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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
38/105

綱渡りの一夜

●あこぎ、冷静に判断する


 姫君は生きた心地もしません。

「もう吐きそう……。あのご老人がまとわりついてくるのが、身の毛もよだつほどに嫌! あこぎ、私をこのまま閉じ込めて、外から鍵をかけてちょうだい。ご老人が中へ入れないように。お願い!」


「そんなふうにしては、あの爺さんが逆ギレします。今日のところは、やはり、機嫌を取っておおきなさいませ」

「…………」

「残念ながら、姫君と私は今、孤立無援状態です。右近少将の君も、嘆いているばかりで、どう動いてくださるのかわかりません。この小部屋に近づくことさえ、難しいのでしょう」

「…………」

 姫君はがっくり肩を落とします。


「姫君、もうこうなったら、神頼みです。仏頼みです。いっしょにお祈りいたしましょう」

「そうね。そうするほかないわね……」

 心の支えはあこぎと涙だけ。

 今夜、あこぎがそばにいてくれる。

 


●典薬助、焼石を持ってくる


 そこへ、典薬助が布にくるんだ焼石を持って、戻ってきます。

 ちっ!

 あこぎは舌打ちします。

 戻ってこなくていいのに。

「姫君~、典薬助めがご用意いたしましたですよ。ひょひょ。これをお胸にお当てなされ」

 姫君は、超絶複雑な気持ちで、焼石を受け取るのでした。



●典薬助の添い寝


「いかがかな? いかがかな? お体はぬくもってきましたかな? 典薬助めが、もっと温めて進ぜましょう」

 などと浮かれ言いつつ、還暦の爺さん、自分の装束の紐を解いて横になり、姫君を抱き寄せます。

 あこぎは、はらはらします。

 

 爺さんの腕に抱かれた姫君は、身をよじって、

「て、典薬助殿――い、いえ、私の大切なお方さま、ちょっとお待ちになってくださいませ。だめ、だめです。おやめになって。私のこの胸の痛み、起きて押さえていたほうが、しずまるような気がします。私のことを気遣ってくださるなら、今宵は何もなさらずに、おやすみくださいませ」

 爺さんをはねのけるように、起きあがるのでした。

 姫君には珍しく、額には脂汗までにじんでいます。必死です。


 あこぎもディフェンス側として、アシストします。

「典薬助殿。今夜だけ、我慢なさってくださいませ。今夜だけですから。何度も申しますが、今日は姫君の忌日です。ドゥ、ナッシング。ジャスト、ステイ、ゼア。ステイ! プリーズ!」


「ふむ。ほんじゃまあ、姫君、この典薬助めに寄りかかっていてくだされ。ほれ、ほれ。遠慮はご無用ですじゃ」

 典薬助はやはり横になったまま、姫君の手を取って自分のほうへ引き寄せます。体を姫君に密着させてきます。

 姫君は、いやいや、典薬助に寄りかかります。


 ジジイめ!

 あの筋張った腕に噛みついてやろうかしら。

 あこぎは典薬助を憎らしく思いますが、こっちの役に立ってもくれた、と思いなおします。

 今夜、典薬助がここへ忍んできたから遣戸が開けっ放しになっていて、自分もこうして、姫君のおそばに参上できたのだ。


 ほどなく。

 典薬助は寝入ってしまいます。やはり、老人ですね。いびきさえかいて、熟睡です。


 あこぎは考えをめぐらします。

 どうあっても、姫君をお連れして、ここを出ていこう。

 私も出ていくのよ、ここを。

 中納言邸から脱出するのよ!


「ひょ……ひょ」

 寝ぼけ声をもらして、典薬助が目を覚まします。

 姫君は、ぞっとして、芝居じみた悲鳴をあげてみます。

「あーれー! 痛い! 痛い! ああ辛い。動けない。動けませんわ」

「かわいそうに。この典薬助めがおそばにいる夜にかぎって、こんなに痛がりなさるとは。こちらも辛い。まっこと、辛い」

 そんなことを言ったものの、半ば夢うつつなのか、すぐにまた寝入ってくれたのでした。



●一夜が明けて


 綱渡りの一夜が明けます。

 姫君とあこぎは、二人して、Vサインを交換しあいます。


 あこぎは典薬助を突っついて起こします。

「夜が明けましたよ~、朝ですよ~、お爺ちゃん」

「ひょ? あ……朝か」

 もそもそ起き上がる典薬助です。

「早く出ていってくださいませね、このお部屋。で、しばらくのあいだ、昨夜ゆうべのことはマル秘でお願いします。姫君がそう望んでおいでなので。姫君とのことを末永くとお思いでしたら、姫君のおっしゃるとおりに、なさってくださいませ」


「うむ……そうじゃな。そのようにしよう」

 典薬助は寝足りないようすです。目ヤニでふさがっている両のまぶたをごしごししながら、腰もしゃっきりとは伸ばせないままに、よたよたと部屋を出ていくのでした。


ねぶたかりければ、目くそ閉ぢあひたる払ひあけて、腰はうちかがまりて出でてぬ)


 いかにも、寝起きの老人の姿ですね。マンボステップの気力はないようです。


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