表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
56/105

少将道頼、中将に昇進する

三位さんみの中将


 年が改まりました。

 道頼の朝賀の装束は、染め色も美しく、すばらしく仕立てあがりました。

 その装束に身を包み、道頼は左大将家(実家)へ新年のあいさつに参上します。


「どうですか? オートクチュールです」

 道頼は母親の前でポーズをきめます。

「まあ、なんて見事なこと。姫君は裁縫が得意でいらっしゃるのね。内裏の女御殿が大事なお席でお召しになる装束など、お願いできそうね。丁寧にきれいに縫っていらっしゃるわ」

 母親はベタ褒めです。


 さて、新春の司召つかさめしの除目じもくで、少将道頼は三位さんみの中将(従三位の中将)となります。公達きんだち(本当の意味での貴族)の仲間入りです。帝のおぼえめでたし、ですね。


※司召しの除目は、単に司召しともいいます。京官の人事異動です。春には国司などを任じる県召あがためしの除目があり、司召しは秋、と説明されることが多いようですが、新春にも行われたことがわかりますね。いずれにしても、臨時の除目はちょくちょくあります。


※「三位の中将」は、中将だけれど三位ですよ、という意味です。ふつう、中将は四位相当官だからです。「三位の中将」は基本的に大臣の子息だけに与えられる特権的身分です。プリンス、って感じですね。

 

※平安時代の高位の身分は、おおざっぱに、公達きんだち(貴族中の貴族、三位以上と四位の参議)、諸大夫しょだいぶ(参議を除く四位と五位)、侍(六位以下)ですね。



●ドロ沼離婚!


 某月某日、某女性週刊誌の編集部。

 編集長と記者の会話。


「『蔵人の少将、左大将家の中の君に求婚!』――次号の大見出しは、これで決まりね」

「えっ、もう求婚したんですか? 中納言家の三の君、捨てられちゃうんですか?」

「どうもそんな感じよ」

「蔵人の少将と三の君はあんまりしっくりいってないと、噂されてましたけどね。でも、まだ新婚ですよね。早くも電撃離婚ですか……」


「小見出しはね、『蔵人の少将、中納言家を見限って左大将家へ鞍替えか』」

「左大将家では婿取るんでしょうかね、蔵人の少将を」

「その方向へ行きそうよ」


「左大将家といえば、大君おおいぎみが帝の女御という華麗なるファミリーですよね。中の君も、東宮とか親王とか、皇族狙いかと思ってたんですけどね」

「三位の中将が、妹御に、皇族以外から選ぶなら蔵人の少将がいいよ、見どころのある人物だよ、と猛プッシュしてるようなのよ」


 そうなのです。三位の中将道頼は、このごろ、妹(中の君、左大将家の次女)にこの縁談をしきりにすすめています。

 中納言の北の方が、蔵人の少将を特別扱いするために、自分の妻に裁縫テロを仕掛けて苦しめたのだと思うと腹立たしく、なんとしても蔵人の少将と三の君の仲を裂いてやりたい、と考えているのです。鬼です。


 道頼が蔵人の少将をめちゃ推ししてくるので、母親も乗り気になってきます。中の君(次女)にゴーサインを出します。

「蔵人の少将殿からのお文だけど。ときどきは、お返事をなさいな。ときどきで、いいですからね」


 ときどきでも返事がもらえるのは脈のある証拠とばかりに、蔵人の少将も押してきます。凝りに凝った和歌をAIに作らせて、毎日、朝昼晩と三通は贈ってきます。左大将家に婿入りできるなら、今度は三日夜餅を一ダースくらい一気食いしてやろう、なんて考えてます。はははっ、さすがにそりゃ無理だろう、窒息死するわ、とか、もうそのことばっかり。

 当然ながら、中納言家の三の君から心はどんどん離れていくのでした……。

(少将、頼みをかけて、三の君をただれにれゆく)


 蔵人の少将は、たまに三の君のところへ通ってきても、すぐに口喧嘩になってしまいます。


「前はさ、装束の仕立てがすばらしかったよね。このごろ、どうなってるわけ? 何なの、この歪んだ縫い目は? 下手くそな仕立てだね」


 文句をつけているうちに、さらにむしゃくしゃしてきて、縫いかけて衣桁にかけてある新しい装束も、床に投げ出してしまいます。


「おやめになって! あんまりですわ!」

「あんまりなのは、この装束のお粗末さじゃないか。裁縫上手だった人はどこへ行ってしまったんだ!」

「男ですわ。男ができて、出ていってしまいました」


「男ができた? そうじゃなくて、嫌気がさしたから、自分で出ていったんだろうさ。ちょっと気の利いた人間なら、もうこんな屋敷にはおさらばする、ってわけだ」


 売り言葉に買い言葉、三の君も、かっとなります。

「気の利かない人間だって、いなくなっちゃうんでしょうよ。あなたのようにね」

「ああ、そのとおりだね。――待てよ。面白の駒がいるじゃないか。あんなに素敵な人がこちらには参上なさっておいでだ。すばらしいじゃないか」


 たまの逢瀬なのに、蔵人の少将は嫌みばかりを言い散らして、帰っていくのです。

 三の君は悔しくてなりません。日々、嘆きは深まっていきます。溝は埋めようがありません。



●北の方、ノイローゼになる


 三の君の母親=中納言の北の方は、蔵人の少将が装束のことで文句をつけていたと聞いて、「落窪がいなくなったのが本当に痛手だよ」と歯ぎしりをします。


「かつては、自分はいい婿取りができて幸せだ、と思っていたのに。我が家の誉れだった蔵人の少将殿は、どこへおいでになるのか、こちらへはもう寄りつきもなさらない。すばらしい縁談だと信じて、急いで迎えた婿は大外れ。世間の笑いもの……」


 北の方は、ちょっとノイローゼぎみです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ