少将道頼、中将に昇進する
●三位の中将
年が改まりました。
道頼の朝賀の装束は、染め色も美しく、すばらしく仕立てあがりました。
その装束に身を包み、道頼は左大将家(実家)へ新年のあいさつに参上します。
「どうですか? オートクチュールです」
道頼は母親の前でポーズをきめます。
「まあ、なんて見事なこと。姫君は裁縫が得意でいらっしゃるのね。内裏の女御殿が大事なお席でお召しになる装束など、お願いできそうね。丁寧にきれいに縫っていらっしゃるわ」
母親はベタ褒めです。
さて、新春の司召しの除目で、少将道頼は三位の中将(従三位の中将)となります。公達(本当の意味での貴族)の仲間入りです。帝のおぼえめでたし、ですね。
※司召しの除目は、単に司召しともいいます。京官の人事異動です。春には国司などを任じる県召しの除目があり、司召しは秋、と説明されることが多いようですが、新春にも行われたことがわかりますね。いずれにしても、臨時の除目はちょくちょくあります。
※「三位の中将」は、中将だけれど三位ですよ、という意味です。ふつう、中将は四位相当官だからです。「三位の中将」は基本的に大臣の子息だけに与えられる特権的身分です。プリンス、って感じですね。
※平安時代の高位の身分は、おおざっぱに、公達(貴族中の貴族、三位以上と四位の参議)、諸大夫(参議を除く四位と五位)、侍(六位以下)ですね。
●ドロ沼離婚!
某月某日、某女性週刊誌の編集部。
編集長と記者の会話。
「『蔵人の少将、左大将家の中の君に求婚!』――次号の大見出しは、これで決まりね」
「えっ、もう求婚したんですか? 中納言家の三の君、捨てられちゃうんですか?」
「どうもそんな感じよ」
「蔵人の少将と三の君はあんまりしっくりいってないと、噂されてましたけどね。でも、まだ新婚ですよね。早くも電撃離婚ですか……」
「小見出しはね、『蔵人の少将、中納言家を見限って左大将家へ鞍替えか』」
「左大将家では婿取るんでしょうかね、蔵人の少将を」
「その方向へ行きそうよ」
「左大将家といえば、大君が帝の女御という華麗なるファミリーですよね。中の君も、東宮とか親王とか、皇族狙いかと思ってたんですけどね」
「三位の中将が、妹御に、皇族以外から選ぶなら蔵人の少将がいいよ、見どころのある人物だよ、と猛プッシュしてるようなのよ」
そうなのです。三位の中将道頼は、このごろ、妹(中の君、左大将家の次女)にこの縁談をしきりにすすめています。
中納言の北の方が、蔵人の少将を特別扱いするために、自分の妻に裁縫テロを仕掛けて苦しめたのだと思うと腹立たしく、なんとしても蔵人の少将と三の君の仲を裂いてやりたい、と考えているのです。鬼です。
道頼が蔵人の少将をめちゃ推ししてくるので、母親も乗り気になってきます。中の君(次女)にゴーサインを出します。
「蔵人の少将殿からのお文だけど。ときどきは、お返事をなさいな。ときどきで、いいですからね」
ときどきでも返事がもらえるのは脈のある証拠とばかりに、蔵人の少将も押してきます。凝りに凝った和歌をAIに作らせて、毎日、朝昼晩と三通は贈ってきます。左大将家に婿入りできるなら、今度は三日夜餅を一ダースくらい一気食いしてやろう、なんて考えてます。はははっ、さすがにそりゃ無理だろう、窒息死するわ、とか、もうそのことばっかり。
当然ながら、中納言家の三の君から心はどんどん離れていくのでした……。
(少将、頼みをかけて、三の君をただ離れに離れゆく)
蔵人の少将は、たまに三の君のところへ通ってきても、すぐに口喧嘩になってしまいます。
「前はさ、装束の仕立てがすばらしかったよね。このごろ、どうなってるわけ? 何なの、この歪んだ縫い目は? 下手くそな仕立てだね」
文句をつけているうちに、さらにむしゃくしゃしてきて、縫いかけて衣桁にかけてある新しい装束も、床に投げ出してしまいます。
「おやめになって! あんまりですわ!」
「あんまりなのは、この装束のお粗末さじゃないか。裁縫上手だった人はどこへ行ってしまったんだ!」
「男ですわ。男ができて、出ていってしまいました」
「男ができた? そうじゃなくて、嫌気がさしたから、自分で出ていったんだろうさ。ちょっと気の利いた人間なら、もうこんな屋敷にはおさらばする、ってわけだ」
売り言葉に買い言葉、三の君も、かっとなります。
「気の利かない人間だって、いなくなっちゃうんでしょうよ。あなたのようにね」
「ああ、そのとおりだね。――待てよ。面白の駒がいるじゃないか。あんなに素敵な人がこちらには参上なさっておいでだ。すばらしいじゃないか」
たまの逢瀬なのに、蔵人の少将は嫌みばかりを言い散らして、帰っていくのです。
三の君は悔しくてなりません。日々、嘆きは深まっていきます。溝は埋めようがありません。
●北の方、ノイローゼになる
三の君の母親=中納言の北の方は、蔵人の少将が装束のことで文句をつけていたと聞いて、「落窪がいなくなったのが本当に痛手だよ」と歯ぎしりをします。
「かつては、自分はいい婿取りができて幸せだ、と思っていたのに。我が家の誉れだった蔵人の少将殿は、どこへおいでになるのか、こちらへはもう寄りつきもなさらない。すばらしい縁談だと信じて、急いで迎えた婿は大外れ。世間の笑いもの……」
北の方は、ちょっとノイローゼぎみです。




