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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
52/105

替え玉結婚、第二夜

●四の君、固まる


 婿君からの後朝の文が届いた!

 中納言邸では、使者から文を受け取った女房が、袴の裾をばさばさいわせて、四の君の部屋へと渡っていきます。

 使者は兵部の少輔から遣わされてきたのに、左近の少将から、と思いこんでいるのです。

 

「姫君! 婿君からのお文ですよ!」

 四の君は扇で顔を隠しています。嬉し恥ずかし、の気分なのです。なにせ、乙女が殿方と初めて契った、その翌朝なのです。


 北の方がやってきます。

「開封なさいな、早く!」

 おせっかいをやきます。


 四の君、文を一読して、固まっちゃいます。


「ご筆跡はどうなのかしらね」

 などと言いながら、北の方が娘の手元を覗きこみます。

 四の君は、恥ずかしさのあまり、ショック死しそうになります。

 

「あら……」

 北の方も、軽~く、眩暈を起こしそうになります。

 ほかの婿殿たちが贈ってきた後朝の文と、あまりにも違うじゃないの。


 そこへ、今度は中納言がやってきます。

「婿殿から文が届いたんだって? どれどれ、私にもちょっと見せておくれ」

 高齢のせいか、挙措がちょっと野生のチンパンジー化していて、娘の手から文をひったくるように取り上げます。そのくせ、哀しいかな老眼のせいで、文を顔に近づけても遠く離してみても、文字が読み取れません。


「えらく薄墨だな。色好みは薄墨で文を書くのか。ちょっと読んでくれんか」

 北の方は、夫の手から文をさっと取り返します。蔵人の少将(三の君の婿)がかつて贈ってきた後朝の文を記憶していたので、それを口にします。

「昨夜の今朝なのに早く逢いたくて逢いたくて待ちきれない、と書き添えてありますわ」


「ほほう。さすがに色好み、風流人の婿殿よのぉ。後朝の文の書き方をよく心得ておられる。早く、婿殿を喜ばせるようなお返事を書きなされ」

 いや結構なこと、結構なこと、などとつぶやきながら、中納言は居間へ戻っていきます。 


 四の君はいたたまれず、完全脱力の状態で、ただ脇息にもたれかかるのみ、です。



●ワケがわからないままに


 三の君が妻戸からちょっと顔をのぞかせます。妹に後朝の文が届いたと聞いて、興味津々でやってきたのでした。


 北の方は、目配せして、三の君をひさしの隅へいざないます。文を見せながら、小声で話しかけます。

「ちょっと、これ、どう思う? 四の君の婿殿は、どうしてこんな文をくださったんだろう……?」


 三の君も文の内容に目をみはります。扇で口元を隠して、

「仮に、仮にですけど、婿君が四の君を気に入らなかったんだとしても、わざわざ文字にするでしょうか? そんなの、ありえませんわ」

「ないよねぇ、ふつうは」


「ありきたりに『今日は恋し』とか書いたんじゃ、古臭いとお思いになったのかしら。ちょっと変わった趣向で、とお考えになった、とか? でも……わけがわかりませんわね、やっぱり」


「ちょっと変わった趣向、ね。それよ、きっと。色好みの風流人てのは、奇抜なことをなさるものなのよ」

 腑に落ちないと思いつつも、とりあえず自分を納得させてみる北の方でした。


「さあさあ、早くお返事をお書きなさい」

 北の方は四の君をせっつきます。

 けれども、四の君には、母親と姉が「この文、やばくない?」などと額を合わせてひそひそ話しているのが聞こえていたのです。今や、脇息にもたれて起きている気力も失せ、ばったり倒れ込んでしまいます。


「しょうがない……私が書くしかなさそうね」

 北の方は、ふだんは女童にさせるのですが、自分で墨をがりがり磨って、筆を手にします。


『あなたさまが、腰の曲がったご老人のように、恋のしかたもわからない、後朝といつもの朝との区別もつかない、なんてことはございませんですわよね? あなたさまはとてもお若いはずですもの。甘いお歌を期待していた娘は落胆しております』


 なんだか妙ちきりんだわ、と思いながらも、北の方は、文使ふみづかいに作法通りのかずけ物※を与えて帰します。


※作法通りの被け物――結婚の後朝きぬぎぬという吉例なので、通常より豪華な品を禄として与えます。女装束一重ねのほかに、織物のうちき細長ほそながを添えたりしたようです。



●替え玉結婚、第二夜


 二日目です。

 日が暮れるのを待ちかねたように、早々と、兵部の少輔が通ってきます。

 

「婿君のお出迎えを!」

 北の方は晴れ晴れとした声で侍女たちを促します。

「四の君を気に入っておいででなければ、こんなに早くお見えにならないはず。今朝の後朝は、やはり、ちょっと変わった趣向でお詠みなったお歌だったんだ」


 母親は勝手に納得して上機嫌ですが、四の君は心弾みません。後朝の文で恥をかかされたことを引きずっています。当然ですよね。

 けれど、幼い姫君には、すでに走りはじめている「結婚」というトロッコから降りる術がわからず、この夜も寝所で婿と二人きりになります。


 室内は真っ暗です。

「ゆ、昨夜、す、すごく、すごくよかった……です。むふっ。ひ、姫君もよかったですか? あ、なんか変なこと言っちゃってる、っぽい……ぽいですかね……ぽいかも……むぅ」

 婿さんが話しかけます。

 四の君をぞっとさせます。


 なんなの、このジステンパーに罹ったいたちみたいな声は? 寝ぼけた四歳児みたいなしゃべりかたは?

 

 四の君は、義兄である蔵人の少将が澄んだテノールで要領よく話すのと思い比べて、自分の婿は人間ですらなくて、しゃべる鼬かむじななのではないか、などと本気で思いはじめています。


「ひ、姫君――」

 婿さんはどんくさい動作で姫君に身を寄せてきますが、うっかり、姫君の長い髪を自分の膝で踏みつけてしまいます。

「髪っ! 髪が」

「髪?」

「引っ張らないで」

「引っ張ってなど――」

「踏んでるのっ」

「あ……す、すいません」


 もうやだ。

 こんな奴、こっちから願いさげだわ、と思う四の君です。


 今日は日暮れるとすぐにやってきた兵部の少輔です。いたすことをいたしてしまうと、会話で甘いムードをつなげるなんて芸当はできないので、まだ丑の刻(午前二時前後)にもなっていませんが、帰ることにします。



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