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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
40/105

代書屋あこぎ

●代書屋あこぎ


 あこぎは自室で、爺さんがよこしたラブレターを読みます。

 忙しくて朝食を食べそこなっていたので、読みながら塩むすびを頬張ります。


『おかわいそうに。一晩中お苦しみになったとは。これは典薬助めが悪い。私の運が悪い。そんな気がしてなりませぬ。

 我がいとしの君、かわいいお方よ。今宵こそは、私に嬉しい思いをさせてたもれ。

 あなたのおそば近くにいるだけで、私は寿命が延びて、気持ちも若返りそうです。むと鼻血が出そうになるだけの変な錠剤なぞ、もう不要です。

 ああ、我がいとしの君、いとしの君!

 世間じゃ私を老木と見ているでしょうが、いとしいあなたには、もういっぺん花を咲かせてご覧に入れましょうぞ。そうして、あなたとう~んと仲良くしちゃいましょう。

 どうか、この典薬助めを、冷たくおあしらいになりませぬように。

 熱いキッスを受けてたもれ♡ チュッ! チュッ! チュッ!』


 いや、これ、どうよ……。

「うっ」

 塩むすびがつかえて、あこぎは慌てて胸をトントンします。白湯で飲み下します。

 な~にが、嬉しい思いをさせてたもれ、よ。

 グレードワンの気味悪さね、と思いつつ、あこぎは筆を手にします。


『姫君はまだご気分がすぐれません。なので、ご自身ではお返事申しあげられません。不肖あこぎ、代筆させていただきます。

 すっかり枯れてしまって朽ち果てようとする老木に、嬉しい花なんかもう咲きっこないでしょ、と思います。

 個人的感想です。悪しからず』


 さすがに、これ、典薬助を怒らせちゃうかしら?

 と、一度は迷ったあこぎですが、

 ――ええい、かまうもんか!

 そのまま、返事を典薬助に渡します。


「ひょひょ~♪」

 典薬助、にっこにこ顔で受け取ります。


(腹立ちやせむと恐ろしけれど、おぼゆるままに取らせたれば、翁、うち笑みて取りつ)



●帯刀への返事


 あこぎは帯刀への返事もしたためます。

『昨夜は、おそろしく嫌なことがあったの。身の毛のよだつような出来事で、簡単には説明できないわ。あなたがここにいてくれたら、相談できたし、慰めてももらえたのに。あなたは来てくれなかった。ひどくがっかりしてるのよ、あたし。右近少将の君のお文は、なんとか、姫君にお渡しできたわ。――今、ここではとんでもないことが起きてるの。いろいろ聞いてもらいたいんだけど、とにかく、あなたの顔を見ないことにはね。惟成、早く来て!』

 


●あこぎ、遣戸に細工する


 さて。

 この日も暮れていきます。


 また夜になっちゃう。

 また爺さんが来ちゃう。

 何とかしなきゃ。

 あこぎは頭を悩ませます。

 姫君が閉じ込められている小部屋は、内側からロックできないのです。姫君を守るには工夫が要ります。


 どうしよう、どうしようと悩んでいるあこぎのところへ、典薬助がやってきます。

「あこぎよ、姫君のご気分はどうなのじゃ?」

「かなりお悪いようです」

「ふーむ……よくないのぉ……」

 典薬助は、姫君はすでに自分の妻、と勝手に決めこんでいるようです。顎に手を当てて、悩める夫、みたいな格好をつけています。

 この勘違いジジイ!

 またも、あこぎはムカツクのでした。


 典薬助は、今夜に備えてパンツを穿き替えるためでしょうか、自分の曹司へ戻っていきます。


 その少しあと。

 継母がはしゃいだようすで飛び回っているのを、あこぎは目にします。

「いよいよ明日ね。賀茂の臨時のお祭りで、蔵人の少将殿が行列に加わりなさるわ。いい場所をおさえて、三の君に見せてあげなきゃね」 


 あ、鬼ババたち、出かけるんだわ。

 脱出のチャンスかも。

 かすかな期待に、あこぎは胸をドキドキさせるのでした。

 今夜だけ、とにかく、今夜だけでも姫君が典薬助から逃れられたなら――と、あこぎは考えます。

 あの遣戸を開けられないように細工するには、どうしたらいいの?


 ピコーン!

 閃いた!

  

 あこぎは、遣戸のつっかえになりそうな物(薄板の切れ端のようなもの、でしょうか)を見つけてきます。

 それを脇に挟んで隠し持って、ころあいを待ちます。忙しそうなふりをしながら、姫君のいる部屋からなるべく離れないようにします。


 やがて。

「灯りをともせ」

 上級女房が声をかけて回ります。

 灯火をつける時刻が決められていたのですね。


 あこぎは、女房たちや童たちが立ち働くのにまぎれて、こっそり遣戸に近づき、細工をします。

 隠し持ってきた物を、遣戸と敷居の溝とのすきまに、くさびのようにくいこませたのです。典薬助に探りあてられないように、ぐっと押しこんでおきます。



●姫君、バリケードを築く


 一方、姫君も、ただぼんやりしていたわけではありません。

 部屋のなかにあった大きな唐櫃を、遣戸の内側に斜めにもたせかけるように置きます。あれこれ工夫して、唐櫃が動かないように押さえも利かせます。

「この戸を典薬助に開けさせなさらないでください」

 震えながら、姫君は神仏に願をかけるのでした。

 


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