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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
67/105

ベビー誕生!

●北の方(姫君)の願い


 中将道頼は、これ以上ないほどに、身重の北の方(姫君)を大切にしています。

「滋養のあるものをたくさん食べて。典薬寮の乳牛院から、()(チーズ)をわけてもらってこようか。安産のためには、少しは体を動かしたほうがいいというよ。ときどき庭をいっしょに散策しようね。名のある僧に加持祈祷をお願いしないと。律師クラスじゃ、心もとない。せめて、僧都でないとね。そうそう、胎教にはモーツァルトを聴くのがいいらしいよ。いや、バッハだったかな? モーツァルトは豊かな情操を育み、バッハは理性を強化する、だったかなぁ? 侍従をしている弟が、管弦バンド、ザ・ロッキングジジューズのメンバーなんだ。クラシックをジャズフュージョンふうにしたのを――]


 衛門が口をはさみます。

「殿、北の方さまはお昼寝をなさりたいごようすですわ」

「では、私が添い寝してさしあげよう」


 道頼と北の方(姫君)は御帳台のなかで横になります。

 北の方は、夫の中将はもう仕返しのことなど忘れてくれたようだと思い、自分の願いを口にします。


「この二条殿でこうして無事に暮らしていることを、父上にお知らせしたいのですが」

「中納言殿に?」

「はい。ご高齢ですから、いつなんどき、ということも考えられますわ。このままお目にかからずじまいになるかしら、と心細いのです」


「その気持ち、わからなくはないけど。もうしばらく、我慢して。私があなたの夫だと中納言殿がご存じということになったら、私は、やりにくくなってしまう。あの北の方を懲らしめることがね。あの人にはもう少し罰を与えないと」

「…………」


「それにね。私も、いま少し人並みの地位についておきたいんだ。中納言殿が今日明日にもお亡くなりになる、なんてことはないよ」

 

 夫の目をのぞきこむと、はやり、強い覚悟のほどがうかがえます。北の方(姫君)はそれ以上反論することができず、実父の中納言に会いたいという気持ちを抑えて身重の日々を過ごすのでした。



●ベビー誕生!


 年が明けます。

 正月の十三日――

 

 北の方(姫君)は、無事、第一子を出産します。

「男御子でいらっしゃいます!」

 衛門の弾むような声です。

 道頼は、安堵と喜びで、腰を抜かしてしまいます。


 この当時のお産では、赤ちゃんは生まれたけれど、胎盤がちゃんと下りずに母親が命を落とす、というケースが稀ではありません。

 道頼も、後産あとざんはどうか、後産は、と祈るような気持ちで待ちます。

 

「もうだいじょうぶですよ。ご心配はいりません」

 産婆役の女房が知らせます。

「よかった! そなたたちも、よくやってくれた」

 と道頼は若い侍女たちをねぎらいますが、やや不安にも感じるのでした。みな、若すぎる。ベテランの乳母に招集をかけかなくては!


 遅ればせながら、道頼の乳母=帯刀の母親が左大将邸から二条殿へ、呼び寄せられます。

「私が生まれたときに、母上がしてくださったことは、何もかもすべてやってほしい」

「承知いたしました。お任せくださいませ」

「さすが、私の乳母。頼もしいな」

 一年ほど前に縁談話で揉めたことなど、二人とも忘れています。


 乳母が産湯のお世話などをしていると、北の方(姫君)は、何の心隔てもなく、話しかけてきます。品位がありながらおっとりした口調に、乳母は、なるほど、と思います。中将殿がほかの女性に見向きもなさらないのは、当然だわね。


 公卿の御曹司に初子はつご誕生となれば、あまたの貴顕がお祝いの品を手に馳せ参じてきます。二条殿にはプレゼントの山がうず高く築かれます。ディオールのカバーオール、シャネルのロンパース、ルイヴィトンのベビーシューズ、ティファニーの銀のお膳、ティファニーの銀の皿、ティファニーの銀の椀、ティファニーの銀の匙、ティファニーの銀の箸、などなどなど。


 おや?

 渡殿のほうから管弦の調べが聞こえてきますね。

 侍従たちで編成されたザ・ロッキングジジューズが、バッハ、ヘンデル、モーツァルト、セルジオ・メンデスなどなどを演奏しているようです。

 

 管弦の調べにスイングしつつ、衛門と少納言は語りあいます。

「姫君はほんものの幸福を手に入れられたわね。この場面をあの鬼ババに見せつけてやりたいわ」

「ほんとに、ね。目を白黒させるかしら」

「目を白黒させるくらいじゃ満足できないわよ、私は。真っ赤になって、頭から湯気でも出してくれないことには」

「ほほほ」


「あ、少納言さん、若君の乳母をおおせつかったそうね」

 少納言も二か月ほど前にママになったのです。産後太りが解消せず、かなり太めですが、そのぶん、頼もしげに見えます。優雅な雰囲気の女房でしたが、今は、どすこい、って感じです。


「そうなの。大役で緊張しちゃうわ。それにしても、こんな日が来ようとは、ねぇ。夢のようだわ」

「なんだか、涙が出てきちゃうわね」

「ほんとに……」

 

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