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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
60/105

蔵人の少将は六月の花婿

●蔵人の少将、道頼の妹と結婚する


 新緑の季節も過ぎて、六月に入ります。

 中将道頼は、かなり強引に工作して、蔵人の少将と中の君(左大将家の次女、道頼の末妹)とを結婚させちゃいます。


 中納言邸の反応や、いかに?――当然ながら、られ死ぬばかり思ふ、の状態です。悔しくて悔しくて体じゅうの血が逆流して死にそう、って感じでしょうか。


 鬼ババ継母=北の方は、蔵人の少将が三の君と離別する以前に、面白の駒の婿取りを愚痴っていたことを思い起します。蔵人の少将にこちらを見限らせるために、中将が面白の駒を送りこんできたのだ、と気づくのでした。


「こうなったら、生霊になって中将に取りいてやりたい!」

 北の方は、両手の指を折れんばかりに強く組み合わせたり、よじったりするのでした。


 二条殿では、中将の北の方(姫君)が、中納言家の人々を気の毒に思っています。

「蔵人の少将殿を、あんなに大切に思ってお世話なさっていたのに。どれほどお辛い思いをされておいでかしら……」


 そのように同情する北の方(姫君)ですが、裁縫の腕を見こまれて、またも、蔵人の少将のための装束を用意することになりました。絹地の染色から裁断、仕立て、すべてを任されます。装束は露顕ところあらわしの席で、蔵人の少将へ贈られるのです。


 装束を仕立てていると、ふと、昔のことが思い出されます。

 同じ人の着る装束を縫いながら、父上の屋敷を離れたときのことが忘れられずにいる……と、思わず歌に詠んでしまいます。


 うえのきぬ下襲したがさねうえのはかまと、三つ揃いをきれいに縫い上げ、きちんとたたんで重ねて、左大将家へ送ります。姑のゴッドマザーは大喜びです。


 道頼も満足の笑みを浮かべます。

「すべて、思いどおりに運んでいるな」



●道頼、蔵人の少将を完全掌握する


 露顕の宴のあと、道頼は蔵人の少将と二人だけになり、盃を交わします。

「実は、中の君は、最初は不安だったようなんですよね」

「どうしてです?」

「少将殿には怖~い奥さんがいると。私も中納言家の三の君のことは気になりましたが、それでも、少将殿となんとしてもご縁を結びたいと思いましてね。私が乗り気になって、妹にあなたとの結婚を強く勧めたんです」

「そうだったんですか」

 蔵人の少将は、まんざらでもないようすです。


「それで、ですね。こうまで言っては出過ぎた真似と思われるかもしれませんが、三の君と妹とを、決して同列に考えていただきたくないんですよ。あなたのことを妹に強く推した私としては、そうお願いしたいんです」

 万事に抜かりない道頼、いろいろな押さえの手を打ってきますね。


「なんと、なんと。そこまでおっしゃってくださるとは、こちらが恐縮してしまいます。お誓いいたしますよ。中納言家の三の君には文も贈りません。ええ、もう何も贈りませんとも。正直なところ、私を婿にというご意向あり、とうかがってからは、左大将家の皆さまのことを頼りにお思いいたしておりましたのです」


 その言葉の通りに、蔵人の少将はもう三の君のことを見向きもしません。左大将家での待遇は中納言家でのそれを上回り、中の君のかわいらしさも三の君より格段に優っているのです。


 贈られた新たな装束を試着して、蔵人の少将はご満悦です。

「今さら、三の君と撚りを戻す理由がある?」と自問して、「ないよね~」と即答するのでした。



●少納言の転職

 

 そのころ。

 中納言邸に仕える女房の少納言は、転職を考えていました。

 同情を寄せていた可憐な姫君も、利発な女童のあこぎも、どこへ行ってしまったのか、中納言邸にはもういません。蔵人の少将という華のある婿君もなぜか通ってこなくなり、邸内にはどんよりした空気が漂うばかりです。


 中納言邸って、沈みゆくタイタニック?

 さっさと脱出するのが得策のようね、などと考えているとき、二条殿の噂を耳にします。


 三位の中将殿のお屋敷である二条殿では、気の利いた若い侍女たちを大勢召し抱えているようなのです。それも、破格の好待遇で、らしいのです。

 

「私も二条殿に出仕できたらいいのに。どこかに伝手つてはないかしら? とりあえず、履歴書、書いておこう」

 などと少納言が思っていると、弁の君という友人から文が届きます。


『前略。ね、転職しない? あたし、チーム二条殿の一員なの。ここでは有能な女房なら何人でも雇い入れたいようなのよ。少納言さんなら、文句無しに適格者よ。不肖弁の君、推薦人になりま~す』


「あら~、嬉しい!」

 というわけで、少納言は二条殿に出仕することになりました。三位の中将殿の北の方が、あの落窪の君だとは知りません。


 初出仕の日、少納言は、新参女房としてひさしの隅っこで遠慮がちにしています。北の方は御簾で隔てた母屋においでになるのです。


 まあ、あそこにいるのは少納言じゃなくて? 懐かしい!

 北の方(姫君)のほうが先に気づきます。

 けれども、今は三位の中将の北の方という身分を背負っています。新参者や客人とは、御簾越しに対面し、直接に話しかけることもできません。北の方は衛門あこぎを呼び寄せ、少納言にこのように伝えてね、と指示します。ちょっと、いえ、かなり面倒くさいですね。


 衛門、メッセンジャー役をおおせつかいます。

「ほかの人かと思いました。昔のご厚情は少しも忘れておりませんが、事情があって憚られることが多く、二条殿でこのように暮らしていると、ご連絡することもできませんでした。気がかりに思っていましたので、こうしてお会いできて本当に嬉しく思います。早く、私のそばへおいでくださいませ」


 少納言はびっくりして、顔を隠していた扇も取り落とし(顔を隠していたなら、北の方が気づいたのはどーゆーわけ?というツッコミは措くとして)、思わず膝行しっこう前進しちゃいます。いざって前へ出たのですね。


「どういうことですの? どなたがおっしゃっているのですか?」

 衛門が、くすっと笑います。

「少納言さん、私の顔を見忘れちゃいやですわ」

「あ……あこぎさん」


「今は衛門と申します。私がこうしてお仕えしているのですから、おわかりでしょう? 北の方さまは、かつて落窪の御方と呼ばれておいでなさったお方です」

「ええっ!」


「私も少納言さんと再会することができて、嬉しくてなりません。昔馴染みの方々がここには一人もいらっしゃらなくて、時間が断絶したように感じることもあったんです」


 少納言は涙を流さんばかりに喜びます。

「なんとまあ嬉しいこと! 私がお慕いしていた姫君がこちらにおいでになるのですね。姫君のことは忘れたことがございません。ずっと恋しく思っておりました。ああ、これは御仏みほとけのお導きにちがいありませんわね、きっと」


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