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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
49/105

引きこもりニート①

●道頼、替え玉候補を思いつく


 十二月に入りました。

 息子と中納言家の末娘との結婚は、いよいよ明後日だわ……。

 少将道頼の母親は、二条殿に住む嫁の苦悩を思いやります。

 仲立ちをした侍女も念押ししてきます。

「明後日でございますよ」

「だいじょうぶ。中納言邸へ伺いますよ」

 と、道頼は返事をします。


 お楽しみはこれからさ♪

 道頼は愉快な気分でいます。遠縁にあたる兵部の少輔しょう※のことが頭にあります。自分の替え玉に仕立てるつもりなのです。

 

 道頼の母親の叔父に、治部卿※の肩書を持つ中流貴族がいます。偏屈で社交性もないご老人で、そのご老人の長男が兵部の少輔なのです。母親のうんと年若い従弟にあたります。


※治部卿――治部省の長官。五位以上の貴族の家督相続とか婚姻とか外交儀典とか、その他諸々を監督する、摂関期には重要度ダダ下がりの職掌。正四位下クラス。


※兵部の少輔――兵部省の三等官。これまた、摂関期にはほぼ名目だけの役所。その三等官は従五位下(貴族の最末端)クラス。「少輔」を「しょう」と読むのは、いつのまにか定着した慣わしですね。「しょうゆう」とも読みます。


 道頼は治部卿の屋敷を訪ねます。

 治部卿にあいさつをします。

「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。珍しくもございませんが、果物をお届けに参りました。母の名代です」

「それはそれは。かたじけない」


「兵部の少輔はどうしていますか?」

「部屋におります。人から笑われてバカにされるとひねくれて、宮仕えもせず※、引きこもっております」

 兵部の少輔は引きこもりニートのようです。


「少将殿、あれに声をかけて、引きこもりから立ち直らせてやってくださらんか。私にも経験があります。バカにされるといっても、一時のことです。宮仕えにも慣れてしまうものです」

 父親である治部卿、ちょいとばかり、わけのわからないことを言っていますね。自分も引きこもりの現役では?


 道頼は爽やかな笑顔を見せて、

「何かお役に立てるのでしたら、喜んで」


※宮仕えもせず――平安時代は(正確には、すでに律令のころから)、公卿の公(大臣)はさすがに別として、卿以下、末端の役人に至るまで、仕事というのはサボりたおすもの、という風潮が蔓延していました。大してお咎めも受けませんでした。


 

面白おもしろこま


「ノックしたよ~、入るよ~」

 道頼は兵部の少輔の部屋へ入っていきます。

 兵部の少輔は寝転がったままです。あたりには、エロ本やポテチの空き袋や丸めたティッシュなどが散らかっています。

 典型的なヒッキーニートってとこ? 道頼は苦笑します。


「おひさ~。起きろよ。ちょっと話があるんだ。お父上にはごあいさつをしてきたところ」

「む、む、むぅ、むう~~~ん」

 兵部の少輔は、思いっきり伸びをして、起き上がります。

「おひさ。ちょっと待って」


 兵部の少輔は、エロ本やゴミやその他をざざーとアバウトに部屋の隅へ押しやり、厠へ行って戻ってきます。


 道頼は、この部屋も、こんまりメソッド©で片づければすっきりするのに、などと思いつつ、

「毎日どうしてるの? ウチにも遊びにこないよね」

「女房たちに笑われたりするのが、いやなんだ。恥ずかしいよ……」

「気を遣う場所ならともかく、ウチならいいじゃないか。恥ずかしい、ってイミフだよ。ま、そんなことより。結婚、しないの?」

「む……むぅ……」


「一人前の男が独り寝って、さびし過ぎだろ」

「むぅ。そんなこと言ったってさぁ、結婚の世話してくれる人なんか、いないんだもん。ボッチ寝してるからって、べつに哀しくないし。哀しくないよ、うん」


「ボッチ寝に慣れちゃったからって、結婚しないわけ? 死ぬまでそれでいいの? 納得?」

「む、むぅ……。そりゃまあ、誰かが世話してくれたらいいな、してくれるんじゃないかな、って期待しないでもないよ」

 結婚の二文字にくいついてくるところをみると、兵部の少輔は真正の引きこもりタイプではないようです。単なる非モテですね。


 道頼、にっ、と笑います。

「あのさ。結婚のお世話、するよ。私が。すてきな女性がいるんだ」

「ほんと――!?」

 ぱあっと兵部の少輔の顔に笑みが広がります。


 兵部の少輔。肌が雪のように真っ白で、首がひょろ~んと長く、馬面うまづらです。その馬面のまんなかに、大きな鼻があぐらをかいているのです。ヒンといなないて、どこかへ駆けていってしまいそう……。


「嬉しくて、なんだかお腹のあたりがくすぐったい。うふふ。ど、ど、どちらのお嬢さんなの?」

「源中納言殿の四の君」

「うそー!」

「嘘じゃないって。実はね、先方じゃ、私との縁組を考えてたらしいんだけど、私には見捨てることのできない女性がいるのでね」


「見捨てることのできない女性、か。少将殿なら、そういう人、いるにきまってるよね、とっくに。――ところで、少将殿って、僕とか俺とかじゃなくて、私って言うよね、いつも」

「オトナの貴族だからね、一応」

 道頼、端正なマスクを、斜め45度の角度で見せつけます。

「だよね。これからは僕も、私って言おうっと」


※平安時代の一人称は、男女とも、ふつうは「まろ」です。ずびばせん(汗)。


「でね、私にはそういう女性がすでにいるので、四の君との縁談は君に譲ろうと思って。結婚の日取りは、明後日」

「あ、明後日!?」

「準備しておいて」


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