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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
51/105

替え玉結婚、第一夜

●面白の駒、中納言邸へ


 十二月五日。

 結婚の当日です。婿を迎え入れる中納言邸では、四の君の部屋をきれいに飾ります。屏風や几帳を用意し、装飾として衣架いか(=衣紋竹)に美しい女装束をかけておきます。


「ルームプラネタリウムなんかも、あったらよかったけど。ロマンチックなムードを演出してくれるわよね」

 侍女の一人が言います。

「でも、流れ星が流れたりすると、気が散るんじゃない?」

 別の侍女は懐疑的です。

「そっか。じゃ、今夜のところは没ね」


 少将道頼は兵部の少輔(面白の駒)へ、念押しの文を送ります。

『今夜だからね。中納言邸へはいぬの刻ごろ(八時前後)に出かけるといいよ』


 そして、夜。

 治部卿も道頼から今夜のことは聞いていたのでしょう、息子にきちんとした身なりをさせ、送り出します。

 兵部の少輔は、右手と右足、左手と左足を同時に前に出しながら、牛車に乗り込みます。

「父上、行ってまいりま~す」

 年老いた家司けいしは涙ぐんでいます。

「ウチのんが婿入りする日が来ようとは。嬉しや」


 さて、中納言邸では――

 四の君の侍女たちは、四の君の髪の手入れや化粧や衣装替えをすませると、自分たちも一張羅を着こみ、めかしこんで、婿さんの到着を待ちます。


「おいでになりました!」

 車宿りから女童が駆けてきます。

 それっ、とばかりに、侍女たちは御帳台みちょうだい(天井付きカーテン付きの畳ベッド)の陰に隠れます。



●勘違い


 牛車から降りた兵部の少輔は、今夜にかぎってはドジな真似もせず、軽い身ごなしで御簾のなかへ入ります。――え? いや、できすぎでしょ、って感じです。

 

 室内は薄暗いし、一瞬のことでもあり、やってきたのは左近の少将だという先入観もあったからでしょうか、侍女たちは盛大なる勘違いをしてくれちゃいます。

 まあ、兵部の少輔は小柄で細身ではあります。顔は見えなくて、細い体の線だけが見えたのですね。ほっそりと上品な感じだわ、素敵な殿方と噂されているだけのことはある婿君だわ、と感じ入ってしまったのです。


 女性の感性では、デブってなければ上品、となるのは致し方ないのかもしれません。

 

 侍女たちは四の君の部屋から、そーっと退出します。興奮ぎみです。

「感じがよかったわ」

「ほっそりしていらっしゃったわ」

「ぞくっとするくらい、優雅な雰囲気がおありで」


 侍女たちの勘違いコメントを耳にした北の方は、悦に入ります。

「最高の婿を迎えたわ。私にはつきがあるってことかねぇ。どの娘にも理想的な婿を迎えることができた。この少将は大臣おとどの位にものぼると噂されてるし」


 おとど、おとど、と北の方がどや顔でまくしたてるので、周囲の人たちも、さようでございますね、と同調するのでした。


 夜が明けます。

 面白の駒とあだ名される兵部の少輔は、帰っていきます。

 …………。



●後朝の文


 昨夜はどうなったんだろう?

 少将道頼はあれこれ想像して、おかしくてたまりません。姫君に話さずにはいられません。

「中納言殿は、昨夜、婿をお迎えになったとか」

「婿君? どなたですの?」

「治部卿――ウチの親類なんだけど――その人の秘蔵っ子でね。兵部の少輔という美青年。鼻が立派なんだ」

「鼻が立派?」

「会えば、わかるよ」


 おっと、次の指示を出さないと。

 道頼は侍所さむらいどころ(従者たちの詰所)へ行って、兵部の少輔宛てに文をしたためます。自室で書かなかったのは、姫君に見られては困るからでしょうか。


『昨夜はどうだったかな? 野暮なこと聞いて、ゴメン。ところで、後朝の文は贈った? まだだったら、こんなふうに書いたらいいよ。すごくお洒落しゃれな歌だと思うんだ。


(世の人の今日けふ今朝けさには恋すとか聞きしにたがふ心地こそすれ)


 世間では、ある人と初めて契り交わした後朝きぬぎぬには、その人のことが恋しくてならないとか聞きますが、そんな気持ちにぜんぜんなりません』


 兵部の少輔は、後朝の和歌をひねりだすのに四苦八苦していたところでした。そこへ道頼からの文が届いたのです。

「ラッキー!」


 恋すとか聞きしに、とか、心地こそすれ、とかいった部分だけを見て、受験のためにいやいや古文を習う現代の高校生のように、これって和歌だよね、みやびだよね、ほんと洒落てるわ~、と思いこんでしまったようです。まんま、書き写して、四の君へ贈っちゃいます。


 兵部の少輔は道頼へ返事を書きます。

『昨夜は思いが叶いました。やったぜベイビィ♪って感じ。彼女にも誰にも笑われずにすんだので、すごく嬉しくてね。詳しいことは、会って話すね。後朝の文はまだ贈ってなかったんで、教えてもらったやつを書いて贈ったよ』



●道頼、帯刀に替え玉の件を話す


 さすがに道頼は、四の君が気の毒になります。

 が、それも一瞬のことでした。

 姫君が受けた非道への報復だ。

 復讐するは我にあり、だ。

 だけど……まあ、そうだな……中納言家を徹底的に傷めつけてやった後には、四の君には何かのかたちで報いてさしあげよう。


 姫君は、夫が復讐計画を進めていることに、胸を痛めています。姫君の表情を見れば、それは道頼にもわかることなのでした。

 なので、自分が替え玉を送りこんだことだけは、黙っています。中納言家が、結婚を辞退した道頼の代わりに、道頼の遠縁を婿取っただけ、ということにしておくのです。


 もっとも、以前にも替え玉云々は話題にのぼっているのですから、姫君が、やはり夫が仕組んだのだろうか、と怪しまないのは変ですけれどね。


 姫君の苦悩を気にする道頼ですが、兵部の少輔=面白の駒が予想以上の《《仕事》》をしてくれたのには、笑いをこらえることができません。自分が仕組んだことのすべてを、帯刀にだけは明かさずにはいられませんでした。


「やってくださいましたね! 嬉しゅうございます!」

 帯刀は大喜びです。ガッツポーズが出ます。

 道頼と帯刀、二人して、チャゲアスのYAH YAH YAH©を歌い上げちゃいます。

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