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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
53/105

替え玉結婚、第三夜

●披露宴に現れたのは?


 新婚の三日目の夜です。

 この夜にも婿が通ってくれば、結婚成立です。


 四の君の婿取りは、親がお膳立てをした正式なものですから、中納言家では露顕ところあらわしという披露宴の準備に入ります。

 三の君の婿である蔵人の少将まで、テーブルセッティングの陣頭指揮に立ちます。審美眼の男ですからね。


「その州浜台すはまだい(州浜をかたどった飾り置物)は真ん中へ。その横へ雉肉と鹿肉の盛り合わせ。そうそう。あわびはそこへ。果物はこのあたりかな。酒の甕は、どーんと、そこへ据えて」


 婿の供人ともびととしてやってくる従者や、雑色ぞうしきや牛飼童といった末端の郎等にも、それぞれの待機所にごちそうとお酒が用意されます。


 邸内のいたるところに、あかりがあかあかと灯されました。

 中納言は、支度が整ったばかりの母屋へ早々とやってきて、腰をおろします。四の君の婿に、早くからここでお待ち申し上げておりました、という姿勢を見せたいのです。婿は左大将の子息、帝の覚えめでたい左近の少将なのですから。


 蔵人の少将をはじめとした三人の婿たちや、息子たち、伯父や叔父たちなども祝いの席に着きます。

 露顕は、新郎と新婦側の男性親族のあいさつの場であり、女性は参加しません。女性たちは、配膳などで宴席に侍する侍女たちから、宴のようすを聞くことができます。

 

「婿君がおいでです」

 古参の女房が伝えにきましまた。

「どういたしましょう? 三日夜みかよのお餅を先にめしあがっていただきましょうか?」


「ま、餅はあとでもよかろう。こちらへご案内もうしあげよ」

「かしこまりました」

 と、女房が下がったかと思う間もなく――


 兵部の少輔がひょこひょこっと入ってきて、上座にすとんと腰を落ち着けてしまいます。何のあいさつも無しに、です。


 宴席の一同、唖然、呆然です。


 明々とした灯りのもと、痩せてちんちくりんで、ひょろ~んと首の長い若い男が座っているではありませんか。顔は白粉おしろいをはたいたみたいに白く、その真んなかにくっついた驚くばかりに大きな鼻をふくらませて、そっくり返っているのです。


 左近の少将?

 な、わけはない。

 人々はこの珍客の正体に気づきます。

 え? 面白の駒……兵部の少輔じゃないか!


 あちこちから笑いが漏れます。

 蔵人の少将は、笑うときは思いっきり笑います。男は豪快に笑ったほうがかっこいいよね、と思っているのかもしれませんが、とにかく遠慮しようとは思わないようです。

「誰かと思ったら、面白の駒とは!」

 笑いの発作のスイッチが入ってしまったらしく、体を揺すって、扇で床をぱしぱし叩きます。

 そのうち、馬と相席はご免被ると言って、座を外してしまいます。


 内裏の殿上の間でも、兵部の少輔が現れると、「面白の駒がうまやから逃げ出して来たぞ」と、人々は物笑いのたねにしていたのでした。


 蔵人の少将は、ひさしの女房溜まりのあたりに隠れて、やはり宴席から退散してきた相婿たちと笑い合っています。

「どうなってるんだ、これ? ギミアブレイク……」

 


●中納言と北の方、頭を抱える


 中納言は驚きのあまり言葉を失います。

 誰かに謀られたのだな。

 だが、誰に?

 どこのどいつが仕組んだんだ!

 ダメ親父の中納言、腹立たしくてなりません。

 けれども、宴席には親族たちも居並んでいます。ブチ切れたいのをぐっとこらえて、兵部の少輔に声をかけます。


「まったく思いがけないこと。どういうわけで、そなたがここにおいでなさる?」

「むぅ……どういうわけ……それはですね」


 兵部の少輔は、少将道頼から教えられた例の長台詞を披露します。いつもながらの間延びした口調ながら、練習を重ねたので、伝えるべきポイントだけは落としません。

「というわけでぇ、婿として参上いたしました。むふっむふっ」


 謀られたのだ。

 今さら何を言っても無駄なのだ。

 中納言は「婿」と盃を交わすことなく、宴席を離れます。


 兵部の少輔の供人ともびとたちは、自分たちの主人が笑いものにされているなんて知りません。侍所さむらいどころや車宿りなどで、用意されていたごちそうをたらふく食べ、お酒をぐびぐび飲んで、どんちゃん騒ぎです。

「ウッチの大将が婿さんだぁ! 中納言家の婿さんだぁ! めでたや、めでたやぁ」


 しっらーーーーーっ。

 宴席には、婿一人を残して、もう誰もいません。

「むぅ……」

 いたたまれなくなって、兵部の少輔もその場を離れます。でも、帰宅する気なんかさらさらなくて――だって婿さんだもんね、私は――四の君の部屋へ入っていくのでした。


 中納言は頭を抱えています。

 話を聞かされた北の方も、衝撃のあまり、頭がぼーっとしてしまいます。

「兵部の少輔……面白の駒が婿……」


 四の君はすでに御帳台の中でやすんでいました。

 宴席で何が起きたかは、女房たちから聞いています。兵部の少輔が「婿として参上のいきさつ」を間抜けな口調で説明したことも、聞かされたのでした。

「私の人生、どうなっちゃうの……?」

 泣きべそをかいているところへ、


「わんばんこ、な~んちゃって、むふっ」

 げっ! 

 兵部の少輔が御帳台へ入ってきちゃいました。

 四の君、逃げられません。

 女房たちは、うわぁ……姫君、お気の毒……と目をそらします。


「えっと、三日夜餅とか、いただかなくてもよいのかな? むぅ?」

 知らんがな! 

 泣き崩れる四の君でした。

「ど、どうされた?」

 兵部の少輔はおろおろしてしまいます。

 とはいえ、おろおろしながらも、今夜もしっかり、いたすのでした。


 中納言邸の誰も彼もが嘆きの一夜を過ごし、夜が明けます。

 兵部の少輔は、新婚四日目からは堂々と泊っていいんだっけ、と思い、朝寝をつづけるのでした。

 

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