような感じですかしら~?」

 などとアホな会話を交わしつつ、次の職場でもきっちり仕事をしてキャリアを積もう、と決意新たな侍女たちです。衛門督の北の方が、あの落窪の君とは知らずして。かつての同僚の何人かと再会することになろうとは予想もせず――。



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