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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
43/105

姫君を救い出す②

●抱擁と熱い接吻


 中納言邸に男の従者たちはほとんど残っていません。中納言、蔵人の少将、北の方と二人の姫君、三方の警護要員として出払ってしまったからです。


 帯刀は下馬し、うるさい舎人どもがいないか、門※の外でしばらくようすを見ます。居残り組がいたとしても、主人は留守ですから、気を抜いているにちがいないのですが。

 帯刀は門の脇のくぐり戸※から邸のなかへ入ります。

 思ったとおりです。警備する舎人の姿はありません。


 帯刀はあこぎの部屋へ直行します。

「少将殿がおいでになった。女車に偽装した車で。どこへ寄せたらいい?」

「北側、北側! 姫君が閉じ込められておいでの部屋が、そっち側にあるの」


 帯刀は、首尾よく、道頼を乗せた女車を寝殿の北側へ誘導します。

 と、そのとき、男が一人出てきます。居残り組の一人ですね。

「ちょい、待て。誰の車や? お邸の方々がお留守にしておいでだっちゅうに」


 帯刀、涼しい顔で答えて、

「連絡不足かな? 新規採用された女房たちですよ」

 車副くるまぞい牛飼童うしかいわらわに目くばせして、女車をどんどん奥へ進めちゃいます。


 女房といえば、居残り組の女房たちもいたのですが、久々に口うるさい鬼ババから解放されたので、皆それぞれの曹司で昼寝したり、顔に泥パックしながらスポティファイⓇに聴き入ったりしているのでした。


 あこぎは北側の孫廂へ先回りしています。

 女車が廂の外側の簀子に横付けされます(牛車は簀子からじかに乗り降りできる構造になっています)。

「早くお降りになって! 早く!」


 ざばっ、と絹と簾を跳ね上げ、少将道頼登場!

 道頼、走ります。


 小部屋の前に立った道頼は、遣戸にさしてある鎖を目にして、吸った息を吐くのも一瞬忘れます。

「姫君はこんなところに閉じ込められて……!」

 胸が張り裂けそうです。

 鎖を捻ってみますが、もちろん、びくともしません。

「惟成、仕事だ!」


 道頼と帯刀、二人して、打ち立て※を叩き壊します。

 ゴンッ、ゴンッ、ガキッ、ガキッ、ガッキーン!

 ついに遣戸を引き開けます。


 姫君は、もう生きる気力も失せたのか、ぐったりしたようすで体を折り曲げています。

 ここはお二人だけにしよう。帯刀はその場から離れます。


「姫君!」

 道頼は姫君を抱きしめます。背中をさすり、頬ずりします。唇を重ねます。強く強く吸います。

 姫君はようやく意識を取り戻します。

 道頼は姫君をお姫さま抱っこして、急いで牛車に乗りこみます。



●おさらばするわ~♪


「あこぎ、そなたも乗れ! 早く!」

 道頼があこぎに声をかけます。

「は、はいっ。今すぐ」

 

 典薬助と姫君が男女の仲になった、などと北の方は思いこんだままでいる。そんなの、許せない!

 というわけで、あこぎは典薬助からの文を(原典ではなぜか二通あったことになっています)、部屋の入口に置いていくことにします。北の方がまちがいなく見つけるように、です。


 典薬助からの文には「今宵こそは、私に嬉しい思いをさせてたもれ」と書いてあるので、嬉しい思いはおあずけになっていると、北の方にもわかるはずですね。


「ざまあ♪」 

 姫君の櫛箱を手に提げ、にんまり笑って、あこぎは牛車に同乗します。


 ああ、牛車はさながら空を飛ぶようではありませんか。

 道頼、姫君、あこぎ、三人はもう泣き笑いするしかありません。

 車の半蔀を上げて外を見ると、騎馬で先導する帯刀の背中にも「大満足!」と書いてあるのでした。


※門――寝殿造りの敷地の外郭は築地塀で囲まれ、ふつう、東西に正門(富裕層なら四脚門)が設けられます。


※くぐり戸――原典では「帯刀、隠れより入りて」となっているので、目立たない所からこっそり入った、でしょうか。中納言邸ですから、築地塀の一部が崩れているとは考えにくいですね。門の脇に通用口としてのくぐり戸があると想定して、このように書いておきます。


※打ち立て――具体的にどのような物か、わかりません。金具にはまちがいないでしょう。さしてある鎖のストッパーの役目をする金具と思われます。頭部が環状の金具(つまり鎖の受け)と説明する研究者もおられます。それにしても、道頼と帯刀は金槌でも用意していたのでしょうか? たとえば刀の柄で、金具を叩き壊せますかね???

 

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