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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
61/105

少納言、二条殿の女房となる

●懐かしい語らい


 少納言は御簾の内へ招じ入れられ、北の方(姫君)の御前に参上します。

 落窪の間に幽閉状態だった儚げな姫君の姿が、脳裏によみがえりますが、それも一瞬のこと。目の前に座る頼もしくも立派に成長した姫君に驚くのでした。ほんの半年と少しのあいだお目にかからなかっただけなのに、随分と大人っぽくなられたこと!


 北の方(姫君)の周りには、汗衫かざみ姿の女童や、若く美しい女房たちが十人以上もはべっています。

「あの方は出仕早々に御前参上を許されたのね」

「私たちの初出仕のときは無かったことよね」

「何か理由があるのかしら?」

 などと、ひそひそ言い合っているのが聞こえます。羨ましそうです。


 北の方(姫君)は微笑んで、

「そうですよ。この方がここにいらっしゃるのには、それなりの理由があるのですよ」

 その物言いはおっとりしていて、なんとも優雅です。


 少納言は、出仕初日に御簾内に招じ入れてもらえたのは、北の方(姫君)のやさしさがあればこそ、と思います。そして、このように出来たお方だからこそ、中納言家で両親にめいっぱい可愛がられていた姉君たちや妹君たちより、はるかに大きな運にめぐまれたのだ、とも思うのでした。

 

 女童や他の女房たちが座を外したあと、少納言は中納言邸でのできごとのあれこれを詳しく語ります。


「典薬助殿には、あやうく、笑い死にさせられるところでしたのよ」

「まあ、何がありましたの?」

 衛門が身を乗り出します。

 少納言は、典薬助が自分の恥ずかしい失敗談を、臆面もなく何度も披露したことを話します。

 衛門は体をゆすって大笑いしますが、北の方(姫君)は扇で顔を隠してしまいます。やはり、笑いを堪えることができないのでしょう。


「四の君の婿取りのことですけど、なんとも外聞の悪いことですわよね。四の君があっというまにご懐妊なさったので、得意顔でいらした北の方さまも思い悩んでおいでのようですわ」


 あら?

 北の方(姫君)は首をかしげます。

 兵部の少輔殿は美男子、と聞いていたけれど?

「中将殿は、四の君の婿君をとても褒めておいででしたわ。とても美形でいらして、殊に、お鼻が立派なのだとか」


 少納言は苦笑します。

「中将殿は姫君をおからかいあそばしたのですわ。兵部の少輔殿のお鼻は、殊に、不格好なんですの。上を向いていて、巨大ですのよ」

「巨大?」

「両の鼻の穴に、左右の対の屋を建てて、おまけに寝殿も造ることができそうですわ」

 少納言も、結構、辛辣ですね。


 衛門はまたも大笑いしますが、北の方(姫君)はため息をつきます。

「四の君はどんなに辛い思いをしておいでかしら……」


 ――そこへ。

「遅くなって、ごめんよ~。内裏で飲まされちゃってさぁ」

 二条殿の主のご帰館です。したたかに酔っているようです。



●酔った道頼、少納言をからかう

 

 御簾内へ入ってきた道頼は、赤らんだ顔ながら、水も滴るような美形ぶりです。片方の肩に美しい女装束を掛けています。色気のありすぎる立ち姿ですね。


「管弦の遊びにお召しがあってね。いろいろな方々から盃を強いられた。ちょっときつかったな。みかどの御前で笛の役をお務めもうしあげ、この装束を賜ったよ。これは、あなたへのご褒美ね」

 やさしく言って、香を焚き染めた聴色ゆるしいろ※の衣を、北の方(姫君)の肩に掛けます。


「うふふ、何のご褒美なのでしょう」

 北の方は、されるがままに衣を肩に受け、笑います。


 道頼は少納言を認めて、

「おや? 中納言邸で見かけた人かな? ピンポン?」

「ピンポン」

 と北の方が微笑みます。

「どうしてここに? この世のものとは思えないほどに美しい交野かたのの少将、じゃなかった、弁の少将の話の続き、聞きたいなぁ」


 何の話?

 少納言は面喰ってしまいます。半年前に自分が言ったことなど、すっかり忘れているのです。ガチガチに緊張もしているので、記憶をたどるどころではありません。二条殿の主である三位の中将にまで、出仕初日に目通りがかなうとは、予想していなかったのでしょう。

 しかも、現れた中将は、まさにこの世のものとは思えない美形なのです。


「ふぅ。酔った、酔った。それに疲れたよ」

 道頼は北の方(姫君)を誘い、御帳台へ入っていくのでした。


聴色ゆるしいろ――対になる言葉は禁色きんじき。身分に関係なく、自由に着用できる色。淡い紅など。少しの染料で染めた絹地ですね。染料をふんだんに使った濃い色は贅沢品ですから、庶民が着るのはご法度というわけです。

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