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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
69/105

賀茂祭りバトル①

●場所取りの杭


 十一月、下の酉の日。

 賀茂の臨時の祭り(冬祭り)が催されます。

 春(当時の暦では夏)の本祭に対して、臨時の祭りと呼びます。


 衛門督道頼は、二条殿の侍女たちの日頃の労をねぎらいたいと思ったのでしょうか、祭り見物を提案します。

「屋敷にこもりきりで、楽しみがなかったね。みんなで出かけよう」


 牛車は新車を揃えます。女房や女童には華やかな装束をプレゼントします。

「体裁がしょぼいのは、だめだよ。すべて、ゴージャスにね」

 道頼の意向で準備が整っていきます。


 さて、祭りの当日を迎えます。

 一行が見物する予定の場所には、すでに杭を打たせてあります。「衛門督殿御一行」とでも墨書した杭を打ったのかもしれません。今の花見の場所取りといっしょですね。


「そろそろお出かけなさったほうがよろしいかと存じます」

 従者の一人が声をかけます。

 道頼は急ぎません。ゆっくり支度をしています。

「杭を打ってあるんだ。慌てなくても、場所は取られっこないさ」


 予定よりやや遅れて、一行は車に乗りこみます。

 五輛の車に四人ずつ、大人二十人が、二輛にはそれぞれ女童四人、下仕え四人が乗ります。


 この日、七輛の車の先頭を行くのは、下っ端の従者ではなく、四位、五位といった人々です。威儀を正して、騎馬で先払いをつとめます。この前駆だけで十人ほどいるでしょうか。さすが、衛門督の一行ですね。このほかにも、徒歩かちで従う雑色や牛飼童が何人もいるのです。

 

 さらに。

「兄上、私たちもご一緒させてください」

 と、道頼の弟二人の一行まで加わりました。


 侍従だった弟は今は少将、殿上童だった末弟は兵衛佐ひょうえのすけ(兵衛府の二等官)となっています。それぞれが、兄を真似てか、いっちょまえに六、七輛の車を連ねてやってきたのですから、牛車だけで二十輛という大所帯となりました。



●一条大路で


 道頼は、見物予定の場所の少し手前で、牛車の一団を一時停車させます。考えがあるのです。


 こちらの二十輛をどのように配置しようかな? 三兄弟そろって北側に車を止めたのでは、お互いの顔が見えなくて、つまらないよな。女房同士だって、向かい合わせのほうが楽しいだろうし。


 ちょっとしたプランを練っていた道頼は、打たせた杭の反対側に二輛の車が停まっているのを目にします。古めかしい檳榔毛びろうげの車※と網代車です。困ったな、などと躊躇する道頼ではありません。反対側には杭は打ってないんですけどね。プラン続行です。従者の一人を呼びます。

 

「親しい者同士が向かい合わせになるように、大路の南北に車を配置したい。さらに、男車と女車は隣り合うのがいいだろう」

「かしこまりました」

「ところで、あそこにしょぼい車が二輛停まってるけど」

「あんなの、どかしてしまいましょう」


 従者は雑色頭に声をかけます。

「向こう側に停まってるあの二輛、少しどかしてこい。こちらの御車をあちらにお停めする」

「がってん!」


 雑色頭が話をつけにいきますが、相手は聞き入れません。道頼は離れたこちら側からようすを見ていて、相手が動きそうにないのを見て取ります。戻ってきた雑色頭に尋ねます。

「どこの車?」

「源中納言殿のお車であります」


 よく出くわすじゃないか。

 ふっ、と道頼は笑いを漏らします。

「中納言の車であれ大納言の車であれ、駐車スペースはこんなにあるのに、どうしてこちらの打ち杭があると見ながら、駐車してくるんだ。少し、どいてもらうんだな」

「ラジャー!」


 清水寺バトルの再現となってきたようですね。

 雑色頭は、今度は十人ばかりの雑色を連れて、二輛の車に向かいます。いきなり車のながえに手をかけて、強引に動かそうとします。相手の従者も黙ってはいません。


「おや、またお前さんたちかい。どうして、こう無体なことをする。いつもいつも喧嘩腰で。お前さんたちの権勢を誇られる殿御とのごは中納言でいらっしゃるが、こちらの殿も同格の中納言。お前さんたちの殿御は、この一条大路を占有なさるおつもりか。無茶なさることよ。大路の西でも東でも、斎院※さえ遠慮して避けてお通りになるとでも、おっしゃるのか。そんなに偉いのか!」

「へっ! 同じ中納言だから同格だ? 我らが殿さまをそっちと同列に言うな!」


 口論が続きます。今日はいきなり武力行使に出ない作戦なのか、雑色頭がちらちらと道頼を振り返ります。やっちまって、いいでしょうかね?


 道頼は、騎馬姿の左衛門の蔵人(左衛門尉さえもんのじょうで蔵人である惟成)を呼んで、指示を出します。

「あの二輛、おまえが移動させてこい。雑色たちを指揮して」

「はっ! ただちに」


 左衛門の蔵人が動くと、衛門督側のほかの前駆たちも動きます。人数が多いです。この日も、老中納言家の従者の数は衛門督側と比べて少なすぎて、太刀打ちできません。

 老中納言家の三、四人いた前駆たちが、真っ先にギブアップしてしまいます。


「もう、無理。出先でこうしたいざこざを起こしても、つまらないことになるだけだ」

 逃げるように、大路に面した邸宅の門内※へ退散します。門柱の陰から、見捨ててしまった牛車のほうをちら見しながら、ため息をつきます。

「今の太政大臣の尻を蹴ることはできても、衛門督殿の牛飼童に手出ししたら、アウトってことだよな。くそ……」


 この後、次のような一行が挿入されています――


 衛門督は、いつも勇み立っている強面こわもてのように世間では思われておいでだけれど、実際の御心は、とても親しみやすく穏やかなのです。

(すこしはやう恐ろしきものに世に思はれたまへれど、じちの御心は、いとなつかしう、のどかになむおはしける)


 老中納言家の人々は「はあ???」でしょうね、きっと。

 今の太政大臣の尻を蹴ることはできても、という過激な台詞を前駆に言わせた直後に、バランスを取って、主人公の道頼を擁護するために書かれた一行でしょうか。作者、しれっと、おとぼけをかましてきますね。――この場面、まだ続きます。


※檳榔毛の車――白く晒した檳榔の葉で、屋根または車箱全体を葺き覆った牛車。上皇、親王、上卿、女官、僧侶などの乗用車。ちょっと高級なセダン。


※斎院――上賀茂と下賀茂の両社に奉仕した皇女。伊勢神宮に奉仕する皇女は斎宮ですね。


※邸宅の門内――築地塀に設置された門の内側。寝殿造りの邸宅では、このさらに内側に中門が設けられます。築地塀の門は、昼間は開いていたと考えられます。



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