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なんちゃって落窪物語  作者: fukuneko
巻二
37/105

好色爺さん、図に乗る

●医者の私が診て進ぜよう、ひょひょ


 夕食後、中納言はすぐに眠気をもよおします。老人の習性ですね。といっても、まだせいぜい五十代と思われるのですが。

 夫の中納言が早々と寝入ってくれたことは、典薬助を手引きしたい継母にとって好都合ではありました。さすがに、これから起きることを中納言に知られるわけにはいきません。

 

 そろそろ伯父の典薬助が忍んでくるはず。

 この目で見届けよう、と継母が姫君のようすを覗きにきます。

 すると、姫君は床に突っ伏して激しく泣いているではありませんか。


「おや。苦しそうじゃないか。どうしたのかえ?」

「胸が……胸が痛むのです」

 姫君は息も絶え絶えに答えます。

「そりゃ、かわいそうに。何かの罰が当たったのかもしれないねぇ。典薬助殿はお医者だから、てもらったらいい」

「い、いいえ! だいじょうぶです。ちょっと風邪気味なのでしょう。お医者さまに診てもらうほどでは、ないようです」

「そうはいっても、胸のやまいは恐ろしいもの。念のため――」


 と、そこへ、典薬助がやってきます。

「伯父上。ちょうどよいところへおいでなさいました。こちらへ」

「ひょひょ」

「落窪の君が胸を患っているようです。何かの罰があたったのかもしれませんが。診て、薬など飲ませてやってください。お願いします、ね」

 継母は典薬助に意味ありげな流し目をくれて、行ってしまいます。典薬助がいるのだから、と安心して、小部屋のじょうはささないままです。


 典薬助は、にい~っと笑います。

「私は医者なのですよ。あなたの病もたちどころに治して進ぜましょう。今夜からは、ひたすらに私を頼りに思うてくだされ。よろしいかな?」

 とかなんとか言って、姫君の胸元をさぐって柔肌に触れちゃったりするではないですか!

 好色爺さん、許すまじ!


 姫君は激しく泣きますが、典薬助の不埒ふらちな真似を制止してくれる人は誰もいません。

 ああ……なんてこと……!

 どうしたらいいの?

 絶望的な気分に追いやられ、泣きながらも、姫君はなんとか言葉を探します。 

「て、典薬助殿。とても頼もしく思い申しあげますが、今は、今は、なんだか頭がぼーっとしてしまって、何が何だかわかりませんので――」


「頭がぼーっと? どうしたんじゃろう? 病のせいじゃな。姫君の代わりに、この典薬助めが、病を患うことにしよう」

 爺さん、二枚目を気取ります。図に乗って、ひし、と姫君を抱きしめます。



●あこぎの助け舟


 典薬助は、もうあの小部屋へ入ってしまっただろうか? 

 気を揉みつつ、あこぎがやってきます。

 ――あっ!

 遣戸が細く開いています。 


 何を目にすることになるのか、と尻込みしたいような気もし、胸がしめつけられますが、あこぎは思い切って遣戸を引き開けます。


 典薬助が姫君を抱きかかえて、しゃがみこんでいます。

 キモい爺さん、来てしまったんだわ、やはり……。

 絶望的な気分に襲われながらも、あこぎは抗議します。

「今日は姫君の忌日きにちだと申しあげましたのに、お部屋へお入りになるとは、ひどいではありませんか」


「何を申すのじゃ。男女のことをしておったわけでない。お胸を診てさしあげよ、と北の方が姫君を私に預けなさったのじゃ」

 そう答えた典薬助は、なるほど、まだ自分の装束の紐も解かずにいるのでした。――ただ単に、老人ゆえに、うすぼんやりしていて、もたもたしていたからでしょう。若い少将道頼の早わざに、完負けしていますね。


 姫君は袖で顔を覆って、大泣きに泣いています。

 今夜のできごとが、姫君にはトラウマになってしまうのではないかしら?

 あこぎは姫君の不運に胸を痛めつつ、考えをめぐらします。

 とにかく今は、何とかして、この好色爺さんをここから追い出さなきゃ。


「姫君、患部を温めるのがよろしいかと存じます。焼石やきいし※など、いかがでしょう」

「え……? ああ……そ……それがいいわね」


「典薬助殿。焼石やきいしを一つ捜してきてくださいませ。私などが頼んでも、どなたも寝静まっておられますので、誰も用意してくれないでしょう。てゆーか、典薬助殿が持ってきてくださらないことには、姫君へのご愛情の証しが立たない、ってものでございますわ」


 典薬助は笑って、

「ひょひょ。そりゃそうじゃな。私はもう若くはないが、姫君が一途に頼ってくださるなら、それに応えたい。姫君がお望みなら岩山だって手に入れよう……とは思うが、それはちと難事じゃの。じゃが、焼石一つご用意するなど、たやすいこと。姫君への我が愛の炎で、石を焼いてみせようぞ」


 誰がこんな気持ち悪い長台詞を言え、と?

 あこぎはにっこり笑ってみせますが、ドン引きのあまり、頬が引きつってしまいます。

「まあ、典薬助殿、よくぞおっっしゃってくださいました。ならば、早よ、行け――いえ、お行きなさいませ。早ければ早いほど、まことの愛の証しとなりましょう」


 このように言われたからには、行かにゃならんな、と典薬助は思います。

 姫君はわしに心を開いてくれたようじゃから(うむ、あの信頼のまなざしを見ればわかる)、一安心じゃ。さあ、これから、わしのまことの愛の証しを立てようぞい。

 証し、証し~~♪ 焼石、焼石~~♪

 ひょこひょことマンボステップを踏みつつ、躓きこけつつ、典薬助は部屋を出ていきます。


※焼石――温石おんじゃくともいいます。炭火で熱した石を布にくるんで、懐炉として使います。

 

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