好色爺さん、ラブレターをよこす
●あこぎ、文の取り次ぎに大忙し
継母が朝のパトロールに来るかもしれません。
あこぎは姫君のそばを離れ、自室へ戻ります。
「あこぎさん、お文が届いています」
女童のつゆが、帯刀からの文を手渡してくれます。
開封すると、姫君宛ての少将道頼からの文も同封されていました。
『そちらへ行ってみたけど、舎人どもが門を開けてくれないんだ。中納言殿に命じられているんだと思う。僕は姫君を盗もうとした怪しからん奴、ということになってるんだろうな。がっくりきて、右近少将殿のもとへ帰るほかなくて。薄情者と思ってるだろうね。少将殿もすごく落ち込んでおいでなんだ。辛いよ。少将殿のお文を同封するので、姫君に渡してほしい。なんとかして、夜になったらそちらへ行くからね。LOVE惟成』
あこぎは、同封されていた道頼からの文を手に、姫君のおそばへ急いで戻ろうとしたのですが――バッドタイミング。北の方が、小部屋の遣戸に鍵をかけているところでした。
残念!
出直すしかないわね。
あこぎは簀子(廊下)を引き返します。
「あこぎ――」
角を曲がったところで、あこぎを呼び止めたのは典薬助です。
なんだか嬉しそうです。歯磨きも髭剃りも着替えも、すませていないようです。はげちょろ髪は、むさくるしいままです。
「これ、急いでしたためたのじゃよ。姫君に宛てて」
「――?」
「後朝の文じゃよ。き、ぬ、ぎ、ぬ♪」
後朝の文ってのは、契りかわした男女が贈りあうもの。この爺さん、幸いなことに、契ってないじゃない。後朝なんてしゃれたものを贈る資格、無いでしょ。無くてよかったけど。
とは思ったものの、あこぎはにっこり笑って、受け取ります。
「お文、確かに、お預かりいたします」
よっしゃ、よっしゃ、ちょうどいい口実ができたわ。
あこぎは小部屋へ急ぎます。
「北の方さま――」
「屋敷のなかをばたばたと駆けるんじゃないよ」
「典薬助殿のお文です。姫君にお渡ししとうございます」
継母の顔に満足げな色が広がります。
後朝の文が来た、ということは、既成事実あり、と継母は考えたわけですね。
「典薬助殿が姫君を気遣われておいでなのだね。結構なこと。お互いに真剣に思い合うというのがよいね、やはり」
と言って継母は、たった今さした鎖を外して、遣戸を開けます。
あこぎは、さっと中へ入ります。
※この場面のあと、継母がこの場にとどまって姫君とあこぎの会話に聞き耳を立てたのか、あるいは、姫君とあこぎにとって好都合にも、この場から立ち去ってくれたのか――何も書かれていないので、わかりません。
●姫君、道頼の文にキュン
「姫君、右近少将の君からのお文ですよ。それと、あと、もう一通あります」
「どなたからの?」
「典薬助殿です」
「うっ……吐きそう。それ、後回し」
少将道頼からの文は、
『あなたはどうしているのだろう……。私は、逢えない日が続いて、悲しくてどうかなりそうなんだ。あなたの苦難を思って、涙で袖を濡らしているよ。あなたと私、これからどうしたらいいんだろう?』
なんとも、頼りなさ全開の手紙ですね。残念過ぎますよね。
――ところが、ところが。
こんな手紙ですが、姫君は「あはれ」と感じ入ってしまうのです。胸キュンなのです。(女、いとあはれと思ふこと限りなし)
少将道頼が自分の無力さを正直にさらけだしているところに、心動かされたのでしょうか。
姫君の返しは、
『身の不運を嘆いてばかりで、涙を流しに流しているので、涙の川にこの憂い身が浮いてしまうほどです。なのに、まだこうして生きているなんて。悲しくて、やりきれません』
姫君は、典薬助からの文は、気味が悪いので読まずにおきます。
「あこぎ、こちらへの返事は、あなたが私の代わりに書いておいて」
※この段には、細かいことながら、いくつか不明な点があります。
例えば、姫君は道頼への返事を「書いて」いるのですが、このときは硯と筆があったのか(前回のように針で書いたのではないのか)というような疑問です。
また、姫君とあこぎが筆談しているように受け取れる箇所もあります。やはり、継母が立ち聞きしているのかもしれません。
ま、「細けぇこたぁ、どーでもええがな」という姿勢で、読み進めたいと思います。
と申しつつ、どこかでまた、細けぇことをほじってしまうかもしれませんが。ずびばせん……。




