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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
68/105

道頼、中納言兼衛門督に昇進

●それぞれの昇進


 春の司召し(京官の人事異動)です。

 中将道頼は、上席の人々を飛び越えて、中納言へと昇進します。

「あのダメ親父と同格になってやったぞ」

 姫君の実父でありながら姫君を落窪呼ばわりしていた老中納言を思い浮かべて、不敵な笑みを浮かべる道頼です。


 三の君を捨てて、道頼の妹と結婚した蔵人の少将は、中将へ昇進です。同時に、参議(宰相)にも取り立てられました。上達部かんだちめ(公卿)の仲間入りです。

「いつかは公卿に、と思っていたけど、予想していたより早かったな。やはり、左大将家に婿入りして正解だった。私の人生、これからいいことしか起こらない、って気がしてきたぞ。きゃはははは」


 道頼の父親である左大将は、左大将職を保持したまま、右大臣の位に就きます。左大将というポストは非常に権威があって、一度手にした公卿は、その職をなかなか譲らないものです。

 新右大臣は、誕生したばかりの孫が自分と息子に昇進をもたらしてくれたのだ、と喜びます。

「祖父孝行、父親孝行の赤子であることよ。ほっほっほっ」


 中納言となった道頼は、これまで以上に帝のおぼえめでたい臣下となります。若輩ながら公卿会議では一目おかれ、私生活ではやたらにあちこちのパーティにばれます。誰もが、新中納言殿とお近づきになりたい~♡、と望んでいるようなのです。


 そして。

 道頼は衛門督えもんのかみを兼任することになりました。内裏での儀式などでは、かっこいい式服に身を包んで華やかに目立つ衛門督です。


 衛門督は衛門府の長官で、左右一人ずついます。道頼が左衛門督なのか右衛門督なのかは書かれていません。もともとは従四位下クラスの官職でしたが、貴族の数が増えるにしたがって、ポスト争奪戦がはげしくなり、値打ちが上がっていきます。平安中期には、中納言が兼任するのがほぼ規定路線だったようです。

 衛門督か兵衛督が、検非違使の別当べとう(長官)も拝命します。中納言にして衛門督にして検非違使の別当――なんだか、すごいですね。道頼が別当になったかどうか、わかりませんが。


 一方、老中納言邸では、北の方と三の君がぼやいています。蔵人の少将が宰相の中将へと昇進したニュースを耳にしたのです。

「あのお方をずいぶんお世話もうしあげたというのに」

「ときどき、お通いくださらないかしら」

「昇進の報告がてら、お顔を見せくださってもいいのにねぇ。シャンパンのボトルくらい、開けてさしあげようものを」

「十日に一度、いえ、一月に一度でいいから、お通いくださらないかしら。ああ~」


 道頼は、今や老中納言と同格です。さらには、衛門督という要職にも就きました。世間の圧倒的信望を味方にしています。もう遠慮はしません。内裏でも、老中納言をちょっとしたことでからかってみたり、帝や大臣から叱責を受けるように仕向けたりするのでした。あまりしょっちゅう仕掛けるので、ネタ切れになってきましたが。



●第二子、誕生


 翌年の秋――物語の始まりから四年目――新中納言道頼の北の方(姫君)は、第二子を出産します。やはり、かわいらしい男の子です。


 右大臣(左大将)の北のゴッドマザーは、こう提案します。

「まあ! 忙しいくらいに次々にかわいらしい赤ちゃんが生まれること! この子はウチで預かることにしましょう。乳母ともども、ここへ迎え入れましょう。賑やかになるわ~♪」


 忙しいくらいに次々に、って、まだ二人目ですが?

 ゴッドマザーは、年子を育てることになった嫁の苦労を思いやったのかもしれません。あるいは、久々に赤子の世話をしたくなったのかもしれませんね。



●帯刀の出世


 同じころ、帯刀も昇進します。左衛門尉さえもんのじょう(衛門府の三等官)となり、蔵人も兼任します。

 本人はもちろんのこと、衛門あこぎも大喜びです。


「これからは、あなたのこと、惟成!なんて呼び捨てにしちゃ、だめよね。左衛門尉殿と、お呼びいたします」

「よせやい。くすぐったいよ」

「左衛門尉殿」

「う~ん、悪くないかも」

「あたし、裁縫はあんまり得意じゃないけど、新しい装束を仕立てるわね。待ってて」

「嬉しいな。好きだよ、ベイビー」

「あたしも、好き。大好きっ! お祝いに、二人焼肉とか、しちゃおっか?」

「いいね」

 雉肉、山鳩肉、鹿肉、猪肉などなどを用意する二人でした。タレは甘めで。



●三条殿


 さて。

 老中納言は少々ボケぎみのようです。もの思いばかりして、宮中に出仕もしません。屋敷にぼんやりと籠っているばかりです。

 

 老人がこういう状態になると、ときに、余計なことを思いついてしまうものです。

「そうだ……三条殿をリフォームするか」


 三条殿は、落窪の姫君が亡きママンから相続した邸宅です。手を入れないと住めない屋敷なので、老中納言はこれまで関心がなく、落窪の姫君が伝領※した不動産、と認めていたのです。


「あの子はもうこの世にいないのだから、三条殿は私のものとしよう。かまわんだろう」

 やはり、老中納言は耄碌しているようです。自分の娘が消えた、つまり、生きてはいない、と考えているのです。それでいて、悲しんでもいません。困ったものです。


 これを聞いて鬼ババ継母は、満足そうに、にやり、と笑います。

「当然です! 落窪がまだ生きていたとしても、あれほどの邸宅を所有する資格なんて、ありはしませんよ。あの邸宅は、私たちのできのいい子供たちと親である私たちが住むのに、ぴったりじゃありませんか。広々していますもの。テニスコートやプールだって造れますわ」


 というわけで、老中納言は三条殿のリフォームに着手します。荘園からの二年分の所得をすべて注ぎこみます。築地塀の新造はもちろんのこと、寝殿(本殿)、東西の対の屋、渡殿、中廊、四脚門、すべて新しく建てます。古い材木など、一本も使っていません。リフォームというより、新邸の築造ですね。

 いつしか、老中納言はこの築造に没頭していきます。

「私の人生最後の大仕事だ」


※伝領 ――相続とほぼ同義ですが、ある一族が何代にもわたって所有してきたものを相続する、という意味ですね。歴史関係の書籍には頻出の単語ですが、なぜか、ふつうの辞書の見出し語になっていません。愛用の電子辞書にはデジタル大辞泉と明鏡国語辞典が搭載されていますが、どちらにも載っていませんでした。ちなみに、ネットのコトバンクには説明が載っています。ところで、平安時代という古代において、女性の不動産相続権が確立していることは興味深いことですね。

 


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