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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
55/105

蔵人の少将、中納言家を見限る

●蔵人の少将、離婚を考える


 殿上に出入りする若い貴族たちが、いやみたっぷりな冗談で、蔵人の少将をからかうようになります。

「面白の駒、どうしてる? 新年には少将殿が手綱を引いて、白馬あおうま節会せちえ※に出したらいいんじゃないか? 中納言殿は、蔵人の少将殿とあいつと、どっちを大切になさってるの?」


「悪趣味なことを申される。聞かなかったことにいたそう」

 蔵人の少将は冷静を装いますが、こめかみがピクピクしてしまいます。どんなことであれ、他人からの揶揄には敏感な蔵人の少将なのです。


 内裏から退出し、牛車に揺られながら、蔵人の少将はあれこれ考えます。

 三の君、か……。

 さほど心惹かれる相手でもなかった。

 だけど、中納言家では、みごとな装束を仕立ててくれるし、いつでもサウナを利用できるし、飯もうまい。ビールはいつも冷えてるし。蔵人の少将殿、蔵人の少将殿と、下へも置かない扱いをしてもらえる。そういうおいしいところがあるから、通っていたけど――もういいよね。


 蔵人の少将は、面白の駒の件を口実に、三の君と離別しようと決めて(これにことつけて、捨てむと思ひなりて)、足繁く通うことをやめてしまいます。一日おきになり、三日に一度になり……。夜離よがれ※です。

 三の君は思い悩みます。


白馬あおうまの節会――正月七日、みかどが紫宸殿で白馬をご覧になり、群臣と宴を催します。青みがかった黒馬(鴨の羽の色とか)が邪気を払うという中国の故事によるもの。醍醐天皇の御代あたりから、「白馬のほうが有難みがあるかも」と考えられたのか、白馬や葦毛馬へシフトしていきます。アオウマという読みだけが残りました。


夜離よがれ――婿が三日通って成立する結婚は、婿が通ってこなくなれば自動的に離婚となります。



●花盛りの二条殿


 さて。

 二条殿は日ごとに、新婚家庭の理想形になりつつあります。

 姫君、少将道頼に溺愛されてます。


 道頼は姫君に微笑みかけ、

「侍女は何人でも召し抱えたらいいよ。女房が大勢いれば、雰囲気が華やかになって、世間でも評判になると思うよ」

「でも、あまり大勢いても――」

 あこぎ改め衛門が、道頼の目配せに気づきます。

「姫君、ややこがお生まれになったら、人手はいくらでもいりますわ」

「やや、だなんて……」

 姫君、真っ赤になってもじもじします。←←こればっかや。


 というわけで、すでに仕えていた女房たちが縁者や知己を引っ張ってきます。

「あたくしの従妹で~す。バイリンガルなんですよ」

「私の十年来の親友です。京都検定一級、持ってます」

「元カレの妹なんです。性格、いいんですよ。真面目です」

「幼なじみです。無口ですけど、古今和歌集ぜ~んぶ暗記してるんですよ、この人。すごくないですか?」

 

 侍女の数、あっというまに二十数人。

 少将も姫君も心穏やかでやさしいお方なので、侍女たちはみな、ゆったりと落ち着いてお仕えしています。


 二条殿に参上するときも里下がりするときも、侍女たちはおしゃれに気を遣います。流行を取り入れて、なおかつ、ワンランク上のコーディネーションを心がけています。華やかです。雅びやかです。真冬でも花盛りの二条殿です。

 今、花々の筆頭に立つのが、衛門です。

 

 その衛門に、夫である帯刀が面白の駒の一件を話します。

「ウチの殿が替え玉を送りこみなさったんだ。四の君の婿さんとして」

「誰が替え玉なの?」

「面白の駒って、ちょーブサイク男。和歌も詠めない間抜け野郎さ。そいつを婿さんと思いこんで、中納言家では露顕まで催したんだとさ。もう引っ込みがつかないな」


 衛門は昨日のことをふりかえります。

 鬼ババ北の方と同じ身分になりたい、同じ身分になって仕返ししてやりたい。そう強く願ったっけ。

 その願いが叶ったのね。

 やったぁ!


 けれども、この夜の衛門は、ガッツポーズは控えることにします。今は、女房筆頭ですから。キリッ!

「ほほほ。お気の毒なことねぇ。北の方さまはどれほどお嘆きでしょう。北の方さまから八つ当たりされている人も大勢いるでしょうねぇ、きっと。逆の意味で、祭り、かしらん」



●二条殿の年の瀬


 年の瀬です。

 少将道頼の母親=ゴッドマザーから姫君へ、手紙と贈り物が届きます。


『少将の新年の装束を早めにご用意くださいね。私のほうでは、女御のお世話で手一杯なのです』

 道頼の妹が帝の女御なので、後見役の実家は、そちらの装束の支度で忙しいのですね。


 贈り物は、美しい絹地、絹糸、綾織物、それに茜、蘇芳すおうくれないなどの染料※でした。どれもたくさんあります。


「まあ、嬉しい!」

 裁縫の得意な姫君は大喜びで、侍女たちに、先ずは絹地の染めを急がせます。


 前後して、地方の有力者で、少将道頼の口利きで右馬允うまのじょう※の肩書を得た人が、絹地五十疋を献上してきます。

「衛門、これはそなたに任せる」

 道頼からそう言われて、衛門は絹地を侍女たちに分け与えます。


 道頼は姫君の肩を抱き寄せ、ささやきます。

「衛門は大したものだね。侍女たちの序列に応じて、絹をうまく配分しているじゃないか。安心して何でも任せられるな」

「さすが女房筆頭、ですわね」


※染料――それぞれの家では装束を仕立てるだけでなく、染色から行っていました。染色の出来不出来も、その家の女主おんなあるじの評価につながります。


※右馬允――左右ある馬寮の三等官。七位相当の職です。七位あたりでは、もう刺身の妻かサンドイッチに添えられるパセリって感じですが、地方の成り上がり者にとっては勲章なのですね。荘園を切り拓いて資産を築いた富豪は、貴族に取り入って官位を買うのです。



 さて、『落窪物語』の作者は、この段で初めて、少将道頼の両親やきょうだいについて触れています。次のように――


 二条殿は、左大将(道頼の父親)※の北の方(道頼の母親)が所有している邸宅です。


 北の方は左大将とのあいだに三男二女をもうけています。

 太郎君(長男)が少将道頼です。

 二郎君(次男)は帝の侍従※で、今のところ管弦の遊びに熱中しています。

 三郎君(三男)は、童殿上わらわてんじょう※をゆるされています。

 大君おおいぎみ(長女)は帝の女御です。

 中のなかのきみ(次女)についての説明はここにはありませんが、次の次の段に登場します。


 左大将は、長男の道頼を幼いころから溺愛といっていいほどにかわいがってきたのですが、その道頼は世間の人から褒められ、帝からも信任を得ています。長男は立派に育ってくれた。信頼していい。というわけで、今、道頼が何をしようと、左大将が口をはさむことはなさそうです。


 少将道頼のこととなると、左大将が柔和な笑みを見せるので、左大将家に仕える人々は、雑色や牛飼童にいたるまで、誰もが道頼を慕い、その意に沿うようにと心がけるのでした。


 なんとも理想的なファミリー、道頼の完璧な立ち位置であることよ、と感動&感心してしまいますね。


※左大将(道頼の父親)――娘が女御宣下を受けているので大臣と思われます。この時点で左大将を兼任する内大臣でしょうか。この父親も最終的には太政大臣へと昇りつめていきます。


※侍従――帝の側近、秘書。この物語が書かれた平安中期には、その実質的な職務のほとんどは蔵人へ移っていて、名誉職化しています。貴族にはとにかく肩書が必要なので、律令以来、形骸化していてもポストは残っているわけです。


※童殿上――元服前の貴族の子弟が、宮中の作法見習いのために昇殿をゆるされて、帝の側近として奉仕すること。



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