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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
50/105

引きこもりニート②

●用意された台詞


「いや、でも……。中納言家では、私じゃ不本意だって言うと思うな。笑われて相手になんかされないよ、私なんか」

 そう言った兵部の少輔の表情はかたくななもので、強い自尊心がうかがえます。


 このご面相でも自尊心ってやつがあるのか、などと道頼は内心、笑ってしまいます。

 が、そんなそぶりは毛ほども見せずに、

「笑われたりは、しないって」

「だけど、中納言家では少将殿を婿取るつもりでいるわけでしょ?」


「つもり、なんて気にしなさんな。君が言うべき台詞を用意したから――『四の君には私が、この秋から、人目を忍んで通っていたのに、少将殿を婿に迎えなさると聞きました。寝耳に水です。少将殿は縁戚です。どうなってるのよ、なんでそっちが四の君とゴールインするわけ?と恨みごとを言いました。そうしたら、少将殿はこう言ってくれたのです。君が恨むのも当然だよね、私が婿になるわけにはいかないよね、と』」

「…………」


「『少将殿は、さらに、こうも言ってくれました。中納言殿は、兵部の少輔殿が先に通っていたとはご存じないから、私が婚姻を辞退したら、別の誰かを婿取ってしまわれるかも。そうなったら、兵部の少輔殿一人が泣きをみることになる。ここはひとつ、四の君とはすでに契り交わした仲なのですと、カミングアウトすべきでしょう、と。――このようないきさつがあって、私は婿として参上したのです』」


「そんな長台詞、言えない。てか、憶えられない。無理」

「無理じゃないよ。特訓するから」

 その場で十回、道頼は同じ台詞を言って聞かせます。


「このとおりに説明すれば、向こうはガタガタ文句なんか言いっこないって。笑われたりもしないよ。そうしてね、連日通っていけば、四の君も憎からず思ってくれるようになるって」


「に、にくからず……むぅ、むぅ、むふっ」

「うん。だいじょぶ、だいじょぶ。ええっと、とにかく明後日だから。日が暮れて、あたりが真っ暗になってから、出かけていくといいよ。――いい? 真っ暗になってからだよ」

 などと言いおいて、道頼は治部卿邸をあとにします。

 

 四の君を泣かせることになるかなぁ、と胸がチクっと痛みましたが、中納言の北の方の顔を思い浮かべると、小さな痛みなど雲散霧消するのでした。



●道頼、怒りをあらたにする


 道頼は二条殿へ戻ります。

 雪が降っています。


 姫君が火桶の灰に火箸で何か書いています。

『もし私があのまま死んでしまっていたら……』

 

 道頼は、はっとして、自分も灰に書きます。

『あなたへの愛を伝えるすべも失って、私は恋に身を焼き焦がしていたことでしょう』


 そうなのだ、と道頼はあらためて思います。

 姫君はあの継母に殺されてしまうところだったのだ。

 もう少しで、姫君と自分は悲劇にのみこまれてしまうところだったのだ。

 中納言の北の方、あの鬼ババの罪、許されようか?

 

 怒りを新たにし、道頼は姫君をしっかりと抱き寄せます。

 愛し合います。長く、激しく(おそらく)。


※この段は、二人が他愛なく連歌のやりとりをするという体裁になっていますが、作者がこの段をここに置いた意味、連歌の内容、それぞれ、物語の展開において重要な意味を持っていると思われます。道頼が周到な復讐を仕掛けることの理由付け、ですね。



*****


 今や、道頼が鬼になりつつあります。

 もともとブスやブサイクには冷淡な道頼ですが、ブサイクな親類を自分の復讐の道具として利用するのです。


 利用される兵部の少輔ですが、「面白の駒」というあだ名が登場するのは、もっと先の段になります。


 面白の駒は、その特異な容貌が、残酷なまでに戯画化されて描写されます。『源氏物語』の末摘花の原型ですね。鼻が異様、という共通点があります。

 

 人間の容姿を徹底して残酷に描くことを紫式部が躊躇しなかったのは、この『落窪物語』という先行作品があったから、と思われます。


 フィクションの世界では何を表現しても自由なのだ――そのように紫式部に腹をくくらせたのは、まちがいなく、この物語なのだと思います。

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